45.破門
***寛太***
何がやりたいのか常人には理解不能のププカ司祭は、その後も箱の中でひとり墓穴を掘りまくり、
「この箱をお貸しいただけたら、悪事のあぶりだしがスムーズにすすみそうですわね」
そう、穏健派の女帝に言わしめた。
物騒すぎる覗き見用の箱に見えるだろうが、実際は聖女と聖獣にしかできない複合魔法(部屋と人物の同時サイズ可変、他種の認識無効化で成り立つ透明化、一方向の防音etc)、が駆使されている。
箱自体はいたって普通の木箱だといわれても、不思議にしか感じないだろう。
そういう訳なので、この箱を貸し出しても無意味なのだが……。
「あら、レンティさん、貸し出しは無理ですけど、相談には応じますよ。手こずった悪党がいたらご相談ください」
ニヤリと二人で目線を交わしている。
今回の件は、時代劇好きの柚子にドンピシャはまってしまったのだろうか。
僕の為に関わり合いにならないようにしてくれたのに、こんなことになってしまったと憂鬱になっていたが、柚子本人は楽しそうに勧善懲悪ごっこをエンジョイしているようだ。
冤罪の恐れがないならいいかな。日本じゃないし。
当初予定されていた推薦人への尋問は、時間の無駄だとなって、スケジュールは大幅に変更になった。
僕たちは全員キャビンから出ることなく、司祭たちだけ、大聖堂の広間で箱と部屋を消し、サイズを戻した。
現れた当の本人たちも、仲間の推薦人も、傍聴に駆け付けた人たちも、皆が皆驚いて言葉を無くしていた。
その間に、悪だくみをしていた人たちは言い訳する間も与えられず、ただただ、罪状を読み上げられ、捕まって投獄されていった。
「さすが異世界って感じ?投獄まで一直線だね」
渉はそのスピードに驚きのあまり声を上げた。
「それは仕方ありません。推薦人達はそもそも、一般人です。勝手に遠距離通信を使うというのだけでも大罪です。商人でしたら、私財没収と禁固半年とかでしょうか。それを分かってやって、ばれたのですから、覚悟はしていたでしょう。巨額の賄賂の罪状はおまけに近いですかね」
「そうなんだ。遠距離通信、そこまで大切だったんだ。僕ら、普通に使ってたね」
「聖女様と寛太様のお忍びは聖職者に周知徹底されていますので止める者はおりません。万一そのようなものがいても、腕輪に紋章を表出させて、八角形の紋を見せれば大丈夫ですから」
「あ、そうだった。使ってないから忘れてた」
自分の道具の有難い機能だ。忘れてはいけない。そんな反省をしていると。ピートが続けて言う。
「まあ、それを見せたとて、ププカ司祭のような人物に出くわせば、有難くないことになるだけなんですけどね」
嫌な現実だ……。
「あの人はどうなるの?」
「実際の所は私にもわかりません。が、部下にでっち上げの噂を流させて、自分の欲求を満たすなんてことは一般人でも褒められたことではありません。それを、司祭を任じられた聖職者が聖女様に対してやったのですから、教皇様による破門も妥当かと思います」
「破門って、どれくらいの罰なの?」
「普通の破門は、教会に出入り禁止くらいですが、教皇様による破門は、全ての恩恵がはぎ取られ、神の恩恵のない場所に放り出されると言われています。その破門はあまりの効力に過去に一度しか実例がなく、それすら、『突然姿がかき消えた。神の御業であろう』と文献に残っているだけらしいです」
「そうなの!?」「大事じゃん」大慌てする僕と柚子を、桃子さんがなだめてくる。
「二人とも、落ち着いて。この世界に魔物がいるのが、あなたたちのせいじゃないように、この世界の刑罰が私たちの理解を超えていても、あなたたちのせいじゃないわ」
「そうだよ。それに、日本と違うだけだよ。海外では女性が車の運転をしただけで投獄なんて国がいくらもあるよ。その国にいって、日本と同じようにしなさいって言うのがナンセンスなように、ここで文句をつけるのもナンセンスだよ」
博さんも桃子さんと同じように手出し無用だと説いてくる。
カケル様を見ると。
「そうじゃ、そうじゃて。この世界で生きているものたちの事じゃて。その掟を破ればどうなるか、分かっておって、それでも自分らは咎められないと信じてやったのであろう。責は自らで負うべきじゃ。むろん、お主らも、今はこの世界におるでの、神の怒りに触れぬようにのぉ。ふぉふぉっふぉ」
子犬が精いっぱいの威厳を出して高笑いした。
言っていることはまともなのに、最後が締まらない。
「『私への悪意』って思うと、そこまでしなくても、って思うけど、『この世界に重要な聖女様への悪意』って変換すると、見過ごしちゃいけないんでしょうね」
僕は柚子の言葉に頷いた。
この世界で二例目という、レアで物騒な教皇破門に出くわしそうな運の悪さを呪おう。




