11.冒険者準備
***クリシュナ国王エンロぺ***
教皇様から話を聞いた。だが、本来なら国宝リストの最上段にあるはずの一品に心当たりがないことに、私は頭を抱えて悲嘆に暮れた。
すぐさま調査を始めると【破邪の剣】は確かに存在していた。記録もある。だが、聖獣と仲が良かった王子に託されたとして、その王子が亡き後、一緒に埋葬されたとあったのだ。
「この資料では、5代目の王の第2王子の墓と読めます」
「いえ、エンロぺ王、こちらをご覧ください。6代目の第3王子とも読める記述がございます」
「どちらにせよ、墓の場所が分からぬ!」次々にそれらしい資料が集まるが、そもそも墓荒らしの対策として分かりにくく作られた王族の墓は、引継ぎの不手際が一度でもあれば、おしまいだ。
絶望的な状況だった。
「聖獣様に伏して詫びよう。首を差し出せと言われたら、私の首だけでご容赦いただけるよう交渉しよう」
我ながら情けない声が出た。名君となるには程遠いと自認しているが、まさかこのような最期を迎えることになろうとは。
「父上……」向かいで悲壮な顔をしているのは第一王子のケイレブと第一王女のラナだ。
先の王妃を亡くした後、長く気力を無くしていた自分を支えてくれた、年の離れたまだ若々しく美しい現王妃メディーが産んでくれた私の宝物たちだ。ケイレブ、ラナを順番に抱きしめて、最後にメディーにキスをして大聖堂へ向かった。
***寛太***
悲壮感漂う顔で入室してきたエンロぺ王を見て、僕の予想は当たったのだとすぐに分かった。
そして、王は土下座していきさつを話し出した。
「この世界にも土下座ってあるのね」とユズが耳打ちしてくる。そういわれれば確かに。膝をつく敬礼のポーズは見たことがあったけど、土下座は初めて見たかもしれない。
そんな、異例の状況も、カケル様の、
「うむ。そうであったか。共に埋葬とはのう。人とは変わった風習があるのじゃのぅ」という一言で終わった。
状況に追い付けなかった王は、魂が抜けたようで、勧められたソファに機械的に座り、出されたお茶を呆然と受け取っている。アットホームな雰囲気の応接室とのギャップが凄い。
王は、柚子が繰り出す王宮への質問や、ワーナー教会との関係、ギルドとの連携など、聞かれたことにロボットのように答えていた。
しばらく経ったころ、
「剣はそのままにしておくの?探して持っていく?」と柚子がカケル様に聞いた。ビクッとするエンロぺ王を尻目に、カケル様は、
「我が前に戻れ」と一言発して、光る魔力を広げた。
すぐに光は収束して、剣の形をとる。ボロボロの剣だった。
その惨状に、「ひっ!!!」と息をのむエンロぺ王だが、すぐにカケル様が修復魔法を発動して輝きを取り戻した。
「ふむふむ。よいよい。穢れもなく綺麗なものよ」と怒るどころか満足に言った。
今度こそ安堵で魂が抜けたのか、崩れ落ちた王を侍従と護衛達が運び出して行った。
「気持ちわかる~」と僕はおおいに同情した。
初対面がそういった感じだったので、庶民の僕らも王族というものに特別な畏怖や仰々しさを感じずに済んだ。
3つ年上のケイレブ王子と同じ年のラナ王女も夕食を一緒にとったが普通の会話が出来た。
メディー王妃だけは、あまりに美しいかったせいか、ひとりテンパってアワアワしてしまった。柚子の視線が少々痛い。
「かんちゃんって、美人さんに弱いんだ~。へぇ~。ナイスバディーのプラチナブロンドがそんなにお好きでしたか~」と翌日になってもチクチクやってくる。
しまいにはカケル様が助け舟とばかりに、
「柚子も美人さんじゃぞ。笑った顔がチャーミングじゃしのぉ」と褒めだした。
お世辞はいらないと怒り出す柚子だが、くったくなくおしゃべりする柚子を見て、ハリネズミ卒業は喜ばしいことだと皆でホッコリしていた。
さて、勉強はできるくせに抜けていると揶揄われる僕と、世間知らずのカケル様はともかく、自称寛太の保護者の柚子も、自ら引率者を買って出たピートも忘れていた大事な事があった。
冒険者ギルドに登録するパーティー名だ。これがないと登録できないと知ったのは、初めてのギルドカウンターで大興奮した後だった。
「………。」
「どうするユズ。パーティー名だって。考えてなかったね」
「すみません。私が事前に考えておいてくださいとお願いしておくべきでした」頭を下げるピート。
肩に乗っているカケル様は知らん顔だ。
「ちょっといったん出直してきます」そう言ってそそくさと出て行った一行をこっそり引き留めて、裏口から自室に招き入れてくれたのは、ギルマスのドガルだった。
ギルマスの部屋に案内されて、丁寧に挨拶を交わす。それから、
「ピートよぉ。お前がしっかりせにゃあならんぜ。この部屋使っていいから、ちゃっちゃと考えな」とお説教されたピートは恐縮しながらも、お礼を言った。
「すみません。冒険者腕輪の使い方を説明していたら盛り上がってしまって。すっかりパーティー名のことを忘れていました。ありがとうございます」
「まあ、目立たず普通の人と同じように活動したいっていうのなら、ある程度の常識は必要だぞ」とギルドの中で唯一聖女一行の正体を知るギルマスは釘をさした。
トップシークレットという訳ではなく、『あえて公表はしていない』というくらいのゆるい隠密ご一行だが、はなから躓くのは幸先が悪い。
ちなみに、カケル様は普通の子犬に見えるように、会話は控えて、小さな翼を隠すようにバンダナを肩から巻いている。
ドガルが出て行った扉が閉まると、早速アイデア出しを始めた。
「ピートさんは昔どんなパーティー名だったの?」と聞く柚子に、
「私はソロの冒険者でしたのでパーティー名はありません。でも知り合いは、『サンダームーン』とか『ファイアーストーン』とか、二つの単語を組み合わせた名前が多かったように感じます。でも何でもいいんですよ」とピートが答えた。
「かんちゃんは?これ系の小説読んでたんでしょう?良いアイデア考えて!」僕に丸投げの勢いだ。
「え~。やだな~。絶対ダメ出しされそうで言いたくないなぁ」と出し渋ると、ニヤニヤし始める柚子。僕の困る顔が大好物ですと、顔に書いてある。
それを察知した僕はすかさずナルドに特注で作ってもらったコンパクトミラーを出して、渉を呼び出した。
コンコンコンッ!「渉兄ちゃん!」
鏡に映る渉に、ゲーマーの渉ならアイデア豊富だし、柚子も揶揄わないだろうと説明して、助力を頼んだ。
「「栄光の光!」」渉と、そこに一緒にいた光太、二人に声をそろえて言われた。どうやら二人でゲームをするときのパーティー名らしい。
「お前たちにこの輝かしい最強のパーティー名を譲ってやろう!」とドヤ顔する渉兄ちゃんの通信をバッサリと切って、柚子は言った。
「いくら渉兄の言う事でも聞けないわ。リアルでそれを名乗るのって恥ずかしすぎない?」
パーティー名ってこんなものだろうと思っていただけに、そんな感覚なんだ!?と驚く。
結局柚子に何度も何度もダメ出しされて『虹の架け橋』に決定した。
「なんの基準で、どれが良くてどれがダメなのかさっぱりだよ。虹の架け橋だって結構恥ずかしくない?」と、決定した後まで愚痴をこぼしたが、大目に見て欲しい。ほんっとに分からないんだから!




