決闘
「始めっ」
号令と同時に先に間合いに踏み込んできたのはレオポルトだった。
レオポルトは自信があるからか、それとも相手がフィンだとなめているからか、かずさに大胆に攻め込む。
降りかかってくる剣をぎりぎりの距離で避けるかずさは、マチルダとの練習で見せたような俊敏さはない。
ヨロヨロと動き、すんでのところでかろうじて避けているようにしか見えない。三回ほど避けた後、振りかぶられたレオポルトの剣を自らの剣で受けとめたかずさだったが、持つ手の力が弱かったのか、剣は後ろに飛ばされ手から離れた。
それを見て、審判が即座に号令をかける。
「止めっ」
号令を聞いたレオポルトは不満そうに舌打ちしてから再び振りかざしていた剣を下ろす。
落ちた剣を拾うかずさとレオポルトは審判の指示に従って再び決闘場の中心へと戻る。
一連のやり取りを見ていたティナとハンスは二人して大きな安堵の息を着いた。
「あの子、上手いことやってるわ......っ」
「よかった......」
かずさは演技をしながらうまい具合にレオポルトの攻撃を受け流している。
このままなら問題なく決闘を終えられる、と一同は胸を撫で下ろした。
再び審判が再開の号令を出す。
「始めっ」
号令が出た瞬間レオポルトが再び剣を振り上げ、かずさに突っ込んでいく。またしてもすんでのところでその剣をかわしたかずさは距離を取る。
逃げてばかりの相手にしびれを切らしたのか、レオポルトが苛立った声を出す。
「おいおい、さっきから逃げてばかりじゃねえか!意気地なしでひ弱な未来のお医者様は本当に頼りねぇなぁ!」
そう言いながらまた剣を大きく振りかぶったレオポルトはかずさに切りかかる。降り降ろされた剣を弱々しく身体の真ん中で受け止めたかずさだったが、レオポルトは鍔迫り合いに持ち込むとそのままかずさをどんどん場の端へと押していく。
決闘場の端でかずさはわずかに踏み留まるもこれ以上耐えるとおかしいと判断したのかそのまま押されて下の場外へと転げ落ちてしまった。
あまりない展開に会場がざわめく。場外で控えていた、決闘の立会人でもあり、医者でもある教授が急いでかずさに近づく。
「君、怪我は」
かずさはゆっくりと立ち上がると首を振って返事をした。
ハンス達もすぐさまかずさに駆け寄る。
「おい大丈夫か?!」
「怪我は本当にしていないの?!」
心配する一同にかずさが返事をしようとしたとき、上から鎧兜を外したレオポルトが言った。
「ほんとに、お前ら弱者は虫のように群れることが好きだなぁ~。フィン、その女と一緒にいるからお前も弱くなるんだ。つるまない方がいいぞ、お前のために」
然も自分が正しいかのように此方を見下ろして嘲笑うその姿に、かずさの中で、何かが切れた。
無言のかずさは決闘場へと戻るために階段へと向かう。
「ちょっと」
ティナの呼び止める声も聞こえないのか、ティナ達に見向きもせず通り過ぎたかずさの背中をティナとハンスは不安そうに見つめる。
かずさは階段を上っている間、ここ数日ティナと過ごしてきた時間を思い起こしていた。
優しく、賢くて誇り高い。かずさはそんな彼女が大好きになった。
だから、そんな大切な友人を自分が正義だと言わんばかりに、間違った認識と悪意をもった言葉で傷つける、そのレオポルトの態度に、その行為に、かずさはもう我慢しない。できない。
この愚か者にはしかるべき措置が必要だ。
かずさの頭の中はティナを傷つけてきたレオポルトへの怒りでいっぱいだ。
「両者それぞれ位置について」
場に戻ったかずさを見ると、審判は二人に指示を出した。
レオポルトは再び鎧兜を被る。
「構え」
その号令で、二人はもう一度剣を前に構える。
余裕を隠そうともしないレオポルトはいかにも馬鹿にしたように笑いながら言う。
「そろそろ逃げ出すかな、お坊ちゃん」
静かに剣を構えたかずさは剣を持つ手に力を込める。
会場が再び静まり返り、観客の視線が決闘場に一気に集まる。
審判は再び息を吸い込んだ。
「始めっ」
また気になるところで止めてすみません。次回は明日か明後日に投稿予定です。引き続きよろしくお願いします。
決闘場と試合場って表現としてどっちがいいのかな、、わからぬ。




