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聖女と僕のやりすぎお忍び冒険譚  作者: グーグー


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23/31

23.クッキー事件

 ***寛太***


 次の目的地はランド町に決めた。王都から南西にあるププカから東方向だ。馬車が通れる道は……ない。

 一旦王都へ戻れば、整備された道が南東方向のランドに向けて伸びている。せっかくの旅だからいろいろ楽しもうと柚子の提案で人通りのない森に突っ込んでいくことになった。


 笑顔の柚子。悪い予感しかしない。柚子の嫌いな押しの強い女ボスキャラに出会った鬱憤晴らしの道中になりそうだ。


 柚子がこういったキャラに拒否感があるのは、小学一年の時に出会った地域交流ボランティアの女性に原因がある。

 手作りのお菓子などを子どもに差し入れてはいけないという学校の決まりなどお構いなしに持ち込んできて、

「そうは言っても、作ってきてしまったのよ。ダメにしちゃもったいないと思わない?それともあなた子どもの前で食品をゴミ箱に捨てる姿を見せたいの?」と担任の若い女性教師に凄んだのだ。しばらく言い合いが続く。


 そして、担任が一人では手に負えないと判断して呼び出した教頭に、

「わたくしはね、この先生に事前に確認しましたのよ。そうしたら問題ないと言われて作ってまいりましたの。それなのに、今になってこのように言われて」といってハラリと涙をこぼして見せたのだ。

「……先生、詳しく事情を説明してくれますかね」といって廊下に教頭と先生が出て行くと、

 女性は僕をロックオンした。柚子曰く、あの頃の僕は「ちょっとおどおどした格好の餌食」だったらしい。


「そこの坊や、わたくしのクッキーを召し上がれ!ほらごらんなさい、美味しそうに焼けているでしょう?」

 僕はクラス中の視線を受けながら震えて言った。

「……、でも、先生がダメだって……」

「まあ、あんなヒヨッコの教師に偉そうに言われる筋合いはないのよ。ほら、あ~んして!」

 クッキーが、僕の口に入る直前、柚子が切れた。

「ちょっとそこのクソババア!かんちゃんに得体のしれないもん食わすんじゃないわよ!」

 クッキーをはたき落とす。

 日本人形のように大人しそうに見える柚子から出た暴言に、女性は理解が追い付かなかったようだ。

「え……?あなた酷いことをするわね。それになんて口の悪いこと」

「はぁ?頭がワいているあんたに言われたくないわよ。私のかんちゃんはね、私の手作りクッキーしか食べないの!」


 ぶっちゃけ、柚子の手作りクッキーなんて食べさせてもらったことは無かったけれど、それを言うタイミングが今じゃないことは分かった。

 クラスの女子が「きゃー!柚ちゃん格好いい~!」とか言って盛り上がっている。カオスだ。

 教頭も担任からのヒアリングが終わって、教室に戻ってきた。

 教頭に連れ出されていく最中もなお、「坊やクッキー無駄にしないで食べてね」と叫ぶ女性の姿に狂気を感じた。


 そして、最悪な事に、その後近所中に

「山本さんのところの柚子ちゃんは、私をクソババアって罵倒して、差し入れを床にぶちまけた、常識知らずの乱暴者だ」と言って回ったのだ。

 柚子の家族は勿論、僕の家族も、クラスメイトの家族も、事情を知る者は皆、真実を話して回ってくれたけれど、声の大きい者の発言はよく浸透してしまうもので、話半分に聞くのが正解だろうという雰囲気が醸成されてしまった。

『悪いメーター』があるとすれば柚子は0なのに50悪いとされて、女性は100悪いのに50悪いとなってしまった。

 あまりに理不尽。


 この事件以来、柚子はこの手のキャラに遭遇すると、相手に容赦はしないのだ。どう上手く立ち回ったとしても、自分にいくらかの火の粉が降りかかるなら遠慮はしないし、温情もかけないというスタンスだ。時々やりすぎの時もあるけれど、今回は、あれで正解だっただろう。

 この先ああいった輩が来て、聖女様と持ち上げながらごり押しして、自分の駒にするような使われ方をするのを僕も見ていられないから。


 さて、森の手前まで来た。

 当然馬車道がないので、馬車はどうするかということなる。

「浮かせましょう!」

「揺れ防止にちょっと浮かせて走るとかじゃなくて、完全に浮かせるの?」

「そうよ。木の上まで浮かせれば障害物回避とか必要ないし、人目を気にしないなら馬の動力で動いているように見せかける必要もないのよ。ただ浮かすだけ!簡単!」

 そう言って柚子は、僕の得意魔法であるサイズ可変(あっさり柚子も使えるようになってた)で馬を掌サイズに小さくして木の箱に藁と共に入れた。

「さあ!出発!」の声とともにフワリとキャビンが急上昇した。

「うわあぁ~~!」と叫ぶピートは恐怖の二文字を顔に張り付かせていた。

 僕も絶叫系の乗り物が苦手なので鏡があれば、そこにピートと同じ表情をした僕が映っていることだろう。


 カケル様は窓から身を乗り出して楽しそうにしっぽを振っている。自分が飛べる生き物は強い。そりゃあ、いざ墜落ってなっても自分は飛んで逃げればいいだけだもんな。

「かんちゃん!見て、操縦席でも作ればシュミレーションゲームっぽくなりそうよ」と御者席から声をかけてくる柚子は最強だ。

「ユズ!危なくない?落ちちゃわないでよ!」

「大丈夫よ。浮かして進むだけよ。ジェットコースターみたいに振り落とされる恐怖とかがある訳じゃないわ」

「それでも、シートベルトはいると思う。自転車くらいのスピードだって、事故したら吹っ飛んでいくんだよ!」

「う~ん。それもそうね」

 柚子は一旦止まったキャビン全体に、結界の魔法をかけてくれた。それでも僕は、野営テント用のロープを空間収納から取り出し、柱と自分を結び付けて命綱とした。

 安全第一。

 青白い顔のピートと目が合う。暗黙の了解でロープを一本手渡した。急いでロープを結ぶピートの手は震えていた。


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