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踊れ その果てで*エデンの園  作者: 河野 る宇
◆第2章~修羅の中に
6/15

*その理由

 その顔は「そんなコトも解らないの?」と言っているようで、直貴なおきはややムッとする。

「そうだね」

 真仁まひとは、彼の魅力をどう伝えようかとしばらく思案した。

 そして、おもむろにパソコンの1つを操作し映像を映し出した。

「よく見てね」

「……?」

 そこに移されているのは、カイのVTRだ。

 背後からクローンに忍び寄り、口を塞いで後ろから腕を回し胸にナイフを突き立てている。

「ほら! ここ。クローンの腕」

 一端VTRを止めて、指を差す。

「痙攣してるな。それがどうした」

 真仁はその映像を確認させ、得意げに話し始めた。

「この時、クローンはもう死んでるんだよ」

「! なんだって?」

「彼は意図的にカメラに写るように、痙攣けいれんさせてる」

「そんなことが可能なのか?」

 直貴はディスプレイを再び見つめた。

「カメラの角度が悪い時は、ヘッドセットに仕込まれているCCDを使うんだ」

 彼は人体の構造を熟知してるんだよ……真仁は淡々と続けた。

「どういう刺し方をすれば痙攣するかとか。どんな撃ち方をすれば自然に体が震えるのかとか。特殊部隊にいた時の訓練でね」

「?」

 その言葉に直貴は首をかしげた。

「彼がいた特殊部隊は、隠密行動おんみつこうどうをメインとしていた部隊だよ。その逆を学ぶってワケ」

 いかに速やかにターゲットを沈めるか。作戦を遂行出来るか──出来る限り動かないように仕留めるためには、人体について学ばなくてはならない。

 クローンは、その技術が開発された時代よりも安価に作成可能となった。

 それにより世界情勢も多少の変化を見せ、日本もそれに合わせた団体を秘密裏に組織したが、実際の処は大して利用価値もなく経費がかかるだけだと判断し戒のいた特殊部隊は解散の決定がくだされた。

「他にも何人か特殊部隊に所属していたハンターはいるけど、戒ほどの腕は無い」

 まさに、天性のものだね。

 青年は目を細めてささやくように発した。

「派手な殺し方はしないけど、生物の最後の断末魔を彼は映し出すんだ」

「コアなマニア向けって訳か」

「そういうコト」

 あの動きは他のハンターには見られない。

「お得意さんたちからは、ジャッカルとか黒豹とか。『ニンジャ』って呼ばれてるみたい」

「ニンジャ?」

 直貴は眉間にしわを寄せる。

「外国人のお客もいるんだ」

「ああ……」

 なるほど、と感心する。

「使ってる武器も他のハンターとは違う。そこに新鮮さを感じるらしい」

「変態どもの感覚なんて俺には解らんね」

 肩をすくめて発した直貴に小さく笑う。

「彼のクローンが欲しいって言った客もいたけどね」

「! 造ったのか?」

「いいや」

「どうしてだ?」

「大金を出すと言った客もいたけど、そうすると『こっち』の稼ぎが減ってしまう」

 怪訝な表情を浮かべた男に、視線を合わせず応えた。

「? 狩りと玩具は違うものだろ?」

「人はどこで満足するか解らない。新しい楽しみを知って、方向転換しないとも限らないだろ?」

 その時だけの金よりも、継続される金の方が大事なの。真仁は薄笑いで語った。

「まあ、彼が死んだらクローンでも造って売りさばくよ」

 この時代、クローンをある程度まで成長させる事が可能である。

「しかし……」

 直貴は眉をひそめ、ディスプレイを一瞥したあと真仁に発した。

「見た目はもっとマシにしろと言っておけ」

「? そう?」

 キョトンとした青年に、呆れたように溜息を吐き出す。

「もっと食べさせろ。それと、ひげも剃れと言え」

「ああ……それもそうだね。ヒゲを剃れば、なかなかイイ男なんだよ彼」

「その方が客も増える」

「言っておくよ」

「タバコをめさせれば太り出す」

「ん~、それ難しいね。戒に至っては」

 困ったような顔をして頭をポリポリとかく真仁に、直貴は少し睨みを利かせる。

「タバコには味覚を鈍らせる毒物が入っている。だからタバコを止めれば──」

「戒の吸ってるタバコには毒物は一切いっさい、入ってないよ」

「! なに?」

「だから、あれはクソ不味いタバコなの」

「なんだってそんなモノ吸ってんだよ」

「ボクが知るワケないだろ」

 禁煙用ならば電子タバコがある。しかし、戒の吸っているタバコは煙が出るだけの無害なシロモノだ。

 味も臭いも格段に不味い。

 タバコを吸っていない俳優がドラマに使用するタバコである。ユニークアイテムとして市販されているタバコで値段は安い。

「でも、彼のタバコ吸う姿はカッコイイと思うよ」

 クールで渋いと応える青年に、直貴は眉間にしわを寄せた。

「お前、奴に惚れてるのか?」

「ボクにはそんな趣味無いよ」

 でもまあ……と付け加えた。

「彼なら、抱いてみたいかも」

「!?」

 青年の言葉にギョッとしながらも、自分の想像とは逆の言葉が返ってきたことにも驚いた。

「何?」

「いや……なんでもない」

「ボクを変態にしないでくれよ」

「解ってるよ」

 男が部屋を去ったあと、真仁は戒の映像を見つめてニヤリとした。

「明日が楽しみだね」

 仕事の終った戒を確認し、彼のヘッドセットにつながる通信ボタンに指を当てる。



「なんだと?」

<さすがに今日中には太れないだろうけど、ヒゲの方はよろしくね>

「そこまで俺に命令する気か」

<それくらいの要求は聞き入れなよ>

「……チッ」

 牧場から出て、通信の切られたヘッドセットを乱暴に外す。

 腹立たしげに建物に入り、いつもの部屋のドアノブに手をかけた。

「戒!」

 そして、いつもの青年の笑顔が彼を迎える。

 紙コップにコーヒーを注ぎ、タバコを1本、取り出す。

 翼は、そのタバコをいつも不思議そうに眺めていた。その臭いと煙の色で、無害なタバコだと解る。

 戒は椅子に腰を落とし、タバコに火を付けて目を細めた。男は元々、喫煙者ではない。

 このタバコを吸い始めたのも、死んだ恋人のひと言からだった──

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