堤防
午後の電車は意外と混んでいた
オフィス街では見ない雰囲気の人たち
スーツを着た私が浮いている
それでも少しずつ人は減ってきて
一緒の駅で降りたのは3人
あの頃のまま、全てのものが
ちょっとずつ小さく見える
校門は閉ざされている
一輪車でよく転んだ道が見える
フェンス沿いに一周してから
記憶を頼りに歩いていく
石ころを蹴りながら
片道1時間かかっていた通学路は
犬小屋も鶏小屋もなくなっていて
たったの20分で着いてしまった
番号が書かれた箱みたいなアパート
5階建てなのにエレベーターはまだない
壁はきれいに塗り直されていて
間違ったところに来てしまった気持ちになる
502号室には別の表札
でも、ふと目に止まった側溝のふたが
つまずいて転んだときと全く一緒で
私は胸をなでおろす
なぜかラジオ体操を思い出す
堤防に向かってまっすぐのびる道
霧雨が強くなって傘をさした
突きあたりには小さな公園
見慣れた鉄棒と水たまり
逆上がりの記憶がかすかに蘇る
すべり台の下を通りぬけて
堤防の欠けた階段をのぼっていく
海の匂いはしない
堤防のうえに立つと
見渡すかぎりの家とビル
海岸線はどこにあるか分からない
私は目が離せない
規則正しく並ぶ家を見ながら
潮干狩りをした日のことを思い出す
目を閉じる勇気はない
堤防のうえを歩いていく
私は少しずつ現実を受け入れる
たぶん私は知っていた
こんなにも変わっていることを
だから私をここに連れてきた
この堤防に立たせるために
私ははっとして後ろを見る
家々は静かに霧雨を受けている
真新しい屋根を光らせながら




