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決闘直前②


 午後六時。近くの教会の鐘が鳴り、会場にいる全員に決闘の始まりを知らせる。

「準備はいい?」

 ティナは扉の前でかずさを振り返り確認する。

 かずさはシルバーの鎧兜と胸甲をしっかりと装着し、既に腰には決闘用の剣を下げている。

 椅子から立ち上がったかずさは力強く頷く。

「うん」

 その様子をハンスは無言で見ていた。


 ティナが控室の扉を開け外へ出ると他もかずさ、ハンス、マチルダの順で外に出た。

 ちょうど全員が控室を出た時、隣の控室を使っていたレオポルト達も扉から出てきた。

 

 まだ鎧兜を小脇に抱えたレオポルトは、ティナ達を見るなりわざと大げさに声を出した。

「おいおいおい、フィン!いくらお前が意気地なしだからって女に囲われて入場はねえだろう」

 数人の取り巻きたちもクスクス笑っている。

 ティナは先に中央の決闘場へと足を進めながらレオポルトを一瞥すると微笑を浮かべて言う。

「あらあら、レオポルト、あなた美女に囲まれるフィンがうらやましいのねー」

「あ”?」

 明らかに不機嫌になったレオポルトを無視して、一同は決闘場に上る左右の階段のうち左側へと行く。

 階段前でティナは鎧兜を被ったかずさの両肩に手を乗せる。

「くれぐれも気をつけてね」

 声を出せないかずさは大きく頷く。

 今まで多くの学生を故意に傷つけ、平気で指や腕を切り落としてきたレオポルトが相手だ。いくらかずさが圧倒的強さを誇っていても勝負に絶対はない。何が起こるかわからない。

 かずさを信頼しているとはいえティナの表情は今も不安そうだ。

 マチルダは一言も発さなかったが、敬意のこもった深いお辞儀をした。


 ハンスもかずさに向けて声をかける。

「無理するなよ」

 その言葉に、かずさは今度はフィンに向けたように元気に親指を立てた。

 不安など微塵も感じてなさそうな様子にハンスは苦笑する。

 

 既に決闘場に登っている決闘委員会審判役の学生がかずさと向かいのレオポルトに声をかけた。

「時間です。お二方、壇上にお上がりください」

 促されたかずさは積み上げられた土でできた階段を上っていく。

 向かい側からも鎧兜を付けたレオポルトが登ってくる。


 階段を上るかずさを見守りながらハンスは何か忘れているーー、と頭を巡らし今になって気づいた致命的な事実にハッとする。

 ハンスの様子に、ティナとマチルダが何事かと顔を向ける。

 周りは賑わっていて聞こえづらいが、努めて小さな声でハンスは言う。

「おい、あいつ、フィンさんの代役なのに一度もそれらしい演技を練習してこなかったんじゃ.......」

 それを聞いた瞬間、ふっとティナはハンスから目を逸らした。思い当たる節があるようだ。

「ご、ごめんなさい......昨日その練習をさせる予定が、昨日はその、頭が回ってなくて......完全に忘れていたわ......」

 心底ばつの悪そうなティナの表情にハンスの口元が引きつる。ティナもティナで昨日は気丈にふるまっていたものの、内心それどころではなかったのだろう。ハンスは責めようにも責められない。

「で、でも一応ここに来る前に少しだけ練習したし、本人は大丈夫って言って

たけれど......心もとないわよね......何かあったら完全に私のせいよ......本当にごめんなさい......」

「いやいやいや、昨日あんなことがあったんだ。仕方ないですよ」

 どんどん自分を責めるティナに慌ててフォローするハンスだったが事情を聞いて、一気に気が重くなる。


 そんな下にいる二人が自分のために気を揉んでいることなど知らないかずさは決闘場の中心でレオポルトと向かい合う。レオポルトは嘲笑った声でフィン、もといかずさに声をかける。

「おい、臆病者のお坊ちゃん。お姫様がいなくて心細いかぁ?」

 馬鹿にした物言いにもかずさは反応せず、ただ静かに佇む。

 その反応が面白くなかったのか、レオポルトは舌打ちする。

「チッ、オレ様を無視するとはいい度胸だな」




 審判員は二人が一に着いたのを確認すると号令する。

「二人とも、構えっ」

 号令に従って二人は剣を抜き、構えた。そしてレオポルトはかずさに向かって言う。

「オレ様を愚弄したあの女の分もかわいがってやるよ」

 もちろん聞こえてはいるが、かずさは静かに剣を構えるだけで何も反応しない。

 

 構え、の号令で同時に静かになった会場に緊張感が走る。


 審判は大きく息を吸い込み、会場中に響く声で発する。

「始めっ!」




いよいよ、やっと決闘シーン!

日曜か月曜までに決着まで投稿したいところです!次回は明日投稿予定です。よろしくお願します。

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