26.宿場町ランド
***寛太***
へとへとになりながらも、無事にランド町に到着した。
この町は王都への街道沿いに細長く出来た町だ。宿場町といった感じか。
通りに面している所から曲がって二つ目の建物で一見すると宿屋に見えない、なんというか……。おしゃれカフェ的な隠れ家っぽい宿が、この町でのピートさんのおすすめだ。
「なんか洒落ているわね。冒険者の格好で入っていいの?」
柚子が思わず聞くほどの映えてる感じの宿だ。
「大丈夫ですよ。元冒険者の旦那さんが亡くなって、残された奥さんと娘さんが自宅を改装してやっているんですよ。それで表通りにないんです。まあでも、二人で切り盛りするなら十分なんでしょう。今日も空き部屋があるといいんですけど……。旦那ってのが良い奴でしてね、冒険者仲間が昔を偲んでよく利用するんですよ」
優しい顔で思い出しながら語るピートを見るに、旦那さんは本当にいい人だったんだろう。ピートは宿に空きがあるか確認しに行ってくれた。
だけど、それより、僕には、この暴走天使ちゃんが宿を汚しまくって頭を下げる未来予想図が見える気がする。
おしゃれなカフェ危険。荒くれのつどう冒険者御用達の食堂とかなら、ジュースをこぼそうが、食べ物を床に落とそうが気にしないだろうが、ここかぁ。思わず遠い目をしてしまう。
柚子も似たような感想を持ったらしい、困り顔の柚子と目が合った。
「食べなきゃ汚れない!リオ、しばらく飲食禁止ね。クリーン魔法が出来たら食べていいから」
普通の幼子に言ったのなら虐待案件なセリフだが、サクッと言い渡す柚子だった。
リオはカケル様と同じく食事をせずとも生きていける存在なのだそうだ。だがしかし、『にいたまが食べているなら食べてみたい』お年頃のようだ。
キャビンに積んであったオレンジを可愛いオテテで圧縮して、辺り一面果汁まみれにしたり、ブルーベリーを頬に詰め込むだけ詰め込んで、むせた瞬間、僕に向かってブルーベリーの雨を降らせてくれちゃったりするものだから、禁止令も納得だ。
「わっち、にいたま、いっしょよ!!」泣きそうになりながら小さいこぶしを握り締める。
「にいたまは一口大になっている食べ物を口に運ばれているだけだよね。リオもそうしてくれる?それに、一口ずつごっくんしてくれるならいいかな~。ね、ユズ?」
僕は妥協案を出してみた。
普通の三歳児なら、一人でスプーンやフォークで食べられるのだろうが、人型初日の聖獣弟には荷が重そうだ。
食べ物を小分けにして、口に運ぶ。幼児と子犬に。
そんな冒険者の日々ってある?
もっとワイルドに、討伐報酬を酒につぎ込んだぜ~!的な冒険者に憧れるんだけどな。お酒は飲めないけど……。
「3人部屋が一つ空いていました。子犬も宿泊可能ですし、リオが誰かのベッドに添い寝するなら4人で泊まっても構わないということですが、いかがしますか?」
「わっち!にいたまといっしょ?ねるの、いっしょ?」
目からキラキラのビームがでそうなリオ。一緒に泊まるのがうれしいようだ。
「じゃあ、僕と一緒に寝ようね。にいたまは、頭の上に寝転がってくれるよ。コロコロ転がって寝相が悪いけどね」
「ワシは悪くないのじゃ。寛太が手をバタバタさせるゆえ仕方なく移動しておるだけでの、人聞きの悪いことを言うでない」
そんなことで大騒ぎしながら、部屋に落ち着いた。清潔で居心地が良さそうだ。
「良いわね~。この宿素敵ね!お料理も美味しければ文句なしね。楽しみ~」
「この町の東側って、林と草原と岩場しかないってリーダーが言っていたんだけど、そこで魔法の開発する?」
「そうしましょう!クリーンに、キャビンの空間拡張。馬車を擬態させて走らせるのもやらなきゃだもんね。ここは教会もないし、うるさく言う人もいないでしょうから、のんびりやっていきましょう!」
「馬車の擬態、楽しそうじゃのぉ~。ワシも協力するのじゃ」
「わっちも、するじゃ~!」
******
この楽しい雰囲気とは真逆の空気を肌で感じているのは、ププカの教会の聖職者たちだった。町中探したが、聖女様ご一行はいない。
門番に聞いても、「入る者は通行税をとるので記憶に残るかもしれないが、出る者に関しては全く分からない」と追い返された。そもそも、どんな馬車で、どんな御者がひいているのかさえ知らないのだ、尋ねる方が無謀だろう。
「司祭様、事の次第を大聖堂に報告されたほうがよろしいのでは……」
「おだまりなさい!ワタクシは全く悪くないのよ。聖女様を恭しく出迎えただけで、何故このような屈辱を味わわされなければならないの!?」
「「……。」」
一同は、「お忍びだということに配慮せよという指示に背いたからでは」という言葉を飲み込んだ。言ったとてまた逆切れされるだけなのは散々学習してきたからだ。
「今代の聖女様は、お勤めを拒否なさっているのに、教会の経費で遊び歩いていると広めてきなさい。ここは王都に向かう南西の拠点。噂を流すにはもってこいの場所よ。絶対にあの小娘に頭を下げに来させて、祠に魔力を注がせてみせるわ!」
宗教心よりも司祭様への服従心で、給料の額が決まってしまうここププカでは、一般聖職者たちの行動も麻痺している。
地獄への一歩はもう踏み出されていた。




