第4話:中間試験は「攻略対象」との知恵比べ? ~モブ君の教え方はスパルタです~
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クレープを食べて少し距離が縮まった結衣と佐藤君。
しかし、学園生活には避けては通れない壁——「定期試験」が立ちはだかります。
一ノ瀬蓮が仕掛ける、権力をフル活用した「ヒロイン包囲網」を、佐藤君のメタ的な知略でどう切り抜けるのか。
今回は少しスカッとする展開を目指しました。どうぞお楽しみください!
私立聖アリス学園の中間試験。
それは、ただの学力測定の場ではない。この「少女漫画」という世界においては、成績上位者が掲示板に張り出され、王子の隣に並ぶヒロインが周囲から認められるか、あるいは嫉妬の嵐に晒されるかを決める、残酷な儀式だ。
「……終わった。完全に、終わったわ」
私は図書室の片隅で、絶望と共に机に突っ伏した。
目の前にあるのは、数式の羅列ではなく、私の視界を埋め尽くす不吉な「ト書き」だ。
『ト書き:ヒロイン・結衣、勉強に身が入らず赤点ギリギリ。そこへ王子が現れ、夜の図書室でつきっきりの特別指導(強制イベント)が発生する』
「冗談じゃないわよ。あの一ノ瀬君に勉強を教わるなんて、集中できるわけないじゃない。……っていうか、あいつ自分の名前の漢字も怪しいって噂なのに、どうして教える側なわけ?」
「それは、彼が『攻略対象』だからだよ。設定上、彼は文武両道でなければならない。例え現実の彼がどれほど低能であっても、テスト用紙には自動的に正解が書き込まれるようになっている」
向かい側に座る佐藤君が、分厚い参考書から目を上げずに淡々と答えた。
彼は私の絶望などどこ吹く風で、サラサラと自分のノートに何かを書き込んでいる。
「佐藤君、助けて……。私、あの一ノ瀬君との『夜の補習』だけは絶対に回避したいの。あいつ、絶対に教えるフリをして首筋とかに触ってきて、『……お前、こんなことも解けないのか? 罰が必要だな』とか言うに決まってるもの!」
「よくわかってるね。典型的な第4話のテンプレだ。……でも、安心して。君の成績を無理やり引き上げて、一ノ瀬の出る幕を奪ってあげるよ」
佐藤君は眼鏡を指で押し上げ、私の前に一冊のノートを差し出した。
そこには、教科書の内容など一切書かれていなかった。
「……何、これ。試験問題の傾向?」
「違う。この世界の『シナリオ担当』が使い回している、問題作成のアルゴリズムだ」
佐藤君の言葉に、私は目を丸くした。
ノートには、まるでプログラムのコードのような不気味な文字列が並んでいる。
「この世界の試験問題は、生徒の学力を測るためのものではない。物語を盛り上げるために、『ヒロインが間違えそうな場所』に罠を仕掛けるように設計されている。……例えば、この英語の第3問。ここには必ず、一ノ瀬が過去に君に囁いた『甘い単語』が答えになるような問題が配置される」
「……うげっ、最悪」
「その裏をかく。……いいかい、結衣さん。勉強をする必要はない。この『シナリオの癖』を丸暗記するんだ。君が全教科で満点を取れば、一ノ瀬の『教える側』という属性は崩壊する」
そこから、地獄の特訓が始まった。
佐藤君の指導は、文字通りスパルタだった。
彼は「知識」ではなく「世界への違和感」を私に叩き込んだ。
「このコマの構図なら、次はこう来る」「作者はここで君を困らせたいはずだ。だから、正解はあえてこれだ」——。
それはもはや勉強ではなく、運命という名のゲームのデバッグ作業に近かった。
そして迎えた、試験当日。
教室に入ると、一ノ瀬蓮が取り巻きを連れて私の席にやってきた。
彼は相変わらず、キラキラとしたエフェクトを周囲に撒き散らしている。
「よう、結衣。顔色が悪いな?……どうせ勉強なんて手についてないんだろ。赤点を取ったら俺様に泣きつけ。たっぷり、可愛がってやるからな」
一ノ瀬の背後で、ピンク色の吹き出しが踊る。
『王子様からの挑発に、ヒロインは顔を赤らめて言い返すこともできない』
「……あいにくだけど、一ノ瀬君。私、今回は自信があるの。あなたの助けなんて、一ミリも必要ないわ」
私は真っ直ぐに彼を見据えて言い放った。
一ノ瀬の眉がピクリと跳ねる。彼にとって、ヒロインが自分を否定するなど、あってはならない「作画ミス」のようなものだ。
「ふん、強がりを。……せいぜい恥をかくがいい」
試験開始のチャイムが鳴り響く。
問題用紙を裏返した瞬間、私は驚愕した。
佐藤君の言った通りだった。
数学の問題は、本来の公式を当てはめるよりも「ヒロインがうっかり間違えて王子の助けを呼びたくなる」ような絶妙な数値設定がされていた。
けれど、私には見える。問題文の行間に隠された、作者の意図という名のノイズが。
(ここだ……! ここで符号を間違えれば、一ノ瀬君の得意な図形問題に繋がる。……でも、私は正解を選ぶ!)
私はペンを走らせた。
迷いはない。佐藤君と共に過ごした、あの路地裏のクレープの味を思い出す。
あの時感じた「本物の感触」に比べれば、この紙の上の出来事なんて、ただの虚構に過ぎない。
試験が終わるたびに、視界のシナリオがノイズを立てて崩壊していくのがわかった。
『修正不能:ヒロインの成績が予測値を大幅に超過。イベント「夜の図書室」の発生条件が消滅しました』
最終日の放課後。
成績表が掲示板に張り出された。
1位:花咲 結衣
2位:佐藤 蒼
……
158位:一ノ瀬 蓮
学園中が騒然となった。
当然だ。学園の王子様が、名もなきモブ——それも佐藤君に惨敗し、ヒロインである私に完膚なきまでに叩きのめされたのだから。
「な……なんなんだ、これは! 何かの間違いだろ!」
掲示板の前で、一ノ瀬が顔を真っ赤にして叫んでいる。
彼の周囲を舞っていた花びらは、今や枯れ落ちて地面を汚している。
「間違いじゃないわ、一ノ瀬君。これが私の、本当の力よ」
私は彼の横を通り過ぎ、校門で待っている佐藤君のもとへ歩き出した。
佐藤君は、相変わらず文庫本を読んでいたが、私が近づくとフッと口角を上げた。
「……お疲れ様、結衣さん。完勝だね」
「佐藤君のおかげだよ。……ねえ、約束通り、お祝いにまたどこか『シナリオにない場所』へ連れて行ってくれる?」
「いいよ。……読者としては、次は君がどんな風に物語を壊すのか、特等席で見守りたいからね」
私たちは、呆然と立ち尽くす一ノ瀬と取り巻きたちを背に、夕暮れの街へと繰り出した。
視界の端に表示されていた『第4話:完』の文字が、ボロボロに崩れて消えていく。
私たちの物語は、もう誰の手にも書き換えられない。
第4話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
今回は「試験」という、ある意味で戦いのようなイベントを通して、結衣と佐藤君のチームワーク(?)を描きました。一ノ瀬君の成績が158位という、中途半端にリアルな低さに設定してみましたが、いかがでしたでしょうか。
佐藤君の「メタ能力」は、単に未来を知っているだけでなく、世界の構造そのものを理解しているという強みがあります。
次回、『第5話:学園祭のミスコン騒動! ~私が選ぶのは、ティアラじゃなくて君の隣~』。
ついに一ノ瀬が本気で結衣を奪い返そうと、強引な手段に出ます。佐藤君の嫉妬(?)も見られるかも……?
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