32.噂話
***寛太***
ラビの串焼きを部屋で食べながら、ピートに先ほどの噂話を聞かせた。
「我々が、朝から晩まで草原で魔法実験や演習をしている間にそんなことになっているとは……。この町には教会が無いので教皇様とも遠距離通信連絡がとれておりません。恐らくヤキモキして事情を知りたがっていらっしゃるでしょう。私だけでも王都に引き返して事情を説明してまいりましょうか?」
「そうねぇ。どうしようかしら。こんな噂を流すなんて、私を全く怖がっていないわよね。ふふふっ。一番のダメージって何かしらねぇ。かんちゃん?」
「僕?毎度毎度、変な時に僕に振らないでよ。僕はユズみたいに悪の親玉キャラがしっくりこないからね!」
「あら、私だって悪役キャラじゃないわよ。ただ、やられたら倍返しってだけ!ドラマでもやってたでしょう、倍がえしだ~!って」
「う~ん、じゃあ、噂を流されたんだから噂で返したら?血が流れない穏便な解決方法だよ」
「あらかんちゃん、あの手合いは噂が逆に一番のダメージのはずよ。どんな噂がいいかしらねぇ。リーダー、この世界の聖職者って何を一番嫌がるのかしら?」
ノリノリの柚子はピートにそう尋ねている。
「柚子はやり始めると徹底的にやりそうじゃのぉ」
「てっていてき、やる」
リオの小さい可愛い掌が、バチバチと音をたててスパークしはじめる。
「リオ!『やる』の意味が『殺す』になってるね。違うからね。ちょっとこらしめてやろう、の『やる』だよ。分かるかな?」
「やらない?にいたまも?」
「にいたまも殺らない。りおも殺らない。そう、バチバチしまってね」
スパークが収まった掌を見て、ホッとする。天使の見た目の激カワ幼児は、とんでもない生物兵器だと改めて認識した。
「かんちゃん、リオ君に何やらせてるの?物理攻撃にすることにしたの?」
「違うから。それよりどんな噂流すか決まりそう?」
「う~ん。司祭って、司教になるために推薦人を集めているんですって。その推薦人が離れて行くのが一番の痛手っぽいわね~どうしたらいいかしらね」
「推薦人はププカ司祭から巨額の賄賂を受け取っているらしいって噂を流して、しばらく待ってから、ナルドさんに推薦人を呼び出して聞き取り調査をしてもらったら?本当じゃないなら釈明して終了だし。でも、疑惑をかけられて呼び出されたってなったら、推薦人の心証は良くないと想像できるから、司祭が慌てるんじゃないかな」
「手ぬるくない?」
「いや、それくらいで十分じゃない?そもそもこの噂が流れたら、そんな疑惑の教会だから聖女様が魔力注入を拒んだのかもって噂も勝手に流れるだろうしね」
「まあ、そうですが、今集まっている推薦人の顔ぶれを見ると、そもそも本当に巨額の賄賂を受け取ってそうで、大事になりそうですけどね」
ピートがぶっちゃける。
そこは、知らない。それなら推薦人諸共自業自得ということで!
ピートが単騎で伝令を務めてくれた。ナルドさんにすべての手配を依頼するためだ。通称丸投げ!
電話やメールでちゃっちゃっと済ませられない世界は不便だ。教会まで行かないと通信出来ない。いや、行ったら通信できるだけでも奇跡な世界だ。
「噂を流して、待って、対処してって、まどろっこしいわね」
「まあまあ、家族旅行に行っている間に少しは進展するんじゃない?のんびり構えておこうよ」
「ま、そうね。どんな嫌な噂を流されても教会が『聖女追放だ~!』ってなる訳じゃないものね」
「ついほう?ゆずこ、だいじょぶ?」
「大丈夫よ~。追放にならないわっていうお話よ」
「そうじゃぞ。柚子は追放になっても、しぶとく帰ってきそうじゃしのぉ」
「カケル様、リオ君が混乱するわよ」
それから僕たちは表通りにでて、少しでも自分たちに出来る事をやることにした。
噂話広めるぞ作戦だ。初めてのことで、セリフが棒読みになっているのが、自分でも分かる。
「寛太は才能がないのぉ」
肩に乗っているカケル様が、耳元でこっそり言ってくる。
ピートが覚えている限りの推薦人の名前を書きだしてくれて、それを覚えて会話に混ぜ込んでいるんだけど、
「かんちゃん、あまりにも不自然だわ。私ひとりでやるから」お役御免を言い渡されてしまった。そんなにひどいか!?
果物の屋台を見るふりをしながら、柚子がコミュ力お化けの本領発揮する様を盗み見した。張り合ってはいけない現実がここにある……。
「おお、さっきの嬢ちゃん、今度は可愛い子犬のおまけ付きか?攫われんなよ!」
噂を教えてくれたお兄さんが、がっははは!と豪快に笑いながら僕の頭をくしゃくしゃッと撫でて去っていった。
「……寛太よ、気にせずともよいぞ。ワシはそなたが男じゃと分かっておるでの……」
絶望的に下手ななぐさめの言葉をかけられた。
家族には聞かせられない案件だ。あのお兄さんを見かけたら速攻で逃げよう。




