*揺らぎ
そうして笑みをこぼしたあと、苦い顔になる。
戒が何故この仕事をしているのかをいくら考えても、同じ答えにたどり着く。
「そんなの、だめだよ」
薄暗い空間に、青年の声が小さく吸い込まれた。
「……っ」
何かを決意したのか、目尻を吊り上げ冷たくなったコーヒーを一気に飲み干して、部屋をあとにした。
人がほとんど通らない通路は、ハンタードッグたちが集まる部屋と同様に薄暗く冷たく翼の足音を響かせる。
しかし──モニタールームはもうすぐというところで足が止まってしまった。
「行ってどうするんだよ」
真仁になんて言うのかなんて考えてないし。どう言っていいのかも、自分が何を言いたいのかも解らない。
真仁を見たら、訳の解らないことをまくし立てるだけのような気がしてきた。そもそも、どうしてそこまで戒のことで自分がしゃしゃり出るのか訊かれても応えようがない。
「だめだねこりゃ」
翼は、静まりかえった通路で溜息混じりに薄く笑った。
どうにもまとまらない自分の感情に、つい飛び出してきたものの、吐き出せない苦しみに自身の胸ぐらを掴む。
「何やってんのかなぁ、僕は……」
溜息を吐いて肩を落とし、自分のアパートに足を向けた。