33.いよいよスタート、家族旅行
***ピート***
大急ぎでランドまで帰ってきた。
大聖堂のお偉方は報告が無かったと怒髪天を衝く勢いだった。かなり怖かった。
教会のないところでは通信ができないと分かってはいたものの、最初の町で騒ぎを起こして、そのまま音信不通になるとは思ってもいなかったようだ。それはそうだな。
「まあ、あの人たちも心配してくれてたってことでしょ」
「そうだね。まさか祠を放置するとは思ってもなかっただろうから驚くよね」
柚子様と寛太様はまるで他人事のようにあっけらかんとしたものだ。あちらとこちらの温度差が凄い。
「それで?噂は流してくれるって?」
「はい、柚子様のご要望の通りに」
「あとは待つだけじゃのぅ。面白そうじゃて、推薦人の呼び出しの時は、こっそり大聖堂に戻って覗くとするかのぅ。リオも行くか?」
「にいたま、いっしょよ!」
「リオが見つかったら面倒じゃない?こっそり行けるの?」
寛太様は賢明にも口を挟んだ。
「見つかったら弟じゃと言えばよかろうて。あやつらに紹介する義理はないがのぅ。説明する義理もなし、騒がれたとて放っておけばよいのじゃ」
確かにそうです、が……。面倒事が増える気しかしない……。
とりあえず、温泉の町ユドンに着いたら、毎日大聖堂の動きを教えてもらうようにしよう。
***寛太***
「ママとおばさんの服、喜んでもらえるかしら?冒険者風はやりすぎだったかしら?」
柚子は前日になって、旅行用に準備した、こちらで着る服に不安を覚え始めたようだ。こんな時、『何だって大丈夫』と一言でも言ってはいけない。それは絶対だ。
「いいと思うよ。この世界ではみんな若く見られるだろうし、冒険者で通ると思うよ。全部格好いいやつ選んだしね」
「ママはともかく、おばさんは可愛いのが良かったって思うかもしれないじゃない?」
「そうなったら、温泉町で買いなおす?ここは小さな宿場町で、どのみち種類だってたいしてないんだから。精いっぱいやったよ、ユズは」
僕の周りの女性は、服にこだわりがあるようで、どうも僕とは話が合わない。僕が適当に買ってきてというと、目を吊り上げて説教モードに入るのだ。
その為、華麗に躱す技術だけは一級品になりつつある。
そして、遂に家族がやって来た。
5ミリ通過してこの世界にやってきて、元のサイズに戻った瞬間に、抱きしめ合って、涙して、これ以上ないほど、頭をなでまくられた。
柚子の方が被害が少ないのは、年頃の娘をなでまわしてもいいものかと、ユズのおじさんが躊躇したためだろう。
大量のお土産もこの世界に持ち込めて、空間収納バッグに無事に収まった。
まずは、着替えてもらって、宿を出ることにした。
馬車で数十分かけて草原へ向かう予定だ。
草原でキャビンの初の空間拡張をして、今日の宿は拡張後のキャビンになる。予定だ。
柚子が、問題ないというから、宿を引きはらった。
「ダメだったら野宿だよ」と脅しても
「問題ないわよ。秘密基地みたいにするのにアイデア出しを渉兄や光太ちゃんにして欲しいだけで、出来るのは間違いないもの。建物は建てられるから、あとはデザイナー待ちって感じかしら」
余裕の笑みでそういうのだ、折れるしかない。
こんなときの柚子に、保険をかけておく重要性を説いても時間の無駄だ。
実際に馬車に乗り込む段になると、家族は興奮を抑えられないようだ。
「草原にすぐに行っちゃうの?町のなかを歩きたいわ」
「そうよね。あそこに屋台があるわ。なにか食べるのはどうかしら?」
「そういえば、寛太。お金ってどうしたらいいの?流石に円は使えないよな」
周りの空気すら違う異世界、何故か分かる言語。着なれない服に履きなれない靴。テンションはマックスだ。
いきなり草原に連れて行くのは無理っぽい。今日の宿泊場所を確保するのが先決だと思ったけれど仕方ないか。
「お金は大丈夫だよ。ワーナー教会からたんまり聖女予算が出てるからね」
「左様です。柚子様や寛太様に支給されているもの以外にも、私が旅の費用として預かっているものもございます。金銭面でのご心配は必要ございません」
「そうよ。それにこの先冒険者として本格的に活動すれば、そんな予算を使わなくてもまかなえる程の報酬が手に入るはずなの。なにせ私とカケル様がいるんだもの。ね?」
ピートは柚子に「その通りですね」と頷き、カケル様も僕の肩の上で得意そうに顎を上げている。
リオは、父の抱っこで幸せそうにしている。父は幼児特有のぷにぷにを堪能中だ。リオのことを鏡越しでも可愛い可愛いと絶賛していた父。相思相愛でなにより。
「あ~。寛太の赤ちゃんの頃を思い出す可愛さだね~」と言ってスリスリしているが、どう考えたって、リオの可愛さに僕の子供時代がかなう訳ないと思う。親ばかって怖い。
結局、宿場町を一通り見て回って、屋台の食べ物を片手に馬車に乗り込んだ。御者席に3人、キャビンに7人とギュウギュウ詰めだ。
そして、乗り心地の最悪な馬車。だったのは過去の話。今は地面から数センチ浮かせて、水平を保ちながら車輪も回っているように見せている。音が静かすぎるので外に向けてそれっぽい音を響かせることも忘れていない。
これにはピートも職人技ですねと言って笑っていた。
色々実験はしたが、最終的に馬は普通に走らせている。重さを感じないキャビンを曳いている状態だ。これが一番自然に見えたからだ。
さあ、いよいよ異世界家族旅行の始まりだ!




