第14話:夏休みはまだ終わらない! ~一ノ瀬が「カレンダーの8月」を無限ループさせ始めました~
大変失礼いたしました。第13話で豪華客船から命からがら脱出した結衣でしたが、まだ夏休みは終わっていませんでした。
本来なら「8月31日」に宿題が終わらず泣きべそをかく結衣の前に、一ノ瀬が現れて「俺の別荘の家庭教師に教えてほしければ、今すぐ跪け」と迫るイベントが発生するはず。
しかし、一ノ瀬の「結衣ともっと遊びたい」という執念は、ついに時間軸そのものをバグらせ始めました。
朝、目が覚めてカレンダーを見た瞬間、私は自分の目を疑った。
昨日、確かに「8月31日」だったはずだ。それなのに、今日のめくり式カレンダーには、太々しいフォントでこう書かれている。
『8月32日:一ノ瀬様のご機嫌により、夏休み延長決定!』
「……ちょっと、佐藤君。これを見て。私のスマホ、日付がバグってるんだけど」
私はすぐに佐藤君をいつもの公園に呼び出した。彼は相変わらず、涼しい顔で文庫本を読んでいるが、その頭上には『不確定要素:修正作業中』という不穏なテロップが出ていた。
「ああ、結衣さん。気づいたんだね。……一ノ瀬が、一ノ瀬財閥の衛星を使って地球の自転を微調整し始めたんだ。……彼が『まだ夏休みを終えたくない』と願ったせいで、この物語の世界だけ、9月という季節データが読み込めなくなっている」
「自転を調整!? 少女漫画のヒーローがやっていい規模を超えてるわよ! それ、天変地異じゃない!」
「その通り。おかげで、街中のセミが一斉に混乱して変なリズムで鳴き始めてるし、ひまわりが太陽を追いかけすぎて首がねじ切れてる。……このままじゃ、世界が『8月』というデータのゴミ箱になってしまうよ」
その時。
空から黄金の粉が舞い降り、一台のオープンカーが空を飛んで(※タイヤが回っていないので、ただの浮遊オブジェクトだ)やってきた。
「結衣ィィ!! 喜べ! 俺がお前のために、終わらない夏をプレゼントしてやったぞ! 宿題? そんなものは俺が文部科学省を買収して、今年の夏休みから『自由研究:一ノ瀬蓮の素晴らしさについて』以外をすべて廃止させてやった!」
「勝手なことしないでよ! 私は普通の数学と英語を勉強して、普通の大人になりたいの! そもそも8月32日って何よ、存在しないでしょ!」
「俺が存在すると言えば、存在するんだよ! 見ろ、この空を!」
一ノ瀬が指差した空には、二つの太陽が浮かんでいた。一つは本物、もう一つは一ノ瀬の顔を模した巨大な照明弾だ。
「……眩しい。佐藤君、なんとかして。このままだと私、9月になる前に一ノ瀬の熱量で干からびちゃう」
「わかった。……カレンダーの『整合性』を取り戻そう。……結衣さん、君の『夏休みの宿題』をここに出して」
私はカバンから、一文字も書いていない白紙の数学プリントを取り出した。
佐藤君はそれを受け取ると、万年筆の先を一ノ瀬の「照明弾」に向けた。
「一ノ瀬君。君がどれだけ時間を引き延ばしても、この『白紙のプリント』が埋まらない限り、物語は次へ進めない。……これは、この世界の構造上の制約だ。……そして今から、この宿題を『秒』で終わらせる」
佐藤君がプリントの余白に、恐ろしい速度で数式を書き込み始めた。
それは数学の答えではなく、この世界の『時間進行プログラム』のコードだった。
「——実行。関数:September_Force_Start(True)」
佐藤君がプリントを空へ放り投げた瞬間、白紙だった紙面が真っ黒なインクで埋め尽くされ、それが巨大な「カレンダーの壁」となって一ノ瀬の照明弾に激突した。
『なっ……!? 9月の涼しい風が……俺の熱気を奪っていく……!? ぐわあああ、俺の……俺のパーフェクト・サマーが……!』
一ノ瀬のオープンカーが、秋の気配に耐えきれずカサカサの枯れ葉に変わっていく。
空に浮かんでいた「8月32日」というテロップが粉々に砕け散り、代わりに冷ややかな秋の夜風が吹き抜けた。
「……ふぅ。なんとかカレンダーを9月に戻せたよ。……でも結衣さん、無理やり時間を進めたせいで、君の宿題の答えが全部『佐藤蒼はかっこいい』という文章に書き換わっちゃった」
「えっ、それはそれで提出できないじゃない!!」
「……読者サービスだよ」
佐藤君は少しだけ耳を赤くして、眼鏡を直した。
こうして、私たちは無理やり「8月」を終わらせた。
でも、一ノ瀬がまだ「17話までは夏休みだ」という強い設定を持っている以上、明日もまた別の形の「終わらない夏」が襲ってくるに違いない。
私の夏休み(と宿題の山)は、まだまだ続く。
第14話(修正版)をお読みいただきありがとうございました!
作者の不手際により新学期が始まりかけましたが、佐藤君のデバッグによって無事に「夏休み」に引き戻されました。一ノ瀬君の執念、恐るべしですね。
ご指摘通り、17話まではたっぷり「夏休み延長戦」をお届けします!
次回、『第15話:夏休み15日目(二回目) ~ラジオ体操に一ノ瀬専用の表彰台が出現~』。
「8月32日」の絶望感、共感していただけましたでしょうか(笑)。
引き続き、応援よろしくお願いいたします!




