汽車での話
ガタンゴトン、と小気味いい列車の振動が二人の身体を揺らす。
二人はハンスが作ったバゲットサンドを食べながら外の景色を見ている。
朝日に照らされた秋の牧草地は黄金色に光っていて美しい。
かずさはバゲットサンドを頬張るとマスタードソースが口元についてしまった。それに気づいたハンスがかずさに声をかける。
「かずさ、口の横、マスタードついてるぞ」
「え?あ、ほんとだ......。ありがとう」
言われたかずさは人差し指で着いたマスタードを拭うと、ハンスにはにかんだ。
ハンスは祭りの時と似たシチュエーションにあの時の気恥ずかしさがフラッシュバックする。
若干顔を赤らめたハンスに思い出したようにかずさは話しかける。
「そういえばハンスとロビンが出会った時の話、してくれるんじゃなかったっけ?」
「ああ......」
そういえばそんなことも言ったな、とハンスは思い出す。
「......聞きたいか?」
何だか過去の幼馴染との話など、少し照れくさくて気が乗らないハンスは念のため確認する。
しかし、かずさはそんなハンスの気など知らず、その蒼い瞳を輝かせながらハンスを見る。
「もちろんっ!」
まっすぐに向けられた期待の視線をハンスは無下にできない。
「わ、わかった......」
はぁ、と一つため息を吐いたハンスは少し目を閉じる。
「あれは、母さんがたまたま街の外に出る用事があって......」
ハンスの瞼の裏に、久しく思い出していなかった母の記憶が蘇る。
華奢な身体、明るい茶髪に自分と同じエメラルドの瞳を持った母は、あの日、バツの悪そうな顔で扉を開けて立っていた。
針子として働きながら二人の子供を女で一つで育てている母はいつも疲れが顔に出ていた。
水仕事で荒れた手はいつも傷だらけで、でも子供達の前ではそんな苦労している姿なんて微塵んも見せやしなかった。
そいういえば、母の表情やしぐさなんて久しく思い出していない。思い出そうとしていなかった......。
そう思ったとたん、ハンスは次の言葉が出てこなくなった。
「ハンス......?」
瞼を開けると少し心配そうなかずさが隣でこちらを見ている。
「あ、いや、母さんの事、そういえばもうずっと思い出してこなかったなと思って......。この話をアンタにするのはいい機会だったのかもな」
ハンスは一度頷くと、かずさの目を見て話し出す。
「母さんは結構なお人好しでな。困ってる人を見ると助けずにはいられないような人だったんだ。それでその日も、街の外で物乞いをしていたロビンを偶々見つけて家に連れてきたんだーー」
そう、あれはハンスが8歳の時の出来事だった。
薄汚れ、ボロボロの服を来た小さな男児は母の後ろに隠れ、警戒するようにハンス達をのぞき見ていた。
さて、幼馴染二人の過去編です。
次話も明日(今日?)の0時頃投稿予定です。よろしくお願いします。




