56.剣鬼
***寛太***
その晩は何事もなく終わった。
ボスの間から、「たすけて~!」って声が聞こえてくるんじゃないかと、ドキドキした。皆が皆、外の声に意識して過ごしたので静かな夜だった。
朝一で様子を見にいった。誰もいなかった。2パーティーとも全員11階層に下りているのなら良かった。
そしていよいよ僕らも10階層のボスの間へ。
虹の架け橋の戦闘要員に、このあたりのボスに手こずる者はいないのでサクッと倒すだろうと思ってはいたが……なぜか渉が倒していた。魔法が使えない異世界人が、何故に!?
「戦い方はゲーム勘でどうにでもなるしな!フィジカルは柚子がカチンカチンにしてくれて怪我の心配も無い!よって俺は無敵だ!防御を考えずに、剣を振れば切れる!ダンジョンで返り血も浴びない。死体も転がらない!そう!戦いの理想がここにあるんだ!」
唾を飛ばしながら力説してくれた。確かに、と、思ったが、結構な冒険者がパーティーを組んで準備万端で挑むボスに一人で勝つのはかなりの才能がいるはずだ。
「渉はチート級だよなぁ。僕なんて、防御は出来ても吹っ飛ばされてバランスを崩しちゃうよ」と光太がぼやいている。
兄ちゃんズは僕と違って二人とも、身長が高い。光太は少し鍛えていて細マッチョのタイプだが、渉は全くのインドアで痩せているただの廃課金ゲーマーだと思っていたので、この差は正直以外だ。
柚子に至っては、
「渉兄は、ここはゲームの世界だって思い込むことで、勇者の力でも手に入れたんじゃない?」と茶化している。
「みなさんの世界は勇者がいる世界なのですか!?」
アクセルが変なところに食いついてくる。
「いるよ!壮大なRPGの世界には必須なんだよ」
「おお!頼もしいですね。魔物討伐はその方にお任せですか?」
「魔物もですが、魔王を倒しますよ」
「なんと!素晴らしいですね」
渉とアクセルの会話は、噛みあっている?……ので放置だ。
カケル様は僕にこっそり、
「鑑定してみたが、渉は『世が世なら剣鬼』と出ておったぞ」と言ってきた。
「ユズに内緒の、『詳細に見える鑑定』で見たの?」
「そうじゃ。どういう意味じゃ?」
「世が世ならっていうのは、この場合、生きている時代が刀を持って歩くような武士の時代ならって感じの意味かなぁ?剣鬼っていうのは恐らく、人外の剣の強さってことだと思う。物騒な二つ名だね。でも確かに強いもんね。刀振り回すとか無いから才能も埋もれるよねぇ。平和でいいけど。剣道とか今から勧めてみようかな?」
「そうか、そうか。鬼族の末裔なのかと思うたぞ」
「鬼いるの?この世界?」
「鬼族と呼んでおるが、この世界の者では無くてのぉ。別の神がいたずらにこの世界に放り込んだのであろう。困ったものじゃて。見つけたら敵対するなら駆除一択じゃが、そうでなければ元の世界に返すか、平和に共存するか選ばせておる。滅多に見かけはせぬが、本性は人型に角がある。共存を選ぶ者にはドラゴンと同じで完全な人型に擬態できるように教えておるので、ますます見分けはつくまいて。じゃが、強いぞぉ。人の何倍もの体力と魔力を持っておる。ドラゴンほどではないがのぉ」
懐かしむ表情をしながら語るカケル様。
「いやちょっと待って!?元の世界に返してあげられるの?じゃあ、家族がこんなに苦労して異世界を往復しているのはなんで?」
僕は、なんだかブチっと切れたようで、言葉が止まらなかった。
「両親達は今まさに熱を出して寝込んでいるっていうのに!?」
どういうことか分からなくって思ったことが考えもなくどんどん口から出てくる。批判的な口ぶりだったと後になって後悔した。
「寛太、大きい声を出してどうした?」
光太が様子を見に来た。
カケル様が、鬼の元の世界というのは創造神が違う世界という意味だと説明してくれた。興奮しているせいか頭がまわっていなくて理解が追い付かない僕に、光太がよしよしと頭をなでながら説明してくれた。子供の頃からの条件反射で、こうされると落ち着く自分が恨めしい。
簡単に言うと、別の星の生き物なら、別の星に返すことは出来るけど、別次元の僕らはそう簡単にはいかないってことらしい。
「それにしても、鬼もいるんだね。ここの神様は、平和に共存するならいてもいいって言うなんて、優しいんだね」
光太はカケル様にそう感想を言っている。
「まあな、懐の大きい神なのじゃ」
和やかに話している二人に割り込んで、カケル様に気まずいながらも、嫌な言い方をしてごめんなさいと謝った。
「寛太は良い子じゃて。分かっておるでのぉ」
「……」
自分たちで、子犬の姿をリクエストしておいてなんだが、こういう気まずい時は本性に戻ってもらったほうが、なぐさめられても納得がいくってものだなと、思ってしまった。見た目って大事。
子犬に達観されて宥められた僕は、なんだかもにょもにょする……。いや、それより反省しよう。考えもなく大声で糾弾するなんて僕の目指す大人ではない。




