36.愛と尊敬と感謝を
***寛太***
さて、可愛い勘違いのリオをお供に、二人で何ができるだろう。
いや、言い直そう。リオに何がしてもらえるだろう。
手を繋いで、最初の横穴の場所まで戻る。
「リオ、ここね。埋まっちゃったの。土や岩をどかして地上に出られるように出来る?トンネル作るの。分かるかな?」
「ちじょう?うえ、いくの?にいたま、いる?」
「そうだよ。二人でにいたまの所まで行きたいんだ」
「だっこ!」
可愛い顔で、抱っこをねだられた。今じゃない感マックスだが、とりあえず抱っこをする。
「あのね、リオ」状況を再度説明しようとした、その時、
リオが腕の中で僕をしっかりホールドして一度二度とジャンプした。空中を蹴っている。
「えぇ!?」
嫌な予感がして、僕もリオにしがみ付いた。
三度目のジャンプで、思い切り天井に向かって突っ込んでいった。
そして、僕の結界は、なんと、硬い岩盤をものともせずに穿ちながら、地上まで運んでくれた。当然、その勢いは凄まじく、地上に出た瞬間に天空に打ち上げられることになった。
【ドガドガドドドドドド!】からの【ビューーーーン】からの無重力の【フワッ】を経て、今ここ。スカイダイビングもどき中。
「ぎゃーーーーーぁ!!!ユズ助けてーーー!!!」
***柚子***
地響きがする。タダならぬ不穏な音に身構える。
その音はあっという間に大きく激しくなり、足元が揺れる。両親達は抱き合って顔色を悪くしている。
「結界が絶対に守るから大丈夫よ!」そう声をかけながらも、臨戦態勢は解かない。
地表を割って飛び出てきた何かは、そのまま空高く舞い上がって行った。招待を見極めようと、首を限界までそらした瞬間
「ユズ助けてーーー!」
かんちゃんの声がした。
「「「寛太!」」」
後ろから悲鳴が聞こえる。
「結界があるでのぉ。墜落したとて怪我などせぬぞ。安心するがよかろう」
のんびりしたカケル様の声も聞こえる。
流石に、愛息子の墜落現場は心臓に悪いと思うわ。私は、セーフティーエアマットのような結界を展開してかんちゃんとリオを受け止めた。
死ぬほど心配したのに、このギャグみたいな生還劇。さあ、何がどうしてこうなったか、かんちゃんにはキッチリ説明してもらいましょう!
***寛太***
僕は全く悪くないのに、何故か怒られている。
説明の為に案内した、僕が腰かけた草原の岩のあたりは、窪地のようになっていた。左右の草がずれ落ちてきて、初見では、異変に気付かなかいだろう見た目だ。
「だから、本当に、ここが小高くなってて、岩があって、みんなが見渡せて、見学するのによさそうな感じの場所だったんだよ。それが、自然と崩落したの。一人で冒険しに出かけたとか、そんなの事は一切ないから。信じて!」
柚子の心配からくる怒りは、なんとか静まった。
「リオ、こっちにいらっしゃい」
次はリオに八つ当たりするようだ。
「私の結界を信じてくれるのはありがたいけど、万が一ってこともあるの。今日の使い方は間違っているわ!」
「かんた、けっかい、つよい。でも、ダメ?」
「そう。あれは、攻撃用じゃなく、防御の為のものなの。次にこんなことがあったら、ちゃんと他の人にも相談して使ってね。もっといい方法があるかもしれないわ」
流石の柚子もリオのウルウル上目遣いには、かなわないようで、言葉がすぐに優しいものに変わっていく。
「カケル様!今度はGPS魔法開発するからね。リオ、かんちゃんに勝手につけたストーカーっぽい魔法の解析させて!」
転んでもただでは起きない柚子の逞しさを鑑賞していた家族たちは、僕の肩をそっとたたいて、それぞれ思い思いの言葉をかけてくれた。
「柚子がなにかとごめんなさいね」
「寛太君、いつもすまないね」
「寛太、柚子は任せたぞ」
「寛太、ゆずちゃんにあんまり心配かけないようにね」
ぶっちゃけ、一時間に満たないとはいえ、大冒険して疲労困憊した僕はすぐにも横になりたかった。だが、こだわりにこだわっているらしいキャビンの拡張はまだかかるとのことだった。
魔法解析は後回しにしてくれたとはいえ、いつまで待てばいいのだろうか。
我慢できず草原に横になると、狩猟チームを抜けてきた母が、横に座って体を気遣ってくれた。
暫くの沈黙のあと、母はこう切り出した。
「寛太、ゆずちゃんはいい子よ。でも、でもね。もし一人だけ……。寛太だけだったら元の世界に帰れるって言われたら帰ってくる気があるの?」
僕も、暫く時間をかけて返事をした。
「お母さん、僕ね、ユズと一緒にいたいんだ。色々大変なことばっかりだけど。今日のことを見てたら分かるよね。でも、一緒にいたいんだよ」
時間をかけた割には語彙力が死んでた。でも心の中の本当の気持ちだ。
「もし、ゆずちゃんが、この世界の別の男の人と付き合い始めたらどうするの?高校生の初恋ってなかなか実を結ばないわ」
「そうだなぁ」
状況が違う。二人きりで異世界に転移させられたら、普通より確率は上がるに違いない。でも、そんなことは母も分かっているだろう。
「ごめんね。嫌なこと言ったわね」
そう言って謝った母の頬には涙が伝っていた。心配かけたいわけじゃない。でも、どっちも取る訳にいかない現実が、横たわっているのをひしひしと感じた。
「寛太が選んだんだもの、きっと大丈夫ね。幸せになって。ただそれだけ!……っ!」
空元気をだして、そう言ったのだろう。言った側から泣き崩れてしまった母を、しっかり抱きしめた。無償の愛とは、血の涙を流しながらも幸せを祈って手を離さなければいけないものなのか。
僕は愛と尊敬と感謝を込めて、ただ「ありがとう」とだけ言葉にした。それ以外にはなかったから。




