ミコ衣装?
なんか、かずさが着替えるだけのお話です(笑)
「本当に、これ、着ないといけないんですか......」
開店前の店内。奥の部屋でかずさは引きつった顔でそれを見つめていた。
目の前にそれを持ったエレナがふくよかな顔をにっこりさせてかずさに迫る。
「そうよ。ほら、この白と赤のコントラストが素敵でしょ?」
エレナが持っているのは、以前着物と一緒に手に入れたという”ミコ”の衣装だ。
上半身は白衣の小袖で下は赤いミニスカートという少し奇妙な作りをしている。上の小袖もよく見れば腕の部分に切れ込みが入っていて、腕が見える仕様になっている。
確かにかずさの故郷の着物と似たような作りをしているが、この露出の多さ。かずさからすれば神に仕える神聖な巫女衣装と呼べる代物ではない。
なにより巫女になった故郷の幼馴染はこんな破廉恥な恰好はしていない。ーー着れば似合うとは思うが。
今までの来ていた伝統衣装はこの街に来て初めて見る種類の服だったため、まだ受け入れることもできたが、自分が知っている服を元に作られているため恥ずかしさは伝統衣装よりも勝る。
かずさ以外は巫女衣装の原型など知らないため、気にしなければいいのだが、かずさはどうしても気になって仕方ない。
かずさはエレナの勧めを全力で拒否する。
「絶対に嫌ですっ!」
少し強い口調でかずさが言うと、エレナは意外にも静かに引き下がった。
そして、明らかにシュンとした態度で呟く。
「この衣装も結構上等なものだったのよ......かずさちゃんが来てくれると思って楽しみにしてたのに......」
「くっ......」
かずさは思わず顔を逸らす。
エレナのそういう態度にかずさは弱い。恩があるエレナを悲しませる事は、恩返しをきっかけに始めたこの仕事の趣旨からも外れる。
「......わかりました、わかりましたぁ!」
かずさは観念してその服に恐る恐る手を伸ばし、受け取った。途端にエレナの顔が明るくなる。
「ありがとうエレナちゃんっ!靴はそれね!」
エレナが指さした方向を見ると、床の上に故郷でよく見ていた草履よりも明らかに底の部分が高く作られた草履もどきが置いてある。かずさの運動神経をもってすれば問題ないだろうが、明らかに歩きにくそうだ。
「......はい......」
何もかもが自分が知る巫女衣装とは異なる衣装をかずさは苦悶の表情で承諾した。
着替えた後、エレナに軽く化粧を施してもらいったかずさはいつもの元気はなく、弱々しく扉を開けて部屋から出てきた。
それに気づいたレッカーが声をかける。
「不思議な服装だが、今日も似合ってるぞ嬢ちゃん!」
実際にかずさの恰好は良く似合っている。黒髪ともよく合っていて、袖からちらりと見える白い細腕やすらりと伸びる脚は不思議な魅力を醸し出しており、かずさ目当ての客たちは喜ぶこと必須だ。
肯定的なレッカーの感想に複雑な気持ちのかずさは弱々しく笑う。
「あ、ありがとうございます......」
ハンスも何か言葉をかけなければ、とレッカーに続いて褒める。
「......今日も良いと思うぞ」
若干露出も多すぎる気もするが、普段の衣装とは違い胸元は出ていないのでその点でこの衣装を評価するハンスだったかが、かずさはハハ、と力なく笑って元気なく感謝の言葉を言うだけだった。
「......ありがとう」
ハンスなりの精いっぱいの誉め言葉にも嬉しくなさそうなかずさにハンスは酷くショックを受けた。
昼営業が開始し、次々と客が来店する。
来店した客たちは、出迎えるかずさの白と赤の”ミコ”衣装に肯定的な反応を見せるが、かずさは笑顔を張り付けつつ、
「ありがとうございます」と答えるだけなのだった。
昼営業が終わり、キッチンの片づけに取り掛かったハンスはかずさに尋ねる。
「この後、昨日言ってた駅でも見に行くか」
その言葉にかずさは台拭きをしていた顔を上げ、嬉しそうに答える。
「うん!行く!」
今日初めての明るい笑顔だ。
客席で帳簿付けをしながら会話を聞いていたエレナはかずさに言う。
「その衣装のまま行ってきていいからね」
その言葉に、かずさは瞬時に返事を返す。
「いえ、遠慮しておきます。汚してしまうといけないので!上等な衣装ならなおさらですっ」
想い人がこの衣装で注目の的になるのも面白くないハンスはその意見に同意する。
「そ、そうですよエレナさん。機関車の煙は汚れやすいっていいますし!あいつは白い服なので尚更よくないですよ」
二人のまっとうな意見にエレナは残念そうに眉を下げる。
「そうねぇ......確かに汚れたらよくないものねぇ。せっかくだから宣伝にいいかもと思ったけど......じゃあ、着替えてもらえる?」
”ミコ”衣装での外出を避けられたかずさは今日一番の笑顔でエレナに感謝する。
「はいっ!ご理解いただきありがとうございますっ!」
あまりに嬉しそうなかずさに”ミコ衣装”がかずさにとって不評なことに気づいていないエレナは、なぜそんなに嬉しそうなのかわからない、といった感じで答える。
「ど、どういたしまして......?」
その後、全ての片づけを終わらせるとかずさはそそくさと奥の部屋へ行き一瞬で着替えて戻ってきた。
ほっとした表情のかずさに、ハンスもそこまで嫌だったのか、と思わず苦笑した。
次回は明日、投稿予定です。よろしくお願いします。




