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決意

ハンスの決意の回です!


 扉を開けて食堂に入ったハンスは、カウンター席でカップに注がれたホットミルクを飲むかずさと目が合った。

 目が合ったかずさはハンスを見てほほ笑む。

「おかえり、ハンス」

「ただいま、かずさ」

 ハンスはかずさの笑顔を見て、リュシアンの言葉を思い出す。


『だから私は伝えたかったんだ。私の想いと一緒にポーラさんに、彼女を大切に思ってる私という存在がいる事を』


ーーオレはかずさに何を伝えたいんだろうか。


 自分がかずさを好きだという事だろうか。大切に思っているという事なのか。

 もちろんそれが告白する一番の目的ではあるが、それだけなのだろうかーー。


 珍しく何も言わずじっとかずさを見て見つめるハンスに、かずさは不思議そうに首を傾ける。

「ハンス、私の顔に何かついてる?」

 かずさの言葉に、はっと我に帰ったハンスは思考を現実に引き戻した。

「いや、何でもない。もうすぐ開店だよな。準備してくる」

 そう言ってハンスは奥の部屋へと入って行った。




 夜の営業が終わり、帰宅するためにハンスはかずさといつもの夜の道を歩く。

 ハンスは営業中、料理を作りながらかずさに自分の気持ちを伝えるかをずっと考えていた。

 リュシアンの言葉には自分と重なる部分もあり、ハンスに気持ちを伝えるという事の新たな見解を教えてくれた。


 しかし、ハンスは悩む。

 本当にかずさには自分が気持ちを伝える必要性があるのあだろうか。告白という行動自体がたとえ自己満足なものだとしても、相手の事情を考えないのは良くないだろう。


「ねえハンス」


 ハンスが考え事をしているのが分かっていたかずさはそれまで無言で歩いていたが、橋を渡り終えたところでハンスに話しかける。

 急に話しかけられたハンスはそれまで足元を見ていた視線を上げてかずさを見る。


「今はもう10月になって何日か経ったよね」

 隣で歩くかずさが急に日付を聞いてきたことに、疑問に抱きながらハンスは答える。

「ああ、そうだが......なにかあるのか」


 かずさは急に立ち止まり、少し顔を俯かせる。

 その表情は横髪に隠れて見えない。

「どうしたんだ?」

 ハンスは急に立ち止まったかずさを心配し隣でもう一度声をかける。


 すると顔をゆっくりと上げたかずさは静かな笑顔と口調でハンスに言う。

「一つお願いがあるんだけど......いいかな」

「ああ......いいけど、なんだ?」

 好きな子の頼みなら断る理由もない。自分でできる範囲だがやってみよう、とお願いの内容も聞かずにハンスは快諾した。


 すると急に先ほどの静かな語り口から一変、頭をかきながら照れくさそうな態度を取るかずさ。

 頭に疑問符を浮かべながらハンスは目の前の少女の言葉を待つ。

「いや......あの......子供みたいな事言うんだけど.....ちょっと......少しだけ......だ、抱きついていいかな......」


「......は?」

 予想だにしない想い人のお願いに、ハンスの声が上ずった。


 一瞬で顔が真っ赤になったハンスの表情を見て、かずさもさらに恥ずかし気に顔を赤らめる。

「わ、わかってるんだよ?!小さな子供みたいな恥ずかしいことお願いしてるんだって。だから無理にとは......」

 かずさが必死に弁明していると、ハンスはバッと両腕をかずさの前に広げた。

 その行動に、かずさは惚けてハンスを見る。


「.......えっと......ハンス......いいの?」

「少しだけだからな......」


 さすがに恥ずかしくないわけもなく、顔を逸らしながら答えるハンスの胸にかずさは、うん......と答えてからゆっくりとハンスを抱きしめた。


 ハンスもそんなかずさの小さな身体を受けとめる。


 心臓が激しく打つ反面、下心の背徳感があるせいか、頭の中は少し冷静なハンスは小さな身体を抱きしめながらかずさは何故こんなお願いをしたのだろうかと、考える。


「......ふふ、ハンスあったかいや......」

「そうか......」


 ハンスの胸に遠慮なく顔を埋めるかずさはなぜこんなお願いをしたのだろうか。

 故郷を離れた寂しさがあって、一番身近な存在のハンスにこんなお願いをしたのかもしれない。


 重要な目的のためとはいえ、少女一人がずっと一人で旅することはどれだけの孤独なのだろうか。


 こうしてハグを求めるくらいにはかずさにとってハンスは安心できる存在なのだろう。


 ハンスは腕に力を籠める。

 自分がかずさに気持ちを伝える、その理由を見つけた気がした。


 少なくとも、かずさが心から安心できる存在になりたい。たとえ自分の気持ちが受け入れられなくても。この小さな少女のもう一つの故郷にーー、そんな帰れる場所になってあげたい。


 だから、ハンスは、ハンスがかずさを心から大切に思っていることを伝えたい。

 ハンスはこの小さく温かい感触を感じながら決意する。


 ロビンのコンテストがどういう結果であろうと、自分とかずさの関係が多少変わろうとも、この気持ちを、かずさを大切に思っている気持ちを伝える事をーー。



 しばらくしてからかずさは離れ難く思うハンスの身体から離れると照れ笑いをしながら感謝の言葉を言う。

「ありがとう、ハンス。変なお願い聞いてくれて。帰ろうか」


 そう言って先を行くかずさの背中がひどく寂しく見えてーーその背中にハンスは改めて告白することを心に難く誓った。



なんだかハンスの気持ちの動向ばかりになってしみました。でも、いいですよね、腹くくらせて、これからの展開に挑んでもらいましょう。

次回はまたあいて土曜の投稿になりそうです。よろしくお願いします。

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