悪役令嬢は断罪される。
「フレイア・ティー・サンブライト!!本日、この場を持ってあなたとの婚約を破棄するものとする!」
煌びやかなシャンデリアが天井から灯りを注ぐ舞踏会で、公爵令嬢であるフレイアは、この国の第二皇子であるフィオルドに声高らかに婚約破棄を言い渡された。
「···、あら。わたくしはどちらかと言えば、被害者なのですけれど、あなたのお隣のご令嬢はそんな事もお分かりにならなくて?」
「ひ、酷いわ!そんな言い方!私はただ、何も知らなかっただけなのに···!」
フィオルドの正装の腕をキュッと握るノエルの仕草に、フレイアは苛立ちを覚えて瞳を細めて扇子で口元を覆った。
「ノエルはまだ貴族として日が浅い!もっと言い方を考えてやるべきだ!!」
「では、貴族として浅いとは仰りますが、1年は経っていますよね?それで···貴族の常識は学ばれ無かったのでしょうか···」
「私は、が、頑張ってます!だけど家庭教師の言い方がキツくて···」
平民から聖女として貴族へと養子入りしたノエルは、更に貴族の仕来りや生活はキツかったと、目に涙を溜めながら話始めた。
「私、頑張ったんです!貴族の歩き方から仕草やお勉強。それに、婚約者がいる殿方に話しかけてはいけないなんて、おかしいと思います!貴族だって、平民だって、一人の人間です!分けるなんて···差別です!」
その規律を作っているのは貴族社会であり、王宮側でもあるのだが、ノエルは何も考えずに発信しているのであろう、会場の貴族達がざわめき始めた。
ノエルの発言は下手をすれば不敬になりかねない。
不敬にならないのは、ノエルが聖職者の最高位である聖女だからだろう。
「···、はぁ」とフレイアはため息をついた。
お話にならない、と。
フレイアはどちらかと言えば、平民から貴族になった事で、平民には出来ない贅沢に目を眩ませたのだと言う。
(聖女が聞いて呆れますわ)
「あぁ!フレイア様ったら私にため息を!酷いですわ!フィオルド様ぁ〜···!!!私、頑張ってるのに何が悪いんでしょう!?」
フィオルドに泣き付くノエル。
グシグシと泣き喚く姿は幼子その物···逆に純粋さがあったからこそ聖女に選ばれたのだろうが···頭が痛い案件である。
「そうだな。ノエルは良く頑張っている」
(···、努力と言うものは、他の方に認められて初めて努力していると認識されますのに)
まるで宇宙人と会話をしているような錯覚に陥ったフレイアは、目の奥にズキンズキンと刺さるような痛みを覚えだした。
二人は互いに惹かれあったのだろう、ノエルの手に自分の手を重ねるフィオルドの姿に、もうどうでもいいと感情に支配された。
(この茶番はいったい何の罰ゲームでしょう···)
もう何を言っても二人には届かないのだろうと諦めたフレイアは、ドレスを持ち上げて最上級のカーテシーをした。
「フィオルド皇子殿下、婚約破棄を承りました。どうぞ、お幸せに」
カーテシをし、会場を去ろうと二人に背を向けた瞬間、呼び止められるようにノエルが言う。
「やぁぁと、ご自分の罪をお認めになられたのですね!」
(·····、はぁ?)
「私はあなたを許します。だって、私は聖女ですもの···悪役令嬢は罪を悔い改めるべきなんです!私にキツく当たった事も、大丈夫、あなたはまだやり直せますわ」
いったい何を言っているんだ、とフレイアは頭を抱えたくなった。
確かに物言いはキツかったかも知れないが、貴族社会で生きると言う事はそう言う事だ。
ここにいる令息、令嬢は幼い頃より厳しい躾をされて来た者達だ。
彼らにあたまり前の事が、平民にとっては当たり前の事ではない事くらいは重々承知だ。
だからこそ、ノエルが恥を欠かないように助言をしていたと言うのに、悪役令嬢と不名誉なあだ名を付けられ、こうして大勢の舞踏会での婚約破棄と、悪者扱いに泣きたいのはフレイアのほうだ。
オマケに言葉が通じない。
「それと、私に謝罪してください」
「···はぁ?」
これには思わず声が出た。
聖女であっても、ノエルは男爵家、フレイアは公爵家。
いくらなんでも高位貴族に謝罪を要求、しかも命令とはこの一年間いったい何を学習して来たのかが疑問である。
「それと、この会場の皆さんに···あなたのせいでこんな雰囲気になったんですから、謝ってください!そして出来ればもう顔も出さないでください!」
あぁ、なんと言うことでしょう。
これには流石にフレイアは目眩を覚えた。
「ノエル··?」
これには流石にフィオルドも目を丸くして、ノエルを窘めるようだ。
会場はざわつき、ヒソヒソと令嬢や令息がの息を飲む声が聞こえて来る。
「フィオルド皇子殿下もそれをお望みで···?」
「い、いや、私は···」
「聖女様と、いつまでも仲睦まじく·····、」
フレイアは全身が震えた、割れそうな頭痛に震える手でカーテシをしたが、その場でプツン、と意識が途切れた。
「フレイア!!」
最後に聞こえたのは、フィオルド皇子殿下の言葉と、嗤う聖女の顔だった。




