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ハンスとロビンの出会い①

 その小さな茶髪の男児はハンスよりも小さいが同じ年頃のように思えた。


 しかし、それにしては華奢すぎる体躯だ。ボロボロの服装といい、普通の暮らしをしてきた様には見えない。

 

「おかあさん、おかえりっ!......このひと、だれ?」

 帰ってきた母さんに一目散に抱き着いたのはまだ幼い3歳の妹のルナだ。


 屈んで妹を抱きしめる母さんは自分とは違う、ルナのくすんだブロンド髪を優しく撫でている。

 自分も妹もエメラルドの瞳は母さん譲りだが、髪色は亡くなった父親譲りらしい。自分もかすかに父の記憶はあるが、確かにそうだった気がする。


 母さんはルナの髪をなでた後立ち上がると、後ろで口を引き結んで立っている男児を振り返る。

「街の外で古い小屋の下でうずくまっているのを見つけて......すごくひもじそうにしとったし、ほっとけんくて......」

 母さんは昔から困っている人を放っておけない性質なのだ。そこら辺でたまたま見つけた浮浪者に、自分たちの暮らしだって苦しいのにパンを分け与えたりする。


「母さんはまた......もう一人子供を養っていく余裕なんてうちにはないよ」

 こういう時自分が母を諫めないと、母さんは際限なく誰かを救おうとする。たとえ母さん自身がその苦しみを請負う事になっても、だ。


「う......でもほっとけんでしょ、こんな小さな子一人外で.....あのままやと死んじゃうかもしれんかったし......」

 エメラルドの瞳がお願い、と言わんばかりにこちらを見下ろす。そんな事を言われたら、そのまま放っておけば良かったのに、なんて言えないじゃないか。


「はぁ......これからはもっと切り詰めないと.....」

 オレは深いため息をついた。

 それを聞いた母さんは喜んでオレに抱き着く。

「ありがとね、ハンス。さすが私の息子っ」

 きつく抱きしめられる感触に嬉しさと恥ずかしさを覚える。


 母さん越しに茶髪の男児が見えるが、その表情は読めない。

 ただ、床を真顔で見つめているだけだった。


「さあ、ルナ。ご飯の準備せんとね」

「うんっ!」

 母さんとルナが先に部屋のキッチンへと向かう。残された男児はまだ扉の外に立っている。


「おい、入れよ」

 話しかけられた男児はピクリ、とわずかに反応すると、ゆっくりと歩いて家の中に入ってきた。


 オレは玄関の扉を閉めた時に初めてそいつが靴を履いていない事に気づいた。

「お前、だいぶ汚れてるな......」

 男児はまだ一度も口を開かない。


 母さんがオレの隣に来て言う。

「そうねぇ......確かにこのままだとこの子のために良くなかね。お湯を沸かすからハンス、身体拭くの手伝ってあげてくれん?着替えはあなたの服を貸してあげて」

「なんでオレが......」


 少し嫌がるオレに、そう?と母さんは困った様に自分の頬に手を添えると、男児に聞く。


「あなたは私に拭いてもらいたか?」


 母さんが尋ねた瞬間、頭を振った男児は腕をあげ、オレを指差した。


「だって、ハンス。お願いね」

 どうやら言葉はちゃんとわかるらしい。しかし、この遠慮なしに人を指さす挙動に、なんとなく生意気な奴な気がした。


「わかったよ......あっちの部屋行くぞ、来い」

 そう言ってオレは手を引っ張ってそいつをもう一つの奥の部屋へと連れて行った。






「あ、ちゃんと綺麗になったっちゃね。よかった。ありがとう、ハンス」

 身体を拭き終え、着替えさせ終えたオレは、そいつと母さんたちが料理の準備をしている部屋へと戻った。

「あ、うん......」


 答えながらオレは疲れを隠せなかった。

 身体を拭くのも一苦労だった。長い間、水浴びもしてなかったのだろう、体中にこびりついた汚れは取れにくく、何度も同じ個所を拭かないと取れなかった。


 さらに全身くまなく拭こうとしたら、自分で拭きたい箇所があれば、急に黙ってフキンを奪い取ってきたりした。


 そのくせオレが何か言っても無視して何も答えない。

 本当に生意気な奴だ。


「さて、二人とも座って。夜ごはんにしようか」

 テーブルの上にはほんの少し具の入ったスープとスライスされたパンが置いてある。

「わーい!ご飯ー!」

 小さな妹は一番にいつもの定位置に座る。

「あ、ルナ。今日はお母さんと一緒に座ろうね」

 椅子が三人分しかないため、ルナを母さんが抱え、向かいの二つの椅子にオレは腰掛けた。


「おい、座れよ」

 別室の扉の前で立っている男児はオレの言葉を聞いてから、隣の椅子に座った。


「さ、いただきましょう」

 そう言って俺たち家族は手を合わせた。


「「「いただきます」」」


 そう言って俺たちは夕食を食べ始めた。


 茶髪の男児はオレ達の一連の動作を無表情で眺めた後、スープをすくって一口、口に運んだ。


 そしてそれをゆっくり飲み込むと、茶髪の男児は今度は続けてスープを口に運ぶ。

 咀嚼(そしゃく)しながら、男児は俯く。表情は良く見えないが、唇を噛みしめているよに見える。


 それから夕食中は、オレも母さんも特に何も言わず、静かな夜の時間が過ぎて行った。


ロビンとハンスの過去回です。書いてて二人のやり取りが目に浮かぶようです。


次話も明日の0時頃に投稿予定です。よろしくお願いします。

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