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NEETは交渉に弱い

「ち、ちょっと待ってくれ!」

顔に当たる未知の感触をしばらく味わいたかったが、理性がすこぶる働いているようで俺は後退りして離れる。

「意味がわからん!」

俺は今持ちえる最大の言語能力を発揮して、その気持ちを伝えた。

「何も臆する事はないぞ、ニート。社会はお前が思っているより楽しいものだ」

腰に手をあて、蔑むような視線を送り続ける女は、すっと手を差し伸べ優しく微笑んだ。

「一緒に来い」

しばらく家に引き篭もっていたという事もあり、こんな風に同い年くらいの女の子と話すのは久しぶりな気がする。

それでも、

「嫌だね、今更俺みたいなゴミが社会に出て歩いても恥を晒して生きていくだけのようなものだろ」

胡坐あぐらをかいて、女の視線から逃れるようにソッポを向く。

「ふむ……」

女は少し考える仕草を取って、続けた。

「お前は何を糧に生きて、何の為に生きているんだ?」

「……毎日の堕落を糧にだよ。堕落が俺を停滞させるんだ、そして、その停滞を守るために生きている。ただそれだけ、別に生きていようが死んでいようが関係ない」

親に迷惑をかけて、家族に迷惑をかけて、俺はそれでも呑気に生きているんだ。

「生きていようが死んでいようが同じ……か」

哀れむような目で、優しく見つめられる。

胸が少しキュッと締め付けられた。

「な、なんだよ」

「だったら、その有っても無くても変わらないお前という存在を私に貸してくれ」

「貸す?」

「お前がいれば、少なからず私だけは大いに助かる。単位も取れるし、信頼も得られるんだ」

なんだよそれ。

「自分勝手だな」

「そうだ、自分勝手だ。それゆえに、お前には絶対に来てもらう。お前は誰かの為に生きてみるべきなんだ」

「誰かの……為?」

最後に誰かの為に何かをしようとしたのはいつだったっけ?

未だに目の前のニート使いは手を差し伸べている。

この手を取ったら俺は変われるのだろうか。

久しく忘れていた、人の感触を思い出した。


おっぱい。


下賤、下賤これが俺の思考回路。

森羅万象、世界の真理、揺るがない、おっぱいだけは……何があっても揺るがない。

「そのレンタル料は勿論払う」

少女は手を取れと言わんばかりに目の前まで差し伸べて、くいくい、と指を動かす。

「レンタル料?」


「あぁ、私が愛してやろう。お前みたいな……もろ出しを」

顔を赤らめて言う台詞じゃねぇだろ!

いや、赤らめるべき台詞なのかもしれないが、自分の捏造した事象で赤らめられても困る。

何度も言うが、どこも出してないからな。

しかし、俺の理性は断固たる決意を持っている。

そんな甘い誘惑に動揺はしない。


「愛すって……い、一体全体、な、何を言って、るんだ、よ」


動揺するのは仕方ねぇだろ、ちくしょう。

「そのままの意味だ。お前が今までニートをしてた期間に味わうべきだった青春を私が払ってやるというのだ。お前がスク水の女子を見たかったというならば、私は一晩考えてもいい」

それは素晴らしい!!

「一晩考えて断るけどな」

だったら始めから言うなよ。

でも……俺が変わる為には、こんな滅茶苦茶な展開も有りなのかも知れない。

もうこのままだと思っていた。

親のすねかじり、齧り、齧り、齧り尽くす。

「親の脛齧り虫になる夢だって見たんだ……」

遠い日を夢見るような、そんな虚ろの目を俺はしていたのかもしれない。

そんな俺を見て。


「気持ち悪いな……」


と、何の容赦もなくニート使いは一歩下がった。

…………傷付くなぁ。


「……了解した」

俺のニートに対する執着心なんてこんなもんだったのか、否。

これは俺の人生への執着心なのだろうか。

「よし、交渉成立だな」

「いや、待て! まずは一日体験だ。内容によって俺は破棄する」

手を取ったその手は柔らかく、温かかった。

「いいだろう。絶対気に入ってくれると思うぞ、あの学校は」

……学校?

「まずは入学手続きをしろ」

そう言って、もう一枚謎の紙をニート使いはポケットから取り出して突き出す。

ちょっと……。

「ちょっと待ったあああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


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