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決闘直前①

すみません、またしても遅れてしみました、、。残業が予想以上に多かったとはいえ、申し訳ないですっ!

 翌日。昨日からの雨は止まず、辺りは日中にも関わらず暗い。

 ハンスとかずさは決闘が行われる夕方まで時間があるものの、生憎の天候で外に出て何かしようという気にはならない。

 今日の予定は午後5時にティナの家に集合し、着替えなどの準備を終えた後そのまま決闘場へと向かう手筈だ。

 二人は朝食を食べ終えるとハンスが用意した紅茶を飲んでゆっくりしていた。

 

 ハンスはティナから借りたレシピ本を鞄から取り出しテーブルの上で読んでいる。

 向かいに座るかずさは窓の外を静かに見ていた。


「ねえ、ハンス」

 急に尋ねられたハンスは本から顔を上げてかずさを見る。

「なんだ」

 かずさは窓を見つめたまま続ける。

「ティナは何も、間違ってないよね」

 ハンスはその問いに、ただ肯定する。

「そうだな」

 かずさもハンスに顔を向けて、少し悲しそうな表情で言う。

「ティナは何も間違っていないのに、なんであんなにひどいこと言われなきゃいけなかったの」

 かずさの表情を見て、ハンスはしばらく考えてから答える。

「……さあな......あのツンツン頭の学生達はそういう価値観で生きてきたんだろ。そして、その凝り固まった価値観から抜け出せないんだ。ああいうのは、自分たちが絶対正しいって思ってる。だから人にひどいことを言っても良いと思ってる」

 かずさは更に顔を曇らせる。

「それはもう......絶対に分かり合えないってこと......?」

 ハンスは静かに答える。

「そうだな......」

 ハンスの言葉に、そっか、というとかずさは少し俯いた。

 気落ちしたかずさの様子にハンスは慌てて次の言葉を続ける。

「でも......でも、あいつらにはわからなくても、オレ達はクリスティーナ様が優しくてすごい人だってわかってるだろ。それでいいんだよ、あいつらにはわからなくても俺たちはちゃんと知ってる」

 ハンスが力強い言葉で言うと、顔を上げたかずさも少しだけ笑って言った。

「うん、そうだね」

 かずさの心は完全に晴れることはなかったが、それでもハンスのその言葉にかずさは少しだけ救われた気がした。



 決闘場はハンス達が勤める食堂に近い大学の講堂の一角にある。

 元は馬小屋だったらしいその場所は屋根も高く、奥行きがあって広い。

 建物の中央には周りから見えるように土で小高く積み上げられた場所があり、そこで決闘が行われる。


 ティナ達と合流し、かずさ達が会場に着いた頃には既に観覧に来た学生たちで賑わっていた。

 決闘場の端ではビール樽が置かれており、どこから決闘の話を聞きつけたのか酒屋の主がビールジョッキに注いで学生たちに売っている。本来、神聖な決闘の場に娯楽的要素はタブーとされているが、ビールは黙認されているようで立ち合い準備をしている決闘委員会や大学の教授などは何も言わない。

 会場に入る際かずさはバレないように鎧兜だけかぶって突き当りにある控室まで移動したが、決闘前に防具を被る学生など珍しいらしく、観覧に来た学生たちから奇妙な視線を向けられた。

 



 「さて、準備はいいかしら、かずさ」

 決闘場の控室で椅子に座るかずさに後ろからティナが声をかける。

 かずさ、ハンス、ティナ、マチルダはティナの家で合流し、かずさを着替えさせた後、会場となる決闘場へ来ていた。


 かずさはティナの問いに大きく頷く。

「うん、大丈夫だよ。任せて」

 その頼もしい返事にティナもまた頷く。

 彼女の顔に昨日までの弱々しい表情はない。かずさは改めて、本当に強い人だと感心した。

 

 突然、控室の扉がノックされた。

 予想外の訪問者に一同は慌てる。かずさはとりあえず、再び鎧兜を頭にかぶった。

 それを確認したティナはマチルダに視線を送ると、マチルダは扉に近づき、開けた。

 すると、外にはヘンリーと綺麗な長髪ストレートの赤髪を持つ、ブラウスに長めのスカートを着た庶民風の少女が立っていた。

 少女は恥ずかしそうにヘンリーの後ろに隠れている。

「クリスティーナ嬢。急にすまない、決闘前の忙しい時に。この子がどうしてもというんだ」

 ヘンリーはそう言うと後ろに隠れている少女を見る。

「お前がどうしてもって言うから来たんだぞ」

「で、でも、ボク......わ、私、やっぱり......」

 見慣れない少女に控室にいる一同は首を傾げる。

 モジモジする少女をヘンリーは無理やり控室の中に押し入れた。

「ほら、行ってこいっ」

「わわわぁあー」

 押し出された少女はかずさくらいの背格好だ。恥ずかしいのか、スカートを握ってモジモジしている。


 初めて見るはずなのにティナはこの少女の声に聞き覚えがあった。

「あなた......もしかしてフィン......?」

 その問いかけに恥ずかしそうに少女は頷く。

 その反応を見た瞬間その他一同は目をむいた。

「「「えぇ~?!」」」

 

 フィンの変装は見事だった。

 目の色は変えられないものの、かつらの長い前髪でうまく隠し、元からの華奢な体つきだけではなく、胸にも詰め物をしており、スカートを履けばもはや男とはわからない。いつもかけている眼鏡も外し、顔もわずかに化粧を施していて、可愛らしい町娘にしか見えない。

 しかし、当の本人はまだこの格好に慣れていないようだ。

「で、フィン、何の用?」

 ティナがフィンに要件を聞く。

「あ、ボ、ボク、その、代役の人に一言言いたくて......」

 声が出せないかずさは私?とティナを見て自らを指さして確認すると、椅子から立ち上がってフィンの目の前に行く。

 兜をかぶったかずさを目の前にしたフィンは、いきなり頭を深く下げると言った。

「今日は、僕のためにごめんなさいっ!本当にありがとうございますっ」

 いきなり頭を下げたフィンにかずさは目を丸くした。

 フィンは続ける。

「意気地なしのボクのためにこんなに危険なことをさせてごめんなさいっ!ボク.......ボクッ......!」

 フィンの言葉には後悔と申し訳なさの気持ちが表れていた。

 その気持ちを汲み取ったかずさは頭を下げるフィンの肩にそっと手を置く。

 

 気づいたフィンはゆっくりと顔を上げて鎧兜の騎士を見上げる。

 半泣きのフィンが顔を上げるとかずさは親指を上げて、力強くサムズアップをした。

 そして、ティナもフィンに声をかける。

「何も問題ない、任せってっていってるわ」

 その言葉にフィンは思わず感極まって鎧兜の騎士に抱き着いた。

「どなたか存じ上げませんが、ありがとうございます~~っ!」

 かずさもその抱擁をガシッと受け止めた。

 傍から見れば、可憐な町娘が鎧の男と抱擁しているロマンティックな場面に見えなくもない。


 しかし、心の中で面白くないと思う男が一人いた。ハンスは何も言わず、眉間の皺を深めた。

 ハンスの表情に気づいたティナは、慌てて二人を引き離す。

「ほらほら、私たちもまだ準備があるから」

「ああ、ごめんなさい。じゃあ、騎士様、よろしくお願いします」

 フィンはまた頭を下げると、ヘンリーと一緒に出て行った。

 かずさは二人の足音が離れたのを聞いてから、鎧兜を取って口を開いた。

「フィンさん、とってもかわいかったね」

 無邪気なかずさの笑顔に

「そ、そうね」

 と答えつつティナはまだ不機嫌そうなハンスにちらりと視線を送った。




鎧兜のかずさはフィンからしたら危険なのに代役をしてくれる命の恩人で、かっこいい騎士に見えたんだと思います。

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