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踊れ その果てで*エデンの園  作者: 河野 る宇
◆第3章~命の探求
8/15

*ショーの開始

 次の日、カイは例のショーのためモニタールームを訪れた。

「やあ、格好良くなったじゃない」

 真仁まひとは、無精ひげの無いさっぱりした戒の姿に口角を吊り上げる。

「言ってろ」

「鉢合わせしたら無条件で戦闘開始ね。クローンがそこにいたら殺してもいいから」

「そうか」

「今回のターゲットじゃないから、クローン1匹につき0.5ポイントだけどね」

 真仁の言葉を聞きながら、戒は武器を確認していく。

 両足の太ももにレッグホルスターでリボルバーを2丁、腰には背後にバックサイドホルスターにオートマティック拳銃P226を2丁。

 そして、ショルダーホルスターの左脇にデザート・イーグル1丁を仕舞っていく。

 刃物はいつものように、美しい波形のクリスダガーだ。

「また新しい武器かい?」

 戒の右の腰にぶら下がっている武器を見つけて、青年は嬉しそうに問いかけた。

「警棒?」

 首をかしげている青年の目の前で、その30㎝ほどある棒状のものを手に取り正体を示す。

 金属音を響かせ、それは1m50㎝ほどに伸びる。

「! こんか」

 戒はそれを2~3度振り、元に戻す。

 いつもよりカートリッジと武器の数を増やし、牧場に向かった。



「彼は知ってるのか? 自分たちが賭けの対象にされていること」

 モニタールームで、部屋の正面の壁に掛けられている大きなディスプレイを眺めながら直貴なおきが発した。

「知らないワケないでしょ」

 真仁は相変わらずのニヤけた顔で応える。

「時間制だっけ」

「うん。4時間以内に何人ハンターを殺せるか」

 そして思い出したように直貴を一瞥し、戒の顔をアップにして示す。

「ね? カッコイイだろ」

「ん? ああ、まあな」

 女の客が増えそうだ。

 直貴はそう考えてあごをさする。

 今回は誰が生き残るのかも賭けられる事になった。リアルタイムで変動する倍率を横目で見ながら、開始の時を待つ。

「戒は生き残るかな?」

「生き残るよ」

 男の問いかけに、真仁は当然のように発した。

 それは確信──彼が生き残らないのなら、彼以外は全て死ぬ。青年はそんな顔で画面を見つめた。

「そういや、面白いツールを頼まれたって?」

「うん、赤外線カメラをね」

 直貴はそれに、「さすが元特殊部隊」と口笛を鳴らした。

 赤外線カメラを使いこなす技術を持っている戒に感心する。



 太陽は真上よりやや斜め、14時を少し回ったところか。

「……」

 戒は、開かれた扉に吸い込まれるように体を滑り込ませた。

 いつもと同じ高い塀は、広大な敷地内にあっても反対側の壁が薄く視界に捉えられる。

 全てを遮断された世界──獲物として殺されるだけの存在、風俗や玩具としてのクローンなら、それなりの教育は受けられる。

 だが、ここに詰め込まれているクローンたちは『家畜』として生かされているだけだ。

<前方にハンターがいるよ>

「!」

 真仁の声にハッとする。

 感傷に浸っている時じゃない、戒は頭を軽く2~3度振って思考を切り替えた。

 今回のターゲットは、識別チップを持たないハンターだ。

 気配を探る他に見つける方法は……戒は思考を巡らせてヘッドセットのボタンを押した。

 右目のディスプレイの画面が赤に変わる。

 人がいる場所が、その形に真っ赤に表示された──チップを埋め込まれているクローンなら、赤く表示される他にチップの識別信号が出る。

「こいつは違う。! そこか」

 言うが早いかリボルバーを素早く引き抜き、出会い頭に引鉄ひきがねを引いた。

「がふっ!?」

 銃弾は男の頭部に命中し、派手に血しぶきを上げてつっぷす。転がった死体を一瞥して再び歩き出す。

 気配を探りつつリボルバーを握りしめ、少しずつ足を進めた。

 相手はクローンではない、対抗し抵抗する武器を持ったハンターだ。

 戒はそう言い聞かせ、無駄の無い動きで確実にその足を前に踏み出した。



 モニタールーム──

「まず1人か」

 真仁はディスプレイを見つめ、ぼそりとつぶやく。

 今までにない慎重な戒の動きに、その瞳を潤ませた。

 やっぱり、素晴らしいね……口の中で発する。

 狡猾でなめらかな黒豹は、小綺麗にしたせいもあってその存在感をさらに高めていた。

「君が言ってくれたおかげだよ」

「どういたしまして」

 画面を見つめながら発する真仁に直貴はしれっと応えて、乾いた会話を交わす。

 戒の所属していた特殊部隊は確かに、ずば抜けた精鋭ばかりを呼び集めて組織されていた。

 部隊が解散となり、自衛隊に残る者、戒のように辞める者、辞めて海外の傭兵部隊に入る者と、それぞれだ。

 彼と同じく、ハンタードッグになった者も多くはない。

 かつての仲間を戒は殺した事がある。

 そこにはもう、深い悲しみも情も、何も無かった。

 仲間にポイントを譲ることも出来た。

 だが、同じ部隊にいた仲間なら自分を殺してくれるかもしれない──そんな淡い期待を抱いたが、生き残ったのはいつも自分だった。

 その壮絶な闘いは、今でもハンタードッグの間で語りぐさとなっている。

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