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第二章 宿屋の女将-innkeeper-

列車が過ぎ去ったあとのホームに広がるのは、広い泉を中心に広がる緑豊かな町の景色だった。

大きい通りでもそこまで人通りは多くなく、歩く人もほとんどが地元の者ばかり。

町の北側には、隣町ミッドのシンボルである城のシルエットが見える。

とても、賑やかで。そして。とてもゆっくりとした時間の流れを持つ町だった。


「兄さん! どうだい? 新鮮な果物だよ!」


渡された紙を見て宿屋を探すフリアに、声をかけてきたのは果物屋のおじさんだった。

右手に赤色の実を持っておススメしてくる。

しかし、残念ながら今のフリアにそんなお金は無く、


「すみません」


少し残念な思いをしながら、フリアは宿屋探しを続けた。

時には看板を見たり。時には人に聞いたり。

多少迷いながらも着いた宿屋は町の北側、ミッドに抜ける街道の近くの住宅街に、小さな庭と共ににひっそりと建っていた。

木でつくられた看板にはズバリ、『宿屋』と書かれておりそれを見て少し笑ってしまう。

なかなか見ないネーミングセンスだったからだ。

町を歩いてきていくつか宿屋を見かけはしたが、どこも何とか荘とか、宿屋なんとか、みたいな店名だったからだ。

それはもちろん、故郷のミルファでもそうだった。


扉を一度叩いてゆっくりと開く。

そこは、落ち着いた雰囲気のよくある宿屋だった。


「あら、いらっしゃい! 珍しいわね。ここに来る人なんて」


奥からこの宿屋のあるじであろう女性の声が響く。

それにしても、こんな分かりにくいところにあれば人が来ないのは当たり前だろう。


「さて、何泊してく?」


女性に聞かれて、フリアは少し戸惑った。

大きい街なんかにある安宿は訳有の者がよく来るからか、何泊と言っても特に不審な顔はされないのだが。

しかしこういうタイプの店では、やはり心配されたりしてしまうのだ。

取りあえず、一泊いくらなのか聞こうと口を開く。


「えっと、この店はどれくらいの……」


「ん? あぁ、値段ね。この店はちょっと特殊でね。値段はお客様に決めてもらうことにしてるの」


「は?」


そのシステムは、もはや特殊どころか異様であった。

思わずポカンと口を開けてしまったフリア。

フリアの表情を見て、女性は笑いながら言う。


「この店には出るのよ。だからね。慰謝料的なものかな。君もそれ聞いて、それでもきたんでしょ?」


何のことか全くわからなかった。

何が出ると?


「あれ、もしかして偶然見つけただけ……?」


止まったままのフリアを見てだんだん顔色を悪くする女性。

ハッと気づいたフリアは、わたわたと懐からこの宿屋の住所が書かれた紙を出した。


「あ、いえ。一応人に聞いてきたんです。この町へ向かう途中の列車で出会った老人にこの紙を渡されて……」


言いながら、女性に紙を差し出す。


「宿代が安いから良いだろうって……」


「このサイン……。そうか、あの人はいっつも……」


差し出された紙に書かれたサインを見て、はぁ、と溜息を漏らす彼女。

女性の中でなにか自己完結したようだ。


「大丈夫。このサインは私の知り合いの筆跡だわ。あの人なにも説明しなかったみたいでごめんね」


「あ、いえ」


「さて、改めましてようこそ。私はこの宿屋の店長リーサよ。まだ20代だからね!」


20代の部分を強調していう女性もとい、リーサ。


「まぁ、お詫びよ。昼以外は食事出させてもらうわね。──お客様。何泊しますか?」


「それでは、5泊お願いします」


背筋を伸ばして聞いてくるリーサに、フリアもピシッと背筋を伸ばして答える。


「分かりました。部屋番号は2番二階の突き当りです。外出時は鍵を返して外出してください」


「よろしくお願いします。……プッ」


笑いをこらえきれなくなったのか、吹き出してしまうフリア。

先ほどまでタメ口だったのだ。それがいきなり二人とも敬語になって。

フリアが笑い出したのを皮切りに、二人とも腹を抱えて笑い出す。


「あはははっ! おかっしー!」


「なんでいきなり……!」


この日、宿屋には長いこと笑い声が響いたとか響かなかったとか。

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