12.新米冒険者は掃除から
***柚子***
無事に登録も済み、Fランク冒険者として、王都シュナーの冒険者御用達の宿に落ち着いた。ここで少し依頼をこなすつもり。ちなみにパーティーランクはEランク。Aランクのピートがリーダーでも、実践経験のないFランクが二人もいてはこれ以上には出来ないと言われてしまったのだが、最初からヘビーな依頼なんてしないから問題ない。
もっとも、私が聖女アピールでもぶちかませば変わるだろう。好奇心で、どのくらいのランクを提示されるのかやってみたい気もする。
『いけないけない。そんなこと言おうものなら、またかんちゃんに、ため息をつかれてしまうわ』
かんちゃんは腕輪を触りながら、
「それにしても不思議だね~。これで討伐した魔物に触れると討伐報酬がカウントされるなんて」と感心している。
「確かにね。送るボタンを押しながらギルド名を言ったら、そこの解体場にタグ付けて送られて、手数料は取られるけど、解体して素材にしてくれるんでしょう?便利よね~。送るボタンってところだけ妙にアナログだけど」
「腕輪に内包された魔力に頼る仕様ですから。寛太様のように魔力が無くても、あるいは戦いで魔力枯渇に陥っていても使えます。魔力のない者はギルドに行くたびにいくらか払ってチャージが必要です。寛太様は毎日柚子様が補充してくださるので、安心ですよ」とピートが追加の説明をしてくれた。
パーティーメンバー間では、口調も友人同士のようにすると決めたが、ピートはまだまだ慣れないようでしゃべりが硬い。
だが、言うべき時には言うと決めたようで、
「柚子様、空間収納バッグは大変貴重なものですから、悪いやつに目をつけられると申し上げたはずです。もう少しカモフラージュしながら使っていただかないと」とか、
「寛太様、冒険者腕輪は決してはずしてはいけません。お風呂の時もです!これは身分を証明できる唯一のものですから他人の手に渡ってはいけないものです!」と、怒られている。
カケル様だけは、子犬のふりが妙にうまくて褒められていた。
「カケル様は、完璧でした。お食事もお上手で、お行儀よく肩に乗っていらして、素晴らしかったです!」
私たちは二人して、
「「何もしてないだけだから!」」と突っ込んだ。
不思議な腕輪は冒険者ギルドに登録したら貰える必須アイテムだが、私とかんちゃんの腕輪は、ワーナー教会の術者によって上書きされて、身分が必要な場所、例えば祠に入る時などは、『紋章』と言って表出させて、それを見せればフリーパスになるようだ。
八角形の中に教会の紋章であるユリが描かれている。ちなみに教皇は六角形、枢機卿は五角形、大司教は四角形、司教は三角、司祭は二重丸、一般の聖職者は丸、と序列によって使える紋章が違う。
「これが正に、葵の御紋のひかえお~ろ~ってヤツね!」と紋章を出して言うと、かんちゃんは、
「でもさあ、八角形って遠目に見たらもはや丸じゃない?一般聖職者と間違われて追い返されないといいけど」と不吉なことを言っている。
「聖獣カケル様が現れた時に、盟約を結んだ聖女様とお連れ様ということで、粗相があってはならぬと、人相書き、カケル様の本性に、子犬バージョン、それに非常時に表れる手の甲の三つ鱗紋まで、仔細は各教会に通達されていますので、ご安心を」とピートは言った。
「なんか手配書みたいね~」
「どんなのか見たかった!」
「ワシも凛々しく描かれておるか確認したかったのぉ」
三人とも興味を持ったので、王都の外れの小さな教会の祠に行くついでに見せてもらおうと楽しみにした。
さあ、冒険者になって最初の依頼!!
祠のある教会の掃除の依頼。一石二鳥のこれ以上ない良い依頼だ!
冒険者ギルドの受付で注意事項を真剣に聞いて、いざ出発。
小さな教会だ。王都の端にあるとはいえ、王都内だ。建物は洗練されていて美しかった。祠の場所に教会を建てたようで、祠は礼拝堂の奥に一般信徒の目に触れないように囲われて存在していた。
「ちゃっちゃとやってくるから!」と言って中に入って行く。慣れたものだ。練習も兼ねて教皇ナルドと共に、大聖堂やそこから近い教会の祠は既に回って魔力を注いできたからだ。
聖女の魔力(無属性魔法)を注ぐだけ(しかも少量でいい)の簡単なお仕事だ。かんちゃんと冒険者しながら回れるなら楽しい仕事にも思える。
祠に手をかざす。祠の中は見えない。誰も開けたことがないらしい。『今度カケル様に詳しく聞いてみよう』と思いながら掃除に合流した。
***寛太***
「よし、じゃあ僕たちは依頼の掃除だね!箒とか貸してくれるのかな?自前で用意するべきだった?」とピートに相談すると、すかさず司祭がひれ伏して、箒を差し出してきた。
苦笑いをしながら受け取る。
結局、掃除依頼も祠の魔力注入も無事に終わったけれど、教会の依頼は今後は控えようと、全員の意見が一致した。
あまりに平身低頭で震えながら接してくる司祭に、気軽に「手配書みたいなやつ見せて~」とも言えなかった。あの柚子でさえもだ。
「それにしても、寛太様は掃除が上手ですね」とピートに驚かれた。
「こっちに来てから上げ膳据え膳な待遇だけど、元の世界じゃ庶民だし、学校でも掃除の時間ってあるから普通にみんなできるもんだよ」と教えた。まさか箒が使えると褒められる日がくるとは、人生分からないものだ。
数件の探し物依頼、掃除の依頼を経て、いよいよ王都の城門の外で活動することになった。
定番中の定番、薬草採取の依頼だ。朝出発して、近隣の草原や林で採取して夕方戻ってくるというスケジュールだ。
冒険者らしくなってきてテンションが上がってきた!
しかし、ピートから、
「城門の外は、魔物がいます。王都周辺は弱い魔物だけですが。魔法が使えない寛太様は攻撃用ではなく護身用だとしても剣を一振り持っておいたほうがいいと思います」と言われた。
「かんちゃん、無理はしなくていいの。剣も包丁も、なんならナイフだって怖いのは分かってるの。でも護身用にどうかなって、一応聞いておこうと思って」と柚子も言う。
どうやら二人で話し合って、今のタイミングで提案してきたようだ。
「……。僕、刃物は、ちょっと……」あの事件以来、ギラリと光る刃物全般がダメになった僕は、それを自分が持つと想像することも無理だった。
「『守護し合う同盟』が『傷つかない同盟』だったらいいのに!同盟メンバーの魔力で傷がすぐに癒えるっていう微妙な同盟魔法なの、なんで?」柚子が苛立たしそうに言う。
「傷がつかぬなど、道理に反するじゃろう」というカケル様に、
「傷が魔法で癒えるってのだって、私の感覚じゃ十分道理に反しているわよ!」
どうやら、平行線のようだ。ピートが木剣を勧めてくれたので、とりあえずはそれを買いに行って事は収まった。




