第8話:一ノ瀬軍団、余白に侵入! ~ママチャリ対ヘリコプター、勝負になるわけないでしょ!~
全3000話(予定)の超大作、第8話です!
物語の「余白」に逃げ込み、佐藤君と二人きりで宿題……なんていう、甘酸っぱくて平穏な時間は長くは続きませんでした。
一ノ瀬君の「王子様特権」は、ついに世界の次元の壁さえも破壊し始めます。
物理法則も道路交通法も無視した一ノ瀬軍団の襲来に、結衣と佐藤君はどう立ち向かうのか。
今回は、ママチャリで空中戦(?)を挑む、怒涛のアクション回です!
真っ白な世界に、バリバリバリという耳を劈くような轟音が響き渡った。
空(といっても境界のない白だが)を見上げると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
「……は? 嘘でしょ?」
真っ白なキャンバスを切り裂いて現れたのは、真っ赤な塗装が施された、巨大な戦闘ヘリの編隊だった。
機体にはこれ見よがしに『IKEMEN-AIR FORCE』とデカデカと書かれている。
「ちょ、ちょっと佐藤君! あれ、どう見ても軍用機よね!? 私たち今、少女漫画の世界にいるのよね!? ジャンル、間違えてない!?」
私が全力でツッコミを入れるが、ヘリからは拡声器を通した一ノ瀬の、あの高慢な声が響いてきた。
『結衣ィィ!! 逃げられると思うな! 俺のバカンスからは、神だって逃げられないんだよ! さあ、今すぐその薄汚いチャリを捨てて、俺の胸に飛び込んでこい! 上空300メートルからパラシュートなしで迎えに行ってやる!』
「死ぬわよ!! 迎えに行くっていうか、それはただの投下作業でしょ!」
佐藤君は落ち着いた手つきで眼鏡をかけ直し、万年筆を握り締めた。
「落ち着いて、結衣さん。……一ノ瀬の親が、この物語の出版社の最大株主だという設定が、今この瞬間に『実家の財力』というスキルとして最大出力で発動したんだ。……あいつ、この『余白』を買い取って、強引に『一ノ瀬ランド・南国支店』という背景に書き換えようとしている」
「そんなのあり!? 札束で次元の壁を叩き壊してるじゃない!」
「逃げるよ。……自転車のスピードを上げる。結衣さん、俺の首にしっかり掴まって!」
佐藤君が万年筆で地面に『加速(BOOST)』という文字を刻んだ瞬間、錆びついたママチャリのスポークが青白い光を放ち始めた。
次の瞬間、G(重力)が私の体を押し付ける。
「きゃああああ!!」
ママチャリは時速100キロを超える速度で、真っ白な空間を滑走し始めた。
対する上空のヘリ部隊からは、大量の「ピンク色のバラの花びら(※粘着性のある特殊素材)」がミサイルのように発射される。
「待ちなさいよ! なにあのピンクの弾頭! 当たったらどうなるの!?」
「あれは『強制ロマンス拘束弾』だ。当たった瞬間、君の心は一ノ瀬に対する『……あれ? 意外と強引なところも素敵かも』というバカな感情で上書きされる!」
「絶対嫌!! 当たったら舌噛んで死んでやるわ!!」
佐藤君は自転車を巧みに操り、右へ左へと蛇行しながら、降り注ぐバラの弾幕を回避していく。
背景が真っ白なおかげで、障害物がないのが幸いだが、向こうは空を飛んでいる。
「佐藤君、このままじゃ追いつかれる! そもそも、ママチャリ対ヘリコプターって、勝負になるわけないじゃない! 物理学の教科書に謝って!」
「……いいや、勝機はある。……結衣さん、あのヘリのローター(回転翼)を見て」
佐藤君が指差した先、真っ赤なヘリの翼の付け根には、小さな文字で『※イメージです』というテロップが浮かんでいた。
「あれは、一ノ瀬の想像力が作り出した『ハリボテ』だ。……設定がガバガバすぎる。結衣さん、あいつに思いっきり罵声を浴びせて! 言葉の力で、あいつの『王子の自信』を揺さぶるんだ!」
「罵声!? お安い御用よ!!」
私は身を乗り出し、上空の戦闘ヘリに向かって叫んだ。
「一ノ瀬蓮!! あんたのその趣味の悪い赤いヘリ、近くで見るとボルトが数本足りてないわよ! そもそも無免許の高校生がヘリを操縦できるわけないでしょ! この、設定過多の成金野郎!! 法律を学び直してから出直してきなさーーーい!!」
私の魂のツッコミが、音波となって空へ響く。
するとどうだろう。一ノ瀬のヘリが、みるみるうちに透けていき、輪郭が鉛筆の下書きのようにガタガタと崩れ始めた。
『なっ……!? 結衣、何を……! 俺の完璧な演出が……作画が……崩れていく……!?』
「今だ!!」
佐藤君が万年筆を空へ掲げた。
「——『このページは、次号へ持ち越し』!!」
彼が虚空に巨大なバツ印を描いた瞬間、私たちの周囲の空間が、バリバリとコミック誌のページが破れるような音を立てて剥がれ落ちた。
一ノ瀬の叫び声と共に、赤いヘリ部隊は未完成の背景の中へと飲み込まれて消えていく。
気づけば。
私たちは、夕暮れ時の誰もいない学園の屋上に立っていた。
ママチャリは元の錆びた姿に戻り、テラスには私が飲みかけだったココアが、まだ微かに湯気を立てて置いてある。
「……戻って、きたの?」
「ああ。……一ノ瀬の『強引な連載』を、無理やり打ち切り(中断)に追い込んだ。……これでしばらくは、あいつも『設定の再構築』に時間がかかるはずだ」
佐藤君は肩で息をしながら、少しだけ乱れた髪をかき上げた。
私は震える足で、彼に駆け寄った。
「……怖かった。でも、佐藤君がいてくれてよかった」
「……君のツッコミがなければ、俺もあのバラのミサイルにやられていたよ。……君は、本当にこの世界のバグそのものだね」
佐藤君は少しだけ笑い、私の頭をポンポンと叩いた。
その手の感触は、先ほどまでの激闘が嘘のように穏やかで。
ふと、視界の端に新しいテロップが流れた。
『第8話:完。 次話、ヒロインの看病イベントが発生……?』
「……また、ろくでもないことが起きそうね」
「大丈夫。……君の隣には、俺という最高の『読者』がついているから」
夕日に染まる校舎に、私たちの小さな笑い声が響いた。
3000話という長い戦い。
その8ページ目は、少しだけ甘酸っぱい、勝利の味がした。
第8話をお読みいただきありがとうございました!
ついに戦闘ヘリまで繰り出した一ノ瀬君でしたが、結衣の正論という名の物理攻撃によって撃沈しました。少女漫画において「正論」は、ファンタジーを打ち砕く最強の武器かもしれません。
全3000話。次なる展開は、定番の「看病イベント」。
果たして誰が誰を看病するのか、そして佐藤君はどう介入するのか。
次回、『第9話:熱を出したのは一ノ瀬の方!? ~強制お見舞いイベントを、デリバリー代行で済ませたい~』。
「ヘリコプターの『※イメージです』に吹いた」「佐藤君のBOOST、かっこいい!」など、皆様の感想をお待ちしております!
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