2.おまけのアウェイは半端ない
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起きない寛太を大柄な男を呼んで運ばせたのは、ここで最も偉い人間、教皇ナルドだった。一番初めに柚子に話しかけた老人だ。
その後紹介されたのは、枢機卿の五人、ユーガ、レンティ、パッスル、ディック、ロト。
寛太が起きるまで、この世界の説明は後回しでと言い切った柚子に折れて、散開したメンバーだったが、聖典絶対主義者の中でも聖典過激派と揶揄されるパッスル、ディック、ロトの三人は、集まって今後の事を話し合っていた。
「あり得ません。聖女様におまけがついてくるなど!聞いたこともありません。聖典にもどこにも記載はないでしょう!」
「何やら怪しい術を使うものかもしれませんぞ!」
「排除せねば!」
柚子が聞いたら一発アウトな話し合いだった。
穏健派と名高い教皇ナルドは同じく穏健派のユーガ、レンティと、頭を抱えていた。
「パッスル達はどう出るでしょうか?聖典に書かれていない聖女様の御連れ様を受け入れるでしょうか?」
「聖典絶対主義者だぞ。無理に決まっている」
「う~む。困った」
***寛太***
スヤスヤ寝こけていた僕は、まだ異世界に来たことも自覚していないのに、どうやらトラブルメーカー一直線なのだった。
起きてすぐ「あ、まだ夢の中か」と呟いて再び目を閉じた僕を、柚子は光の速度でぶん殴った。
「なに!?ユズ?痛いよ!僕殴られた!?」状況を把握していなかった僕は、ここから、柚子の八つ当たりともいえる怒涛の状況説明、現状解説、そして淡々とした感想からの不吉な予想を浴びせかけられた。
柚子のトリッキーさに慣れている僕でも流石にオーバーフロー気味で、
「ちょっと、整理させてね」と言って、しばし黙考した。
それなりの頭脳は持ちあわせていると自負しているだけに、人生経験が浅いというハンデを背負って大人と渡り合っていかなければいけない現状が、大変厳しいこともまた理解できてしまう。
「ユズはともかく、僕のポジションは危ういっていうんだね?」
「ええ、間違いないわ。表情は一瞬で隠したけど、オーラが悪意に満ちていたもの」と言い切る柚子。
「オーラとか見えるの!?流石聖女様だね。異世界チート!僕も何かあればいいのに!」一生懸命有名どころの呪文を唱えてみた。
「かんちゃん。それよりまず、言葉が通じるかよ!私が通じているのが聖女チートなら、かんちゃんは言葉から覚えなくちゃいけないのよ」と柚子はイライラしながら言った。
僕は、柚子に言わせれば、「勉強の虫で成績は良いが、抜けている」のだそうだ。
運動神経が悪くトロくさい。僕の面倒を見て、庇護する柚子がいるおかげで快適なのだと言い張るのだ。
「そっか、言語学習からだったら凹むなぁ。まず信頼できそうな人とだけ会うって訳にはいかなそう?」
「じゃあ、ナルド教皇かな。ここのトップだし、オーラも綺麗だったわ。ちょっと頼りない感じだけど、仕方ないかな」
「教皇なのに頼りないの??」
「うん。ギラギラしてないからそう感じるのかしら?」
不安しかない現状だが、いつまでも引きこもっているわけにもいかないので、行動を開始した。
部屋の外に立つ護衛だという人に、ナルドを呼び出してもらう。すぐにやって来たナルドと挨拶を交わす。
「よかった!言葉は通じるよ!」とホッとする僕。
柚子は、早速オーラの話を始めた。
「オーラが見えるですと!なんと規格外の力を持った聖女様でしょうか!」と大喜びするナルドを遮って、声を張る柚子。
「分かった。私が規格外なのは分かったわ!でもその規格外の力も、寛太に悪意あるオーラを向けるような人がいる場所で使うつもりはないわ。私たちは異世界人なの、この世界の為に何かしようと思わせられるかどうかはそちらの出方次第よ!」
強気に、真っ向から勝負に出た。やりすぎじゃないかと青ざめる僕とは正反対だった。
柚子には勝算があると言う。二百年に一度の召喚はこの世界に聖なる力をあまねく注ぐ為に必要で、しかも神が行うものだ。「生意気な娘だから、チェンジで!」って訳にはいかないと、これまでの情報を総合して判断していたのだった。
ナルドは、姿勢を正して、
「我らワーナー教会は聖女様のおわします期間は、すべての者がそのしもべとなり力を尽くします。というのは、お気づきのとおり建前でして、聖典絶対主義と呼ばれる、そこに書かれていないものを一切排除するという過激派が存在します。それも多数。その者たちにとっては、聖典の通りに現れた聖女様は絶対的な存在でしょうが、寛太様は……、」
「聖典に書かれていない存在は、排除対象な訳ね」
「そういう方向に向かわせないように努力はいたしますが、枢機卿5人のうち、3人は過激派でして。頭の痛いことです」
「教皇の権限って弱いの?」
あまりにストレートな質問に、僕は「ユズ!」とたしなめる声を上げたが、ナルドは、
「教皇は枢機卿5人の家から持ち回りで選出されます。私はユーガと同じ家の者です。いわゆる穏健派と言われることが多い一族です。私が引退すれば次は過激派パッスルの一族の者が選出されるでしょう。そのような状況ですので、教皇というポジションに世間の皆が思うような権力はないのです」と答えた。
「私が後ろ盾になりましょうか?鬱陶しいやつらをぶっ飛ばせるわよ」
「まあまあ、落ち着きなよユズ。教皇に権力を持たせすぎたら次の過激派にバトンタッチしたときにひどい目にあうよ」
援護に回ったかに思えた僕の辛辣な言い様にナルドは目を剥いた。
枢機卿の5人との話し合いは、表面的には穏やかに、何事もなく、これからのスケジュールが話し合われた。この世界の事についての学習が組まれ、そこには僕も一緒に参加できるように取り計らわれた。
魔法の訓練のスケジュールをうらやましそうに見ていると、「体内に魔力がめぐっていないから無理」と、見える柚子に言われてしまってあきらめた。
「体内の魔力が見えるのですか!?」と驚く一同。
チート能力を感じさせる発言をするたびに拝まれる勢いの柚子。
それを見るたび、柚子が遠い存在になってしまうような、なんとも心もとない気分にさせられる。
夜、用意された部屋に戻る。二人専用の居間と、左右に各々の寝室、バスルームに続くドアがあり、プライバシーは完璧だ。聖女様が相部屋などっ!と怒っている者もいたが、柚子が、「かんちゃんと一緒じゃないと仕事しないから」と絶対零度のまなざしで言い放ったら大人しくなった。
そんな、柚子だが、二人きりになって一息つくと弱音がでてきた。
「もう、本当に元の世界に帰れないのかな?渉兄に会えない?光太ちゃんにも?」
いつもなら、相変わらずのブラコンだなって茶化す場面になるのだが、僕も同じ気持ちだったので、口を開かなかった。
「私に凄い力があるって分かるのよ。我が事ながら、漫画みたいって思うもの。でも、こんな力要らないから、帰りたい。帰りたいよ!!!」と言って泣き出した柚子の隣で、肩に手をまわすことしか出来ないでいた。まだ乾ききっていないストレートの黒髪が嗚咽に合わせて揺れていた。
しばらくして、柚子に声をかけた。
「ごめんね。ただでさえ大変なのに、僕みたいな役に立たないお荷物が一緒で。僕にも何か力が貰えたらよかったのに……」自分で思ったより弱弱しい声になってしまった。
「何言っているの?一人だったらもっと不安でしょうが!かんちゃんと一緒で良かったよ。かんちゃんは私が守ってあげるからね!」と一気に声に力が戻った柚子を見た。
『僕、柚子のヤル気スイッチくらいにはなれているかな』と、一緒にいる覚悟を決める。
そして、深夜、僕はサクッと誘拐されて、行方不明になるのだった。




