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消せない思い出をキミに  作者: 日向千秋
第三章 コンテスト編
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初めて見る物

 ロレンスの案内通り二人は城門を出た後、まっすぐに歩いていく。


 建物が所狭しと建ち並んでいた街中とは違い、街の外は建物自体少なく、周囲には畑や牧場が広がる。


 前方を見ると、駅だろうか、さら地のど真ん中に大きな建物が見える。距離もさほど遠くはなさそうだ。

 その場所までは今歩いている石畳の道がまっすぐに続いている。


 牧歌的な光景のど真ん中に人工物の象徴である駅が(そび)え立つ光景は少し奇妙なものに見える。

 駅の傍には建設中の建物も多く、これから駅を中心に新たな街が出来ていくのだろう。

 

 駅へは15分ほどでたどり着いた。

 二人は駅の目の前に来ると、その大きさに圧倒される。

「でけぇ......」

「大きいね.....」

 城ほどの大きさはないにしても、街中にあれば一台シンボルになりうる大きさだ。レンガ造りの二階建ての建物はその大きなアーチ状の入り口を広げ、客たちを迎え入れる。

 街外だというのに、駅の周囲では多くの人が行き来している。

 

 二人は見上げながらそのアーチ状の入り口をくぐる。

 天井は高く、二階部分は吹き抜けになっていて、下から見える二階の廊下では紺色の制服を着た駅員がせわしなく行き来している。

 入り口を入ってすぐ右手には、待合室なのか、多くの人々がトランクなどの荷物を持って規則正しく並べられたベンチに座っている。


 向かって左側にはチケット売り場があり、これまた長い行列ができている。

 人が多い事もあって駅舎内は街中とはまた違う活気がある。

「人も多いね」

「だな......」


 二人は興味深くチケット売り場でのやり取りや道行く人々を見る。

 よく見ると仕立ての良い服を着た見るからに上流階級の人もいれば、ハンス達のような庶民服を着ている人までいて、身分関係なくこの駅を利用していることがわかる。

 少し奥の両側には売店もあり、手軽に食べられるサンドイッチやパン、焼き菓子などが売られている。


 二人がさらに奥に進むと、駅舎の中に急に大きな黒い塊が現れた。

 蒸気機関車だ。三つあるホームのうち、真ん中に停車している黒く光る蒸気機関車はその煙突から白い煙を蒸かしている。


 ちょうど今、車内に次々と客が乗り込んでいき、最後に駅員の男がホーム上に乗り込もうとする人がいないのを確認して、自らも乗り込み笛を鳴らした。

「ピー!」

 甲高い笛の音が駅舎に響き渡ると、次に叫び声にも似た汽笛が駅舎中に鳴り響く。

 あまりの轟音(ごうおん)に二人は思わず耳をふさぐ。


 ゆっくりと動き出した機関車は、徐々に加速しながら駅舎を出ていく。

 汽笛の音の驚きで一気に上がった心拍を感じながら、二人は耳をふさいだ手を下げると離れていく機関車を静かに見送る。


 線路を走る汽車はガタンゴトンという独特な音を鳴らし、やがて遠くに消えてしまった。

 機関車が残した白い煙をしばらく眺めた後、ハンスが口を開く。


「あれが、機関車か......デカかったなぁ......船以外で一度にあんなに多くの人が移動できるなんて、信じられないな」

 かずさは機関車の存在も、馬車以外の乗り物も、何もかもが初めてで、驚きでただただ(ほう)けている。

「て、鉄の塊が動いて......?生き物にも見えたけどそうじゃないんだよね......?」

 かずさの確認にハンスは頷く。

「ああ、ちゃんとした機械の乗り物だ」

「信じられないや......」

 ハンスもかずさの感想に同意する。

「だな......あれで馬車よりも断然早いのか......これは遠い場所も行き来しやすくなって、これから物流ももっと発展するんだろうな」

 かずさはハンスを見て言葉を繰り返す。

「遠い場所も......?」

 機関車が行った先の線路を見つめてハンスは答える。

「ああ......今まで見たことがない物や食材もどんどん増えていくんだろうな。......そうか......」

 何かに気づいたようにハンスは呟いた。


「いつか、大陸中にこの機関車が走るようになれば、アンタの故郷からも行き来できるようになるかもな」

 その言葉にかずさはハッとした表情をする。

「私の村が近くなる......?」

「ああ!そしたら、アンタの馬鹿体力が無いオレでもいつか行けるかもしれないな」

 ハンスはこれから広がる未来の可能性に自然と笑えてきた。


 嬉しそうなハンスを見ながらかずさも笑う。

「それは、すごいねっ!そんなことが出来るなんて!......ところで、私の事、馬鹿体力って思ってたのかな」

 かずさは笑顔のままハンスに語り掛けると、ハンスは女の子にかける言葉ではなかった、と瞬時に後悔する。

 バツの悪い顔をするハンスに、かずさはいたずらっぽい顔をする。

「まぁ事実だからいいんだけどね」

 怒ってはない様子に安堵するハンス。


 かずさは続けて、

「かわりにあのお菓子が欲しいです」

 と駅舎で売られている焼き菓子店を指さした。

 ハンスはため息を付くと、そういえばかずさから何か欲しいとねだられたのは初めてだという事に気づく。

「わかったわかった。お詫びに買わせていただきます」

 そのかしこまった態度にかずさは無邪気に笑う。

「よろしい。ありがとう」

 


 二人は子袋に入った焼き菓子を分け合いながら店まで帰って行ったのだった。


次回はアイツとアイツとハンスを絡ませます!よろしくお願いします。

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