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第5話:終業式のノイズと、夏休みの「余白」

全3000話(予定)の壮大な物語、第5話です!

前回は学校祭と述べましたが、これより第17話まで、物語の舞台は「夏休み」へと移ります。


学校というシナリオの主戦場から離れるはずの夏休み。

しかし、少女漫画の神様(作者)は、この期間にこそ「水着」「夏祭り」「宿題会」という名の強力なイベントをぶち込んできます。

一ノ瀬君の執拗な誘いをいかにかわし、佐藤君という「不確定要素」との自由な時間を守り抜くか。


長期連載ならではの、ゆったりとした時間の流れをお楽しみください。

 ジリジリと肌を焼くような陽光が、教室の窓から差し込んでいる。

 一学期の終業式。校内放送から流れる校歌をBGMに、生徒たちは皆、明日から始まる「夏休み」という名の黄金色の解放に胸を躍らせていた。


 けれど、私の目の前にあるのは、解放とは程遠い「地獄の宣告」だった。


『ト書き:ヒロイン・結衣、一ノ瀬の強引な誘いにより、エリート生徒限定の「南の島豪華バカンス合宿」への参加が決定する。水着回、確定』


(……ふざけないでよ)


 私は手元の通知表を握りしめた。

 視界の端でピンク色のテロップが激しく主張している。まるで「逃がさないぞ」と言わんばかりの圧力だ。一ノ瀬の家が所有するプライベートアイランドで、一週間も二人きりに近い状態で過ごすなんて、私の精神がもたない。


「……ため息をつくと、ヒロインの輝きが曇るよ」


 背後から、温度の低い、けれどどこか安心する声が聞こえた。

 振り返ると、そこにはクラスの喧騒から隔絶されたように、自席で文庫本を広げている佐藤君がいた。

 周囲の男子たちが「海行こうぜ!」「ナンパしようぜ!」と盛り上がっている中で、彼だけが静止画のように動かない。


「佐藤君……。また変なイベントが発生しそうなの。南の島に連れて行かれそう」


「ああ、聞こえていたよ。一ノ瀬が廊下で『結衣のために島を一つきれいにしといた』って豪語してたからね。……相変わらず、スケールの大きなハラスメントだ」


 佐藤君は本を閉じると、眼鏡の位置を直した。

 彼の方を見ると、不思議と視界を覆っていたピンク色のノイズが少しだけ和らぐ。


「ねえ、佐藤君。夏休み、私はどうすればいい? 学校が休みなら、シナリオも休載してくれればいいのに」


「残念ながら、少女漫画の作者にとって夏休みは『稼ぎ時』だ。普段の制服姿とは違う、肌の露出が増えるイベントは読者が最も望むものだからね。……おそらく、君がどこに逃げても一ノ瀬は『偶然の遭遇』を装って現れるだろう」


 佐藤君は鞄から一冊の薄いノートを取り出した。

 表紙には『夏休み・非公式スケジュール』と書かれている。


「これを見て。……俺がこの数日間で分析した、夏休み期間中の『シナリオの死角』だ。例えば、この7月25日。この日は一ノ瀬の家で大きなパーティーがある。つまり、彼の手が回らない数少ない時間だ」


「……これ、私と佐藤君のスケジュール?」


「いや。……君が『花咲結衣』というキャラクターを一時的にログアウトさせるための、デバッグ・ルートだ」


 佐藤君はペンを走らせ、ノートに地図を書き込んでいく。

 そこは、観光客も行かないような、古びた商店街の奥にある図書館や、地元の人しか知らない小さな河川敷だった。


「一ノ瀬の豪華客船には乗らず、俺と一緒に、この『描かれない場所』で宿題でもしないかい? ……読者としては、豪華な水着回よりも、地味なモブとの図書室回の方が興味があるんだ」


 その言葉に、私は顔が熱くなるのを感じた。

 一ノ瀬に言われる「俺の島に来い」という命令よりも、佐藤君の「一緒に宿題をしよう」という誘いの方が、ずっと私の心を揺さぶる。


「……行く。絶対に行く。南の島なんて、誰かに譲ってあげるわ」


「いい返事だ。……ただし、注意して。世界は君を強引に一ノ瀬のもとへ戻そうとする。……最初の試練は、今日の帰り道だ」


 佐藤君の予言通り、昇降口を出た瞬間、私の視界が真っ赤に染まった。


『緊急イベント:王子、校門前にてオープンカーでヒロインを待ち伏せ。そのままバカンスへ強制拉致』


 校門の先に、眩しいほどの赤いスポーツカーが見える。

 一ノ瀬蓮が、サングラスをかけて不敵に微笑んでいた。


「さあ、私の夏休みをかけた戦い、第1ラウンドの開始ね」


 私は佐藤君の手をぎゅっと握った。

 彼の「空白」の力が、私の足にかかっていた強制力の枷を、パリンと砕いた。


 物語のルールを書き換える、15歳の夏が、今始まる。

第5話をお読みいただきありがとうございました。


3000話という壮大な連載を見据え、ここから第17話までは「学校祭準備期間」という非常に密度の濃いエピソードを展開します。

ただの準備ではありません。佐藤君のモブ度が変化し、世界の強制力が「ミスコン」という形で結衣を追い詰める。

果たして結衣は、17話までの間にこの「呪いのエントリー」を解除できるのか?


次回、『第6話:ミスコンのエントリーシートが消えない件について』。

物理的に破いても、燃やしても、翌朝には元通りになっている呪いの書類に結衣はどう立ち向かうのか。


引き続き、ブックマークや評価での応援をよろしくお願いします!

物語の重層的な展開を、ぜひじっくりとお楽しみください。

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