50.天然ドラゴン
***寛太***
宿のご主人アクセルさんが、青白い顔をして部屋を訪ねて来た。
僕たちは4つの寝室がついている宿一番の大部屋に滞在している。キャビンに比べるとどうってことないので、麻痺しているが、金庫番のピートはかなり奮発しているはずだ。
当然、中央のリビングも広々している。
そのリビングで説教をくらっていた僕たちはノックの音に大喜びで反応して出迎えた。
「あの~。ここに聖獣様がいらっしゃるかと……。ノックの前までは確かに気配があったのですが……今は無くって……あ~、どうしたものか……」
「「……」」
カケル様が返事をしないので、誰も言葉を発せず沈黙が落ちる。
「私は、ちょっとばかり、のんきに宿を……」
扉を開けたまま、入る許可を与えられず、廊下で言い訳を始めようとするアクセルさんを、中に招き入れる。
「座ってください。聖獣様は今、カケル様と僕たちは呼んでいます。カケル様、とりあえず、一回言い訳ちゃんと聞いてみてあげたらどうですか?止むに止まれぬ理由があるかもしれないし。ね?」
僕が肩に乗せたカケル様に話しかけると、
「カケル様?子犬!!?」
アクセルさんは驚いて目をひん剥いた。
目線が渉と子犬を行ったり来たりしている。
どうやら、人に化けた聖獣様は渉あたりだろうと予想をつけ、そして盛大に外したらしい。
「火山の、おぬし、成長しておらぬのぉ。じゃが、500年ほど前に会った時は、きちんと火山を管理できておったであろう。成長どころか、退化してしもうたかのぉ」
「……。申し訳ございません。聖獣様のお怒りを感じてすぐに火山を見て参りました。30年程停滞していたのを見過ごしていたようでございます。面目次第もございません」
「人になるのに力も絞っておったか?」
「はい。湖のが、火山の地の温泉は火山が活発である証拠だと言っておりまして、それなら温泉宿を経営して、温泉に異変があれば様子を見に行けばいいかと、そう思いまして……人に限りなく近い状態で生活しておりました」
「「「……」」」
この人、天然かもしれない。そう思った瞬間、柚子が、
「ド天然なのね~」と、言葉にだした。皆も大きく頷いている。思ったことは皆一緒だったようだ。渉もたまらず質問した。
「火山の専門家っていってもいいファイアードラゴンが、なんで他人のいうこと信じちゃったの?」
「湖の、ウォータードラゴンは、賢くて……」
「からかわれたのじゃろうのぅ。湖のに会うたらワシが注意しておく。じゃがの、火山の、おぬしも全て信じてはならぬ。おぬしの仕事じゃて、おぬしの責任でせよ」
「申し訳ございませんでした」
一件落着かな?それにしてもちょっと目を離した隙にって言い方だったけど、それが30年って、スケールがデカい!
それからは和やかに、温泉宿の経営者になった経緯なんかを聞かせてもらった。
見た目を自由に変えられるので、今は宿の3代目っていう設定なんだとか。だんだん老けさせていって、離れて暮らしていた息子が後を継ぐって設定で、若返って再登場するんだって。
「タイミングが一番大事だって、湖のが口を酸っぱくしていうので、そこは神経を使っています!」
アクセルさんは胸を張ってそう言った。
「湖のドラゴンに会うのが楽しみね。いい性格してそう!」
柚子は楽しそうにそういった。
『いい性格』か……。この場合の用法は、ヤンチャな性格って意味であっているだろうか。
そんなこんなで楽しく、ドタバタと過ごしていると、あっという間に両親が帰る日が明日に迫ってきた。
「寛太、リーダーの欲しい物買いに行きましょう。明日渡さなきゃいけないし。この日の為に、リーダーなしでも町に行けるようにちゃんと地図もお店も頭に入っているのよ!」
母が笑顔で言った。
「欲しい物……。あ、お礼を渡すって言ってた!」
「もしかして忘れてたの?」
最後の最後までお説教コースは避けたい。
「ちょっと待ってて、今すぐ、さりげなく、聞いてくる!」
「寛太は火山のに似ておるのぉ」
止めて!あんなに突き抜けて天然の生物と一緒にしないで!




