20.道中にて
***柚子***
穴があったら入りたい。逆さまになってひっくりかえってかんちゃんに下着を見られた!
どうしようもなくって下を見つめたまま固まっていたら、かんちゃんに馬車ごと浮かせて運べればいいのにねと、言われた。
かんちゃん大好き!普通の男の子なら、
「見てないよ」とか「大丈夫だよ」とか「気にしないで」とか言うのよ、きっと。
私が食いつきそうなアイデアをサラッと出して、私の恥ずかしいを消し飛ばしてくれる、かんちゃん。大好き!
でも、実際は好きだなんだと言える、甘酸っぱい関係ではない。残念ながら。
いっつも、過保護なお姉さん。もしくは、我儘な妹。親分と子分。カップル枠があるとしても熟年夫婦。って扱いをされる。かんちゃんからも、周りからも。
この世界で二人きりになって、ちょっとは私の乙女心ってものに気が付きそうなものだけど、どうかしら。
そもそも【猛獣つかい】なんて有難くもない称号をかんちゃんに与えた【兄ちゃんズ】の責任を声を大にして叫びたい。
人とは役割を与えられるとそれにそった行動をしてしまう生き物らしい。猛獣つかい……。恋心とはかけ離れたワードだ。
そんな、猛獣つかいのかんちゃんが、私が食いつく話題を提供してくれるのなら、それは絶対だ。どうやったって、反射で喜んでしまうのだ。う~、でも、抗えない。楽しそうだし、恥ずかしいのを挽回できるし。
「浮遊、推進、水平保持、障害物回避、馬は休憩させてカモフラージュで走っているように見せかけて。あ、ついでだから空間拡張できないかしら。快適な空間も必要よねぇ。空間収納バッグの応用で~~」
魔力を練るしぐさを始めた私をみて、
「ユズ!まって、まって、本当にやる気?」
「できそうでしょう?安心して、町の中では解除して、普通に馬に引いてもらうわよ」
考えを中断させられてかんちゃんを見返すと、菩薩のような微笑みでこっちを見ていた。
恋人になりたいとか言うのは、ド厚かましいと感じる神々しさだった。
「ユズ、町の中での事まで考えてて偉いねぇ。でも、今じゃないからね」
ププカの町までは我慢するように言われてしまった。今、まさにお尻が痛いのに……。
***寛太***
柚子を説得して、先を急いだ。とりあえずププカの町にたどり着きたい。実験に失敗して馬車をバラバラにされたら困るのだ。まずは、廃車寸前のものでも買って試して欲しい。
移動しながら実験するなんて、失敗したらどうなると思う?
王都と隣町の道中で、ヒッチハイクする聖女なんて、聖職者たちも見なくはないだろう。
とはいえ、柚子の恥ずかしさが吹っ飛んだのは何よりだ。
ププカに到着したのは閉門ギリギリの時間だった。城壁でぐるりと囲まれている町ではなく、道に門が建っていた。関所かな。順番待ちの列に並ぶ。
「早朝に出発したのに、結構かかったわねぇ」
「途中で一泊しても良かったかな?」
「昔は、中間地点に宿屋があったらしいのですが、最近は馬車のスピードも出ますからギリギリでも閉門に間に合いますので、利用する人がいなくなったようです。ゆっくり旅をしている人でもこの辺りは治安がいいので野宿できるというのも原因かもしれませんが」
「馬車……。スピードよりも乗り心地を優先して欲しかったわね。っていうか野宿!?治安の悪いところは盗賊がでたり、魔物がでたりするのよね。きっと」
「異世界あるあるだよね」
「そうですね。治安の悪い場所を通行するときは商人は護衛を雇っています。冒険者ギルドに護衛依頼を出すんですよ」
「え~、見逃したかしら?護衛任務しながら、旅をしたっていいわけよね。報酬も稼げるし!」
「ハハハ!柚子様は頼もしいですね。でも、残念ながら王都周辺は兵士の巡回も多く、王都からププカは特に貴族がウロチョロしますからね。安全過ぎて、護衛依頼はありません」
「貴族がウロチョロ……。危険ね。平民風情が~!そこへなおれ~!とかいってバッサリいかれるわね」
「時代劇の悪代官かっ!」
「でも貴族ってそんな感じじゃないの?私今、冒険者の格好よ」
そう言って自分の簡素な格好を指さし、適当に結んだポニーテールをヒラヒラさせた。聖女様用の白いローブで黒のさらさらストレートをなびかせている時とは別人だ。
「う~ん。そうですね。貴族でも平民を傷つければ罪になりますよ。ただ、嫌な奴はどこにでもいるとだけ、言っておきます。ちょっとでも変だと思ったら近寄らないようにしてくださいね」
「ユズはオーラが見えるし、いいなぁ。僕が変な人と話してたら引き離しにきてね」
そんな話をしながら待っていると僕たちの順番がきた。
初めての通行税の支払いだ。冒険者腕輪を見せて、割引された税金を支払う。商人ギルドに入っている人も同じような事をしているので、あちらも割引があるのだろう。一人銅貨5枚。500円程度に割引がはいって、300円。
聖職者の認識票を出すとタダだけど、僕と柚子の紋章は八角形にユリの最上位マークなので、出せない。
ピートさんは、懐の中から紫の認識票(一般聖職者の丸にユリの紋章)を見せて無料で通っている。冒険者として旅をするので認識票は出さないと言っていたけど、『もったいない!ピートさんだけでも使わなきゃ損だ』と柚子が力説したので使っている。
「治安の悪いところに行ったらカモにされるかもしれないので、冒険者腕輪を出しますからね」と言われた。今回限りかもしれない。Aランクの金ぴか腕輪は舐められるの防止に役立つようだ。
「治安の悪いところだったら聖職者とその護衛の冒険者二名って思われると思ったけど、銅色の腕輪じゃダメなのかしらねぇ」
楽しそうにそう推測して二人してクスクス笑っているとカケル様が不思議そうに首を傾げて小声で僕の耳元でささやく。
「ワシは無料かのぉ?」
「子犬は無料ですか?」門番に聞いてみる。
「ああ、構わないよ。大型犬に育ったら払ってな!」
随分アバウトな徴収だ。
「大型犬って、どのくらいのサイズから大型かしら?」首をかしげる柚子。
「本性じゃと、間違いなく金を徴収されておったのぉ」といってなぜか得意げにするカケル様であった。
5m級の大きさだと逆に3人分くらい取られるんじゃないだろうか……?




