49.温泉旅館
***柚子***
ショッピングは楽しい!ママや百合子さんと一緒ならなお楽しい!
やっぱりワイワイと、似合う似合わない、高い安いと騒ぎながらのショッピングが一番好きだ。かんちゃんは食べ物の買い出しは嫌がらないのに服や小物になると途端にテンションが下がる。
「そんなに私と買い物するのが嫌なの?」と何度ブチ切れたことだろう。
そんなエピソードまで披露しながら三人でブラブラする。
ピートはその後ろで、女子会のノリに遠慮して空気に徹してくれている。だけど、周りを鋭い目で見ているので、のほほんと平和ボケしてます!って宣言しながら歩いている感じのママたち、とくに百合子さんはいいカモ扱いで狙われているのだろう。
冒険者の服は、着せられてます!って宣言しているみたいだものねぇ。
「ねえねえ、ゆずちゃん。これなんてどう?寛太に似合うと思うわ。黄色で、もこもこしてて、ひよこっぽくっていいと思わない?」
「あら、かわいい。百合子さんが選んだって言ったら、かんちゃん着てくれるかしらね。柚子が選んだって言ったら渋りそうだわ。可愛すぎて」
「そうよね~。ユズ!僕男子高校生なんだよ!って怒りそう」
「見て、ブルーのもこもこもあるわ。ゆずちゃんがこれを着たら、クッキーのモンスターみたいで、黄色い鳥とベストマッチじゃない?」
百合子さん……。それって、どこかのテーマパークでコスプレ風なカップルコーデするときの発想ですから……。
元ネタを知らないこの世界でなら恥ずかしくないかな?
一事が万事こんな感じなので、楽しくてあっという間に帰る時間になる。続きはまた明日。今日は引き上げて、ゆっくり温泉につかって足をほぐそうと、温泉旅館への道へ戻ろうとした。
すると、小道から、顔面蒼白でブツブツ言っている超怪しい男が出て来た。20代後半くらいの中肉中背。見た目はごくごく平凡だ。
オーラは綺麗だ。なんなら綺麗すぎるくらいだ。危険人物ではなさそう。でも念のため鑑定魔法をかけてみる。
【アクセル(仮):温泉旅館の主人(仮):温度管理魔法(仮)】【魔力量:100(仮)】【飲み会の幹事】
怪しい。驚くほど怪しい。(仮)ってなに?スパイ?潜入捜査中なの!?
飲み会の幹事だけ(仮)が無いし。そこだけは本来の自分出してくるの、意味分かんない。
「あら、アクセルさん、お散歩ですか?いやだ、顔色悪いですよ。宿までご一緒しましょうね」
百合子さんが怪しい男に親し気に声をかけた。
「百合子さん、どなたですか?」小声で聞く。
「最初にご挨拶してくれたでしょう?旅館のご主人よ。町の散策地図を書いてもらったり、お勧めのお店を教えて貰ったりして仲良くなったの」
「あ~そういえば」
とは言ったものの、全く覚えていなかった。館内を案内してくれた部屋付きの賑やかなおばちゃんなら覚えているんだけどな……。
外観こそ違えど、システムは日本の温泉旅館そのままのような施設に度肝を抜かれてキョロキョロしていたので、人の記憶は曖昧だ。
ちなみに温泉は裸でなく湯あみ着が用意されていた。
閑話休題。
オーラを見る限り悪い人じゃないけれど、とりあえずは警戒しておいて、カケル様に相談しよう。(仮)だらけの男はどう考えても普通じゃない。
***寛太***
火山の後は、樹海を探検して、気分はすっかりジェラシックパークだ。キャビンの頑丈さに今日は何度感謝したことだろう。見たこともない生物に踏みつけられたり、毒液らしきものを吹き付けられたり。
怖かったけど、楽しかった。僕たちのそんなこんなの大騒ぎで、カケル様もちょっとご機嫌を回復した気がする。
宿に戻ると、柚子が待ち構えていた。
「カケル様!凄い人見つけちゃった!」
柚子が宿のご主人の話を聞かせてくれる。
「(仮)って本当にスパイっぽいね。僕、挨拶した記憶すらないなぁ。靴はここで脱いでくださいって言った人とは別の人?」
「その人じゃないわ」
宿泊客の到着が集中する時間帯だったらしく、大混雑だったので仕方ないか。
「顔見れば思い出せるかも。フロントのぞきに行ってみようかな」
カケル様は、
「なに、すぐに会えよう。ワシに恐れおののいて逃げだしておらねばのぅ」と言う。
これはもしかして!
「宿のご主人がファイアードラゴンなの?」
「そうじゃろうのぅ。いやまさか、人として働いておるとはのぉ。同じ場所におっても、気づかなんだ。余程上手く人になりきっておるのだろうよ。じゃがワシの怒りの思念派を受けて動揺して、柚子や百合子に不審に思われておる始末とは。締まらん奴じゃのぉ」
「ファイアードラゴン?そんなもの探してたの!?」
柚子によってお母さんたちに告げ口されて、危険な事をしちゃいけないとお説教が始まった。
アクセルさん。早く来て~。このお説教から逃れる生贄がくるまで……あと少し。




