31.買い出し中
***柚子***
両親達と話し合いをした結果、皆、高速で飛ぶキャビンも体験したいという事だった。ピートが、ありえないって顔をしていたけど、無料のジェットコースターのような感覚だもの。ノリが違うから許してね。
それにしても、みんなして気合入っている。この世界の隅々まで経験して帰るんだと超ヤル気。
というのも、あのノー天気と悪運の強さが服を着て歩いているような渉兄が、異世界から帰還して数日寝込んでしまったから。魂の欠けたのが原因よね。だから余計に何度も経験できないって実感したみたい。
そして、両親達は、なんと25日間の有給休暇を取った。こちらで14日過ごして、帰還して11日間は安静にする計画。
渉兄と光太ちゃんはどうせ夏休みだから目一杯いるという。ゲーマーの渉兄が、そんなにネット環境から離れていられるのかは不明。
キャビンの空間拡張の魔法は渉兄が一緒にやりたいと言うのでこれは棚上げ。
「やること無くなっちゃったわねぇ」
「そうだねぇ。どうせならって、みんな一緒にやりたがるもんね」
かんちゃんとランド町名物の、ラビの串焼きを買い出しに行きながら話す。
「お土産もちゃんとこっちに持って来れるといいなあ」
「リンスインシャンプー楽しみにしてるの?」
「そっちじゃないわよ。いや、そっちも待っているけどね。やっぱり女の子の日の必須アイテムは必要よ。特に多い日も安心的なやつわね。クリーンを開発した今となってはいらないかもしれないとか言わないで。乙女のエチケット的なやつだから!」
「ごめんごめん、って、僕そもそも何も言ってないから」
***寛太***
鏡通信を5ミリサイズになって通り抜ける事を、僕たちは『5ミリ通過』と言う事にしたんだけど、この5ミリ通過は、残念ながら僕が鏡のこちらから引っ張った人間だけが通れるようだ。そもそもあちらの世界に干渉する魔法の効力が僕たちと縁のある人間に限定されているのだろうか。
僕がいくら引っ張ろうとしても、物だけでは引き寄せられなかった。
通過で魂が欠けることを考えると、しょっちゅうあちらの世界の物をねだる訳にはいかないので、今回、みんなには、持てるだけ持って、背負えるだけ背負って来てもらう予定。
「荷物が多すぎて通り抜けられなかったら、2ミリとか3ミリサイズにすればいいわよ。」
「ま、確かにそうだね。小さすぎて取り扱いますます怖いけどね」
そんなことを言いながら歩いていると、ふと驚く話が耳に入った。
「そうそう、俺もそう聞いたんだよ。聖女様はこの世界がお嫌いで祠の魔力注入なんてほったらかして遊び暮らしているってよ」
「「……」」
柚子の顔が般若だ。とりあえず僕は男たちに話しかけに行く。見ず知らずの人に自分から話しかけるなんて何年ぶりだろう。でも、柚子に対応させたら血の雨が降りそうだから……。
「あの、その話って?聖女様の話って、どこに行ったら詳しく聞けますか?」
「なんだ、おめえ?どこに行ったって聞けるよ。数日前からか?王都から来る奴はみんなこの話さ。王都じゃこの話で持ちきりらしいぜ」
「俺はよぉ。眉唾だって思うがなぁ。だって、王都じゃ順調に注入が終わったって大聖堂から発表があっただろう。王都から出たら急に悪い噂が出るってことはよぉ。何かあるなぁ」
「嘘の噂の出どころは分かりますか?」
「おお、嬢ちゃん、嘘の噂って、はっきり言うねぇ。嘘かどうかはまだ分かんねえよ。ただ、怪しいって思っただけでな」
「じょ、じょ、嬢ちゃん?」
可愛い双子ちゃんね~と声をかけられたことはあった。もしかして女の子と思われているかもって心配したことも。
だけど、直接嬢ちゃんと呼ばれるとは。声も聞かせたのに。声変わりしてもそれほど低くならなかったけど……。
「お兄さんたち、話聞かせてくれてありがとう~!じゃ~ね~」
柚子が腕を組んできて、僕をそのまま連れ去った。
「どうどう、かんちゃん、おちついて。ただ可愛いってだけだから」
変な慰め方をしてくる柚子。だが、今は嬢ちゃん呼ばわりにショックを受けている場合じゃない。
「ユズこそ、どうどう。おちついて。だよ。変な噂が王都で持ち切りだって」
「そうねぇ」
「??あんまり気にしてないの??」
「パターンは一緒ってこと。昔もあったでしょ?」
「あ!近所のおばさんと一緒ってこと?じゃあ、あのギラギラした司祭のおばさんってことか」
「十中八九そうよねぇ。ピートさんにナルドさんと連絡とって貰って対応を相談しましょう。折角穏便にチクらずに済ませてあげたのに馬鹿よねぇ」
チクらなかったのは単に、この町に教会がなくて教会同士の遠距離通信が使えなかったからではと思ったが、口には出さなかった。
両親たちの異世界旅行まであと二日。嫌な噂は二日で収まる……訳ないよなぁ~。




