30.開発期間
***寛太***
「旅行先に最適な場所ですか……。湯治と考えていいのでしょうか?」
どうやら、道中も危険がいっぱいの異世界は、のんびり名所を回って観光する一般庶民はいないらしい。
浮かれた庶民がいないだけで、旅自体は勿論ある。
働きに出るため故郷を離れる者は、護衛付きの巡回馬車に乗るために資金を溜めるようだ。
冒険者は自力で危険を退け、商人は大抵自前で護衛を雇っている。
そんなシビアな世界だが、体を癒す湯治の旅は裕福な層には認知されているようだ。
「温泉あるのね!どこまで行けばいいの?遠い?」
「ここランドから二つ離れた町が中継地点になっていて、そこから更に山側に二つ行った町ですね。普通に旅するなら、10日以上かかります。二週間後には間に合うと思いますよ。ちなみに祠は、次の町と、中継地点の町と、温泉の町にあります」
「そうなのね。でも、開発を優先したいわ。祠は家族旅行が終わった後でゆっくりやってもいいでしょう?開発して、時間があったらいく、なければ、キャビンで直接温泉の町まで行きましょう。なんて名前だった?」
簡易地図を示しながらピートが、
「ここです。ユドンの町です」と教えてくれる。
「覚えやすいネーミングね」
確かにそうだと、柚子と二人で笑った。
地図を見ると、次がサイラー、中継地点がトリナテ、街道を山側に分岐してからすぐの祠のない町がテッサ、そして終着点といってもいいだろう、後ろは人が住めない火山がそびえる温泉町ユドンだ。
ランドとトリナテとユドンを結ぶ三角地帯は樹海に岩場、岩山が広がっていて人気はないらしい。
「樹海かぁ。それならランドからユドンに一直線に飛んでいくのも楽勝モードね」
「人目を気にせず飛べるからじゃのぉ。それならギリギリまで開発じゃの!」
「じゃのじゃの!わっちもじゃの!」
結果、クリーンの魔法が出来上がったのが一週間後だった。
天才聖女柚子をもってしてもこれだけ苦戦したのは、お湯で全身を洗おうとしたからだ。柚子のこだわりだ。
単に、『汚れを消す』のではなく、『洗い上げる』ことにこだわったからだ。
「これって、もはやクリーンじゃなくって、全自動シャワー&ドライでは?」
「そうじゃのぉ。そもそも、リオの食べこぼしはこれでは片付くまいのぉ」
「……そうね。確かに……。クリーン魔法は別につくるわ。これは……シャワー魔法って名付けるわ」
そして一からクリーン魔法を作っていたら時間がかかったのだ。
まあでもぜんぜんオッケーだよ。シャワー魔法、すっごく気持ちいいからね。お風呂キャンセル界隈の人々が待ち望んだ魔法と言えるだろう。柚子しか使えないけどね。属性何個重ねているんだか。
クリーン魔法は、正常と認識した状態に戻る魔法だ。
汚れを認識して落とす魔法か、正常に戻す魔法か、理論理屈の問題をカケル様と柚子で喧々諤々やっていたが、僕からしたら、どっちでもいい。
出来上がってよかった。
「リオ、クリーン魔法が出来たから、自分で食べる練習をしようね」
「わっち、かんた、あーんスキよ」
キラキラお目目で、首をコテンとして、上目づかいで言われたが、見た目三歳児だ。そろそろスプーンやフォークの練習をやり始めなければ。って、子育て中の親目線になってる。俺ぴちぴちの男子高校生なのに……。
そして、驚くべきことに、食後、リオが自分でクリーン魔法を使ってテーブルを元通り綺麗にしてくれた。
聖獣弟にとっては、難解極まりない複雑な魔法を行使するより、人型で綺麗に食事をするほうが難しいというオチ……。
カケル様は、嬉しそうに、「流石我が弟じゃ!」と褒めまくって、
「にいたま!いっしょ、まほう、いっしょね!」
リオはカケル様の背中に顔をうずめてスリスリしながら喜んだ。どうやら、カケル様が作った魔法を使えて嬉しかったようだ。
「和むわね~。かんちゃんも使えるように腕輪に細工する?あ、でも、結界を強化する方が先だよねぇ?」
柚子は結界魔法に納得がいってないことを思い出したのか、これを機会に、そこにも手をいれるようだ。
「あと、一週間だよ。間に合う?」
「大丈夫よ。キャビンで直線距離で飛べば、数時間で着くわ。それだって、家族に体験してもらってもいいしね」
「初めてのこの世界の旅行で、ご両親にキャビンの飛行を体験させるのですか!?」
ピートは顔に『あんたは鬼か!?』と書いてあるような表情で柚子に質問した。
「嫌がるかしら?渉兄と、光太ちゃんならいけるかなぁ」
「まあ、今晩にでも聞いてみようよ」
そして二日後、
「柚子は何と戦うつもりじゃ?」
カケル様が呆れた顔でそう言う程の結界魔法が僕の腕輪に施された。らしい。敵に出会わないので実感はないけど。
ピートは自身の危機感をなくしては戦闘に支障がでると、今までの結界に、即死級の攻撃の緩和の追加をしただけで、その他の機能は辞退していた。
そして、何故かみんな、僕が詳細を聞いても言葉を濁す。そんな代物だ。
「大丈夫よ!かんちゃんに危害が加わる訳でなし。悪意の攻撃には反撃機能を付けただけよ。ちょっとだけね」
すがすがしい笑顔の柚子は、危険である。
僕の柚子センサーはアラームを発し続けていた。




