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オレ用の肉

作者: 安祥

オレ用の肉


大体6時過ぎにスーパーに行くんだ。そうするとオレのために店屋が用意した生鮮品がある。「ぼくたちに明日はないんです」コーナーには、枯れかけ腐りかけの野菜が陳列されている。

(今日はこれを食えということだな)

オレは選べない。むこうがオレを選ぶんだ。

冷蔵庫がないから、腐りかけでも大丈夫。冷蔵庫などはまやかし装置だ。チューブでつながれた老衰昏睡の延命程度には。

人はなにかを選べると錯覚している。間違えても保存がきくと誤解している。オレはもはや、そんな世界には住んでいない。


「おつとめ品」の赤いシールもオレ用だ。この赤札は、血を流しながら、誰かにおつとめしているらしい。

「おい、ちょっと待てよ、そこのお前。俺を見ろ。通り過ぎるな。俺を買わないか。そうしないと、俺死んじゃうんだぞ。切腹だ。腹にカタナが刺さってる。痛いんだぞ? だから買え」

そんな手前勝手な主張が聞こえる。

波長が合えばDEALだが、そうでなければ廃棄処分になるのかもしれない。だがそんなこと、オレはしらない。オレは無慈悲だ。


お肉のコーナーでも、オレ用のものたちが待ち構えている。「半額シール」しか買わない。

(ムオウ。牛のこの特殊な希少部位が463円とな)

(オイ! オレの好物のブタのスペアリブが半額だぞ)

毎日がワンダーランドだ。

この美しい世界には、オレ用の寝床があり、オレ用の食い物も用意されている。散歩すれば冬の大地が育む赤。空の薄い青に流れる筋雲。雪を降らせろ、フローズン・ホワイトだ。


ビデオなんか要らない。世界はインタラクティブで、全てが書き換え可能だ。

春雷とどろく空に、地上から迎えの電流が上っていくのが見える。雲の下に溜まった電気が落ちるべき場所はここだと。

そこには、焼け焦げて真っ二つに割れた木の幹しか残らないのかもしれない。

それは遊園地のロープウェイ制御シーケンサーを全滅させるのかもしれない。


しかしながら、今はそんな時代じゃない。

量子物理学の量子もつれが喧伝される。

あのシジギーには、時空がない。

だからミニマリズムの最終形態は、無限。




参考図書

Gilles Deleuze "Difference & Repetition" Columbia Universety Press New York




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