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*囲いの中
*瀬田一郎さま製作協力。続編もあるので皆様どうぞ読んでみてくださいですです。
「……」
男は目を眇め、高い塀を見下ろす。
塀の中はとても暗く、夜だというのに街灯も無い。
灰色に塗られた塀の上部に一定距離で設置されている、薄暗いLEDライトだけが中に向かって照らされていた。
男の手の中にあるグラスには琥珀色の液体が注がれていて、乱雑に割られた氷が浮かんでいる。
その液体をぐいと飲み干し、ベランダから見える風景と星空を一瞥して部屋に滑り込む。
「!」
部屋に入ると、リビングテーブルに乗せられた携帯端末が震えていた。
男はそれに軽く舌打ちをし、乱暴に手に取る。
<戒、仕事だよ>
「少しくらいゆっくりさせろ」
聞き慣れた若い男の声に眉を寄せる。
<仕方ないだろ>
簡素に言い放ち切られた通話に再び舌打ちをした。
色あせた肩までの黒髪と、赤が濃く映し出された黒い瞳は、まるで血が固まったような印象を与える。
男は、かけられている薄い生地で作られた草色のコートを奪うように掴み、部屋をあとにした。