第一章 起点-Starting point-
半ば強引に家を出てから約一週間後。
フリアはフラフラとそこらの安宿に泊まっていた。
宿の中には日数指定をしなければ泊めてもらえないところや、またその真逆になにも聞かず泊めてくるところなど、様々な宿があった。
どこも一日泊まっては次の宿へ、を繰り返していたある日。
もういい加減何かをしなければ、という焦燥感に駆られ街を駆け巡っていたとき。
フリアの目に留まったのは、自分のことを聞いて回るルエの姿だった。
なんとなくその場を早足で去る。
どうしてそんな行動をとったのかは、フリア自身分からなかった。
ただ怖かった。
見つかるのが。今の自分を見られるのが。
だから、彼は早足でその場を離れた。
その時のフリアの心中は、ただ一つの思いで埋まっていた。
──もう、この町を出よう。
それを決意した後の行動は早く。
取りあえず駅へ行き、今の手持ちで行ける一番遠くの街の切符を買って列車へ乗り込む。
列車の中には着飾った少女や、期待に瞳を輝かせる少年。それを見守る礼服の老人。
どれも、彼には今まで縁のないことだった。
町の外に出るのさえ初めてなのだ。
彼が住んでいた町はかなり大きめの都市だった。
すこし大通りへ出れば人がごった返しており。居並ぶ店たちにはたくさんの買い物客。
もちろん地元の人間ばかりでなく観光客も大勢いた。
そんな中。フリアは早くに両親を亡くした。
そのあとすぐに今の家族のもとへ引き取られ、家族の一員として育ってきた。
迷惑をかけないように自分自身しっかりと手伝いなどはしたし、なにより彼らは優しくしてくれた。
ルエの兄だって、何かと暇を見つけては遊び相手になっていてくれた。
だからこそ、彼女たちの母が亡くなったとき。
これ以上迷惑をかけるわけにはいかないと思ったのだ。
確かに今更だし、自分が家を出るよりいい就職先に入って養っていく方が良かったかもしれない。
元気づけてあげればよかったかもしれない。
あんな強引に家を出る必要なんか、なかったかもしれない。
だけど、フリアは自分自身で家を出るという選択肢をとった。
それは彼にとっての一つのけじめだった。
「少年。座ってもよいかの?」
二人掛けの席が向かい合うようにして置いてあるボックス席に座っていたフリアに、しわがれた声で尋ねてきたのはシルクハットをかぶっている、いかにもな雰囲気の老人だった。
老人はフリアの頷きをみて、彼の前へと腰かける。
「すまんのぅ。どこも家族連ればかりで座れる場所がなかったのじゃ」
「それはそれは。座るところが空いていてよかったです」
多少言葉に棘があるものの、丁寧に返事を返すフリア。
こういうところは、彼の生真面目さを表す要素の一つと言ってもよかった。
「少年の行先は?」
「少年はおやめください。僕はフリアと申します。行先はリンブルムの街です」
「ほう? その一つ先のミッドではなくリンブルムとは珍しいな。確かにリンブルムから歩いてミッドに向かうものもおるが」
「ただ、所持金の問題なんです」
そうか、と老人は頷く。少し考えるそぶりを見せた後、彼は懐から一枚の紙を取り出した。
それをフリアに手渡し、
「ならば、ここの宿屋がよいじゃろうて。宿代も安く、それに私の知り合いが経営しておる宿屋じゃ。信頼はできるぞ」
「これは……。ありがとうございます」
フリアは手渡された紙を見る。
そこには店名と店の住所が書いてあり、下の方に老人のサインであろう文字が書かれていた。
この老人が何者か分からない以上完全な信頼は無理だが、せっかくだし、ということでフリアの当面の目的はこの宿屋へ向かうことになった。
彼は小さく老人へとお辞儀を返す。
それを見た老人は小さく微笑んだ。ような気がした。
電車はそのままガタガタと揺れて、窓の外の景色は一定のスピードで流れていく。
鈴の音がなり車掌の声が聞こえた。
それはもうすぐリンブルムに着くということを示していた。
ゆっくりとスピードを落としていく列車。
フリアは無言で席を立つと駅のホームへと出る。
その内心は、初めての景色に心躍っていた。
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