39.キャビン(小)
***ピート***
柚子様の家族も、寛太様の家族もどちらも庶民だという。
あちらの世界は凄いと思う。水仕事一つしたことがありません!という貴族様のような指先で、庶民を名乗ることができるとは。
性格は……ああ、柚子様の家族だなぁと思う事がしばしばある。なんでもやってみようという好奇心と、それに伴う責任感というのか、芯が通っていて潔い。よく言えばだが。
悪く言えば、ハチャメチャで周りを振り回して突進していく感じだ。まあ、自分的には嫌いじゃない性情だ。
寛太様の家族は、寛太様至上主義とでも言うのだろうか?神としもべかな?
そんなぶっ飛んだ環境でも寛太様らしく、のほほんと躱して上手く調和がとれていて、一見は普通の家族に見える。
いずれにせよ、大して気を使わなくてもいい人たちだと認識してしまえば、一緒にいて楽しい人たちだ。
そんなメンバーで地図を見る。旅程の見直しの為だ。
ランド町からは次のサイラー、トリナテ、テッサを経てユドンに向かうルートが一般的だとルートを指で示す。
「寛太様は、みなさんが狩りを楽しまれたようなので、ここで暫く楽しんでから温泉に向かってもいいとお考えです。温泉に早く着きたいなら、すぐにでも出発できます。当初の予定では、途中の町をどこにも経由せず、キャビンで岩山を飛び越えて温泉に向かう予定でした」
「そうなんだよ。スーパー銭湯で満足しちゃったからさぁ。温泉は最後にちょっと寄るくらいでもいい気がしちゃって。どうかなぁ?経由地を回って、柚子の聖女っぷりを堪能しながら進んでも良いかなって思ったりもするし。のんびりしすぎたらいつでもキャビンを飛ばせばいいし」
「飛ぶキャビンも早く乗りたい!この巨大スペースのまま浮くの?」
「体育館サイズが浮くの。ちょっと怖いね。あ、でも外から見れば普通の大きさか」
「ラビを自力で一匹も狩れてないのがくやしい……」
「温泉って、旅館があるのかしら?」
「地ビールとかもあるのか?」
「温泉と言えば温泉卵にプリンでしょ!食べ歩きしましょう!」
……。大人数の移動は意見の集約が難しそうだ。進行役は適任者に任せて、自分は撤退しよう。
***寛太***
ピートのすがるような目を見て、僕は自分の役割を悟った。
好き放題言う人たちの意見を集約して、プランを決めなければいけない。
「二手に分かれるって言うのは?お母さんたちは柚子と買い物してきたら?帰りに何かテイクアウトしてきてくれたら夕飯も作らなくていいし?」
「カケル様が残ってかんちゃんを見張っててくれるなら……」
「大丈夫だよ。僕だっていつもいつもトラブルに巻き込まれる訳じゃないよ」
案外あっさり決まった。女性陣は狩りや魔法実験は一日で十分だったようだ。
女性陣の付き添いはピート。買い物にもこの世界の常識が必要だろうからと、女性チームのストッパー役をお願いした。
男性陣は……。ウキウキしている。父たちは母抜きではしゃげるチャンスに目を輝かしているようだ。
そして翌日、女性陣は空を飛ぶキャビン(小)に乗って、窓から手をふりながら飛んで行った。
キャビン(小)は即席で作った4人乗りのキャビンだ。
馬は、町の側で大きくして馬車に擬態した『数センチ浮いているキャビン』を曳いてもらう為、最初は小さくなってキャビンに積み込まれた。
「何でもありってこういうことだよなぁ」
光太が手を振り返しながらそう言った。
「だな~。浮くだの飛ぶだのってのは魔法だって思えばまだ理解できるんだが、なんでも出せるっていうのはなぁ。理解が追い付かんわ。我が娘ながらチートが過ぎるよな~」
博さんは木材を生成した柚子への驚きがまだ収まっていなかったようだ。
確かに、火や水が出せるのは、魔法だからって思うといけるんだよなぁ。アニメのおかげかな。
石も、土も、ギリ想像できるかな。ストーンバレットとか、土ゴーレムとかの延長だと思えるから。
ただ、やっぱり、角材が出てくるのは驚きだよなぁ。
そんな驚きも、娘がするから驚くだけで、カケル様やリオがやる分には何の抵抗もないようだ。
「こんな魔法は使えるのか?」という質問から始まって、試しにウィンドカッターの魔法はできる?レーザービームやってみて!悪魔召喚とかは?と、
童心に戻ってはしゃぐだけはしゃいでいた。
リオのやらかしで、地形が若干変わったが、人が通らない僻地なので問題ないだろう。多分。
ちなみに悪魔は召喚できなかった。いやいや、呼べちゃったらどうする気なのさ……。




