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「悪役令嬢の娘の母親という没個性なモブに転生したけど、夫には捨てられ娘は孤立していたので、逆転の知略と魔力で全てを覆し、今さら返り血を浴びて後悔し始めた連中は放って私は幸せになります」

作者: 結城斎太郎


貴族社会の中で、もっとも注目されるのは美貌と才能を兼ね備えた貴族令嬢。そして、誰よりも話題になるのが“悪役令嬢”。

その令嬢の“母親”という立場である私、ミレイア・グレイシアは、どこまでも空気だった。モブ中のモブ。婚姻時には「お飾り程度に」と連れ添われ、娘が生まれれば「育児は乳母任せ」と見向きもされなかった。


けれど、私は知っている。この世界が乙女ゲームの舞台であること。そして、娘のカミラが、悲劇の悪役令嬢として破滅する未来を。


私は元日本人。病弱で寝たきりだった前世で、唯一の楽しみがこのゲームのプレイだった。なのに、目覚めればこの“ミレイア”として転生していたのだ。


──私が転生したのは、物語が始まる十七年前。


それに気づいたのは娘が五歳になった頃だった。前世で見たビジュアルと、婚約相手である王太子ユリウスの名を聞いた瞬間、すべてが繋がった。


このままでは、カミラは王太子に婚約破棄され、笑いものにされ、断罪されて終わる。

そんなの、絶対に嫌だった。


最初に行ったのは、夫への離婚届の提出だった。


「は? 離婚? 君にそんな決定権があると?」


アルバート・グレイシア侯爵。金髪碧眼で一見王子様然としたこの男は、表向きは完璧な貴族、裏では愛人にうつつを抜かし、私やカミラを蔑ろにしてきた。


「あなたに情はありません。ただ、これ以上あなたと同じ家に属していたくないだけです」


毅然と言い放つと、アルバートは一瞬だけ目を見開き、すぐに鼻で笑った。


「お前にそんな勇気があったとはな。いいだろう、離婚してやる」


形式的に終わった結婚生活だったが、この時点では彼も、そして彼の母である意地悪な義母も、私が“何かをする存在”だとは思っていなかっただろう。


だが、私は動いた。


カミラの未来を守るため、徹底的に手を打つと決めたのだ。


魔法学院で鍛えた魔力量と、前世の知識を活かして、私は辺境にある古代図書館を買い取り、自らの力を磨いた。そして、社交界に顔を出し、カミラの悪評を払拭するため動いた。


王太子に近づく令嬢たちのスキャンダルを暴き、カミラの魅力を引き立てる装いと言動を徹底的にサポートする。見た目だけの“取り巻き”を排除し、信頼できる友人を周囲に配した。


王太子ユリウスが気づいたときには、もう遅かった。


彼のもとに届いたのは、カミラが魔法大会で優勝し、国家の要請で魔導省に推薦されたという報せ。そして──彼自身のスキャンダルを裏付ける証拠の山だった。


「これは……僕を……陥れる気か……?」


カミラに婚約破棄を告げようとした数日前、ユリウスは私の用意した“証拠”とともに、公式行事から消えた。


それを王妃がどう解釈したのかは知らない。だが、王の勅命により、婚約破棄は“カミラからの申し出”という形で処理された。


社交界は騒然としたが、それ以上に震え上がったのは、アルバートと義母だった。


「あの娘が……なぜ、王宮に呼ばれているのだ……?」


「まさか、あの女……ミレイアが裏で何かを──?」


今さら慌てても遅い。私はもう、“何もしない影の妻”ではない。


そして、私の元には──新たな縁が生まれていた。


「ミレイア殿。貴女の策と行動力に感銘を受けました。我が国にて、補佐官として迎え入れたい」


それは、隣国カレドニアの第三王子、リオネル殿下からの言葉だった。


温和で理知的、そして何より、娘のカミラに心からの敬意と好意を持ってくれている人物だった。


「貴女のような方が、王妃であれば……いや、いずれ正式に求婚させていただく所存です」


そんな言葉に、かつての私ならば尻込みしただろう。


けれど、もう違う。


私は、カミラの母として、そして一人の女性として、もう誰にも虐げられるつもりはない。


「ありがとうございます。殿下……いえ、リオネル」


彼の手を取り、私は微笑んだ。


その頃、アルバートはすでに爵位を剥奪され、義母は国外追放。カミラの名を傷つけようとした者たちもまた、然るべき罰を受けていた。


誰も私に期待などしていなかった。けれど──私は覆したのだ。


「母上、大好きです」


カミラが笑ってくれるだけで、私は十分だった。


……でも、もしもこれから先、もっと幸せになれるのなら。

その未来に、少しだけ欲を出してもいいだろうか?


私は今度こそ、本当の意味で“幸せ”になる。

もう誰にも、邪魔はさせない。




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