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聖女と僕のやりすぎお忍び冒険譚  作者: グーグー


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6.聖獣様の名付けは秒で

 ***寛太***


【守護し合う同盟】と言われても、僕自身は魔法も使えず、腕っぷしは言うに及ばずだ。守護し合うなんていうたいそうな名前の付く同盟は無理だと辞退しようとするのを、

「かんちゃんが入らなかったら意味ないじゃん」柚子が一言で僕のネガティブ発言を終了させて、手を出させた。

 試合前の円陣のように手を重ね合わせる。

 重ねた手が光始める。その状況になってから、聖獣が、自分にも名前が必要だから考えてくれと言い出した。柚子がとっさに、「カケル」と名付けた。


「我、カケル、柚子と寛太と盟を結ぶ。これより、互いに守護を与え、守護をいただく」と宣言すると、重ねた手がより強く光り始めた。

 カケル様が「何か、紋様を決めよ!」という。

「さっきから指示出しが遅い!先に言っておいて!」と柚子はクレームを入れながらも目をつむった。脳内で想像しているんだろう。

 僕は眩く光る自分たちの手に現れた紋章を見て、思わず突っ込んだ。

「トライフォースってゼルダじゃん!」

「北条家の家紋よ!三人って感じのシンボルっていったらこれか、徳川家の三つ葉葵しか咄嗟に思いつかなかったのよ。将軍様よりこっちのほうがいいでしょう!」

「……うん、確かに、ひかえ~おろ~って感じよりは良いかな」と、話している間に紋は消えていた。

 誰かが守護される状況になったら三人ともに紋が表れるらしい。意識して魔力を通しても表れるようだが、魔力のなしの僕には関係なしだ。トホホ。


「さて、後の問題は、カケル様の大きさね。大きさは変えられたりしないの?」と聞くと、姿が一瞬にじんだようになって、小さくなった。25センチ程、実物の20分の1くらいのサイズだ。誇らしそうに頭を上げて褒められるのを待っているカケル様。

「う~ん。可愛くないわね。小さくなるっていったら、ぬいぐるみみたいになるものよ」柚子は容赦ない。だが、僕も言うだけ言ってみようと口を出した。

「そうだね。小さくても牙が怖いし。犬飼いたかったから子犬系がいいなぁ」

「柴かな?チワワ?」

「聖獣をなんだと思っているのじゃ」とクレームがくる。

『ネコ科イヌ科の垣根も超えたリクエストは無謀だったか?』と思ったが柚子はグイグイ押していて、譲る気配はなかった。


 結局、柚子の想像した姿を取ることを了承した器の大きいカケル様であった。

 むっちりした脚がかわいい柴犬の子犬。翼は譲れないとカケル様が言い張るので、申し訳程度に背中についている。それが、ピコピコ動く。超絶可愛いと、二人でもみくちゃにしてしまった。

 そして柚子に、可愛い、軽い、賢い、粗相をしない。完璧なペットだと太鼓判を押されている聖獣カケル。

「子犬とやらがこんなにチヤホヤされるなら、早くに会得しておく姿であったのぉ」と感想を漏らしていた。気に入ってもらえたようでなによりだ。

 ただしゃべり方が可愛くない。柚子ははっきり「じじくさい」と指摘したが、「それは勘弁して欲しい」と、カケル様はなぜかそこだけ必死に抵抗していた。


 柚子はスキップでもする勢いで教皇と枢機卿をはじめとする聖職者が集まっている大聖堂の祈りの場に乗り込んで行く。

 ババーン!と入って行って、注目を集める強心臓のない僕は、カケル様を抱いて縮こまっていた。

「朗報よ!聖獣様がいらしたわ!私とかんちゃんと聖獣カケル様の二人と一頭?面倒だから三人って言うわよ。その、三人で、【守護し合う同盟】を結んだわ。聖獣様と同盟を組むかんちゃんを害そうなんて、もう思わないわよね。そういうことだから!」と言って、僕ごと抱っこされていたカケル様を前方に突き出した。


「「「………。」」」

 静まり返った大聖堂。そんな中、一番早く情報を処理したらしい聖典過激派のパッスルは、

「御冗談はよしてください!聖獣様は非常に大きく、チーターのような姿がしなやかで、空を翔ける翼が優美で、寛容で聡明であると聖典にあります。そのようなチンチクリンな見たこともない獣ではございません!」と断言した。

「あら~。この世界って柴犬いないのね。チンチクリンはひどいわ。こんなに可愛いのに。ねえ、かんちゃん」

「チンチクリンと言われたぞ。元に戻るか?」とカケル様は小声で聞いてくる。

「僕に振らないで欲しい。空気に徹していたいのに」


 聖典過激派の僕を見る目は相変わらず冷たい。足を切り落として聖女に送り付けたことはやり過ぎだと思っていたとしても、邪魔者、いらない者、聖典に無いものという事には変わりないからだ。聖女の怒りもナルドの苦言も、長年の主義主張の前には軽いものになってしまったようだ。

 そんな空気を察したのか、カケル様はフワリと浮き上がった。揚力のなさそうな翼も、一応パタパタと動いている。

 聖堂正面のステンドグラスの中央まで飛んで、そこで本性に戻ったカケル。


 パッスルが先ほど声高に説明した聖獣、そのままの姿が現れると、誰ともなく次々に首をたれた。

 柚子や寛太にはない、この世界では当たり前の反応に、カケル様は満足そうだ。

「一同、楽にせよ。ワシは久方ぶりに目が覚めてのぉ。柚子と寛太という楽しそうな者がおったで、共に居てやろうと思ったのじゃ。しばらく起きておるつもりじゃて、よろしくのぉ」子犬姿の時とは違う、低音の声が響く。

 皆が、その神々しい姿と声に再度ひれ伏した。壮観だった。

 そして、またもやパッスルが口を開いた。

「聖獣様。折角お目覚めになったのでしたら、ここワーナー教会大聖堂にて、信者と触れ合うなどなさってはいかがでしょうか。ご入用のものなどは地の果てからでも取り寄せて参ります。聖女様はともかく、その少年はただの異分子です。目新しく映るやもしれませんが、聖獣様にはぜひとも我らと共に!」

 その声に倣って、口々に我らと共に、と声が上がる。


「静まれ!そこな無害の少年寛太を傷つけた者がおることは聞いておるぞ。ワシはそのような輩と共に過ごすつもりはない!」

 あまりにもストレートな拒絶にパッスルは、口を開けたり閉めたりし、過激派の面々は目を見開いたまま固まった。神の次に至高の存在と言われる聖獣に拒否された衝撃は大きいようだ。

 柚子は、グッジョブとばかりに、カケル様にサムズアップを送って、戻ってくるように手招きした。


 僕の腕に子犬バージョンに戻って収まったカケル様は、可愛い子犬の声に戻って、

「腹が減ったのぉ。教皇はまともじゃと聞いたぞ。そなたか?食堂へ案内せい。久方ぶりの食事はどんなものかのぉ」と尋ねている。

 そして、僕らのうしろ姿を見送った後の大聖堂からは、地鳴りがするような、雄たけびが上がっていた。

 片や、聖獣と会えた歓喜に、片や、拒絶を実感した絶望に、だろう。


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