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踊れ その果てで*エデンの園  作者: 河野 る宇
◆第4章~傷跡のありか
13/15

*終焉の時-しゅうえんのとき-

 それから1ヶ月が過ぎ──

「えっ!? カイが?」

 翼は、仲間から聞いた話にモニタールームに駆け出した。

真仁まひと!」

 勢いよく扉を開くと、戒と真仁が視界に入り一瞬、喉を詰まらせる。

「翼クン、どしたの?」

 飛び込んできた翼にやや驚き気味に問いかけた。

「戒、仕事辞めるってホント?」

 ゆっくりと近づきながら、2人を交互に見つめた。

「ああ」

「残念だよねぇ」

「……っ」

 翼はその後の言葉が見つからず、しばらくふさぎ込んだ。

「これからどうするの?」

 声を詰まらせながら戒に発する。

 その問いかけに、戒は翼を見下ろし視線を宙に移した。

「モンゴルにでも行ってみようとな」

「モンゴル?」

 どこまでも続く大草原──戒の脳裏に、その壮大な景色が浮かぶ。

「引き留めようと思ったんだけどね。だめだったよ」

 真仁は肩をすくめて薄笑いを浮かべた。

「今までよく貢献こうけんしてくれてたし。ポイント換金も多めにしてあげる」

「すまんな」

「惚れた弱みかな」

 戒を少し見上げ、顔を近づけた。

「い゛っ!?」

 翼は勢いよく後ずさり、その光景を凝視した。

「……」

 真仁は、およそ10秒ほど戒の唇を味わうと口の端をつり上げた。

「これで君を忘れない」

 潤んだ瞳でつぶやいた。

 戒の記憶を焼き付けるために、決して忘れないように──真仁は、眼前の男を見つめる。

「男とキスしたの初めてだけど、案外いいもんだね」

 唇をペロリと舐め、しれっと言い放つ。

「……」

 翼は何も言えず、じっと立ちつくす。

「ボクは変態じゃないぞ」

 真仁はそれに眉をひそめて応えた。

「あ、うん」

 充分、変態だと思うけど……という言葉は飲み込んだ。

「君の望みは叶わなかったようだね」

「!」

 真仁が静かに発すると、戒はそれに視線を泳がせた。

「君には無理だよ」

 そんな戒を見て真仁は小さく笑う。

「どうしてそう思う」

「だって──」

 君は、優しすぎるから……例え己の命でも、奪う事が出来なかったんだよ。と真仁は緩やかな瞳を向けた。

「……」

 戒は苦い表情を浮かべたあと、目を閉じて薄く笑う。

「これまで大勢殺してきた人間に言う言葉とは思えんな」

「他のハンタードッグに殺されるより、彼らは幸せだったよ」

 苦しまずに死ぬ事が出来たんだからね。

 真仁は皮肉混じりに言い放つ。

 死ぬ事が定められたクローンたち──彼らに生まれた意味は、あったのだろうか?

 いや、意味などどうでもいいんだ。それはこれから見い出すかもしれない、見つけるかもしれない。他人が決めるものじゃない。

「君を殺せる人間なんて、いると思ってた?」

「!」

 笑って腕を組む真仁に戒は眉を寄せたが、すぐに視線を外す。

「解ったから、諦めたんじゃないの?」

「さあ、どうかな」

 叶わなかった俺の望み。だが、別のモノを得た感覚だ。

「生きていて──」そんな、菜都美なつみの声がした気がした。

 聞こえるハズもない声に、俺は従おうとしている……。

「お前も、こんな仕事からは早く足を洗え」

 戒は翼の頭にポンと手を乗せ、小さく笑った。

「戒……」

 緩やかな瞳を翼に下ろし、次に真仁を険しく見やる。

「あんたも、そろそろお開きにした方がいいんじゃないか」

「そうだね。ボクもそう考えていたよ」

 君がいなくなったら途端につまらなくなりそうだし……と真仁はニヤけた顔を見せた。

 戒はそれに応えるように、口の端をつり上げる。

「止めなくて良かったのかい?」

 去っていく後ろ姿を見送ったあと、翼に問いかけた。

 翼はしばらく無言で目を伏せ、意を決したように顔を上げて真仁に向き直る。

「真仁、僕も頼みがある」

「何かな?」

 その瞳の意味を知っているかのように、真仁は優しく聞き返した。

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