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【プロローグ】人生がベタな少女漫画だと気づいたので、まずは角で王子とぶつかる運命を全力で回避します

はじめまして。本作を手に取っていただき、誠にありがとうございます。


もし自分の人生が、誰かの書いた「安っぽい少女漫画」のシナリオ通りだったとしたら。

運命に抗いたい女の子と、運命の外側にいる男の子のお話です。


少しでも「面白いな」と思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると執筆の凄まじい励みになります!

 それは、雲一つない青空が広がる、あまりにも「出来すぎた」登校中のことだった。


 私、花咲結衣はなさき ゆいがその異変に気づいたのは、私立聖アリス学園の校門へと続く桜並木を歩いている時だ。突如、視界の端にパキパキとひび割れるようなノイズが走った。


「え……何? 立ちくらみ?」


 目をこすった次の瞬間、私の視界は信じられないものに占拠された。

 現実の景色の向こう側に、半透明の「紙」のようなものが重なって見える。それは……漫画のネームだ。しかも、ご丁寧にコマ割りまでされている。


『ト書き:春の陽光の中、ヒロイン・結衣は運命の出会いへと向かって走り出す』


(は? ヒロイン? 運命の出会い?)


 心の中で毒づいた瞬間、さらに信じがたいものが視界を横切った。

 私の頭上に、ピンク色のフワフワしたフォントで、大きな吹き出しが出現したのだ。


『「あ~ん、遅刻遅刻! パンをくわえて走るなんて、私ってば今時ベタすぎ!」』


「言ってない! そんな恥ずかしいセリフ、口が裂けても言ってないから!!」


 思わず叫んだが、周囲の生徒たちは私を不審な目で見ることもなく、まるで機械仕掛けの操り人形のように通り過ぎていく。どうやら、この「画面」が見えているのも、この声が聞こえているのも、私だけのようだった。


 視界の右下には、小さな文字でこう記されている。

『第1話:最悪なアイツは、学園の王子様!?』


 寒気がした。

 私は、自分が読み飽きた少女漫画の登場人物……それも、あろうことか「ヒロイン」という名のレールに乗せられた存在であることを理解してしまったのだ。


 この先の展開なら、嫌というほど知っている。

 私はこの角を曲がった先で、学園一のモテ男でありながら性格が極悪な「王子様」こと一ノ瀬蓮いちのせ れんと衝突する。

 私のパンが彼の高級な制服を汚し、彼は「おい、弁償しろよブス」と暴言を吐く。

 私は「なんですって!?」と反発し、そこから地獄のような「ケンカップル」の物語がスタートするのだ。


(ふざけないでよ。なんであんな、女をアクセサリーとしか思ってないパワハラ男と恋愛しなきゃいけないの?)


 一ノ瀬蓮は、この漫画の中ではヒーローかもしれないが、現実に見ればただの迷惑な金持ちだ。私は私の意志で、もっと穏やかで、もっと普通な恋がしたい。


 視界のネームが、めくられるように更新された。


『結衣、曲がり角で一ノ瀬と激突。運命の歯車が回り出すまで、あと10秒』


「……させるか。そんなクソみたいな歯車、今ここで粉砕してやる!」


 私は全速力で走っていた足を、無理やり止めた。靴の底が地面と擦れて嫌な音を立てるが構わない。

 衝突地点まであと数メートル。私は角を曲がるのをやめ、強引にルートを外れた。


 だが、恐ろしいことが起きた。

 私の体が、自分の意志に反して勝手に動き出したのだ。見えない糸で引かれているかのように、足が勝手に角の方へと向かっていく。


(これが……運命の強制力!?)


 視界には『予定:激突まであと5秒』のカウントダウン。

 角の向こうからは、取り巻きを引き連れて歩く一ノ瀬蓮の、あの忌々しい高笑いが聞こえてくる。


「動け……私の体、動いてよ!!」


 私は必死に、自由のきく左手で近くのベンチの背もたれを掴んだ。

 そこには、一人の男子生徒が座っていた。

 黒髪で、眼鏡をかけ、古びた文庫本を読んでいる。彼の頭上には名前すらない。ただ『モブA』というシステム上の記号だけが浮いている。


(この人だ。この人なら、物語に干渉しない「空白」のはず!)


 私は死に物狂いで、運命の糸を振り切るようにして、その「モブA」の少年に抱きついた。


「わわっ!? な、何……?」


 少年の困惑した声。

 その瞬間、ガシャーン! と、ガラスが割れるような音が脳内に響き渡った。


 視界のネームが真っ赤に染まり、激しいノイズとともに書き換えられていく。


『エラー:ヒロインが予定外のキャラクターと接触しました。シナリオを再構成します』


 角の向こうから、一ノ瀬蓮が姿を現した。

 本来なら私とぶつかっているはずの彼は、誰もいない空間を怪訝そうに見つめ、「チッ、風かよ」と舌打ちして通り過ぎていった。


 回避した。

 私は、運命に勝ったのだ。


 ハァハァと荒い息をつきながら、私は腕の中にいる少年に目を向けた。

 彼は驚いた顔で、眼鏡の奥の瞳を丸くして私を見上げている。


「あの……大丈夫ですか? 急に抱きつかれても困るんだけど……」


 彼の頭上を見る。

 そこには、さっきまでなかったはずの名前が、墨をこぼしたような不気味な黒い文字で浮かび上がっていた。


『不確定要素:佐藤さとう あおい


 私の直感が告げている。

 運命を書き換えるために選んだこの「モブ」こそが、私のこれからの人生を、少女漫画よりも予測不能で、めちゃくちゃなものにしていくのだと。


「ごめん、佐藤君。……私を、あなたの『特別』にしてくれない?」


 シナリオにないセリフを叩きつけてやった。

 真っ白になった視界の先で、新しい物語のペン走る音が聞こえた気がした。

第1話をお読みいただきありがとうございました!


無事に(?)一ノ瀬君との衝突フラグを回避し、謎のモブ男子・佐藤君を巻き込んでしまった結衣ですが、ここからシナリオの「強制修正」との戦いが始まります。


果たして結衣は、完結まで自分の意志で歩き抜くことができるのか。

次回、『第2話:告白されたモブ君、実はシナリオの「空白地帯」でした』。


お楽しみに!


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