決闘練習③
これ、、今週末も決闘いけなかった、、すみませんっ。
ハンスはティナの家に着いた後、マチルダの案内で先に地下室へと通された。
かずさはフィンから借りた学生服にティナの手伝いを受けながら着替えている。
服を着るだけならティナの手伝いなどいらないだろうに、とハンスは疑問に思いつつ地下室の壁に寄りかかって待つ。
共に地下室で待つマチルダは何も話さないため、ハンスは若干の気まずさを感じつつ、かずさ達が下りて来るのを待つ。
しばらくすると地下室の入り口が開く音がして階段を降りてくる二人の足音がした。
先に地下室に入ってきたのは、普段とは違う雰囲気のかずさだった。
かずさはフィンから借りた学生服ーー白いシャツに紺色のスラックスを纏い、足には革製のローファーを履いている。短い髪を後ろで一つに束ねており、腰にはすでに決闘用の剣を差している。
胸にさらしでも巻いているのか、背筋を伸ばしていても胸のふくらみなどまったくわからない。
地下室を歩くかずさは、いつもの無邪気で明るい雰囲気はなく表情を引き締め、凛としたその姿は精悍だ。整った顔立ちも相まって、もしこのまま外に出れば学生服を着たこの麗人に誰もが注目するだろう。
かずさは地下室に入ってすぐ、隅に置いてあった栗毛のかつらと防具をマチルダと後から来たティナの補助のもと身に着ける。
ハンスは一連のかずさの様子を興味深く見ていた。
準備が終わったかずさはマチルダと共に地下室の中央に立ち、剣を抜く。
今日のかずさからは昨日よりも積極的な練習への意欲が伺える。
マチルダが持ってきた剣を構えたのを見て、ティナは二人から離れてハンスの隣に並んで立つ。
剣を構えたかずさが言う。
「すみません、マチルダさん。私今日、昨日よりめちゃくちゃな動きするかもしれません」
かずさの言葉に、一瞬眉を動かしたマチルダはいつものように淡々と答える。
「かまいません。ご自由にどうぞ。ですが、本日はあなた様の避ける練習も兼ねています。こちらからも積極的に攻めさせていただきます」
かずさは兜ごと頷く。
「はい、わかっています。では......行きます!」
かずさはそう言うと、開始早々惜しみなく能力を使い一瞬でマチルダに接近する。
マチルダも一瞬驚いた表情をしたものの、咄嗟にかずさの剣を受け止める。
その後も連続で攻めるかずさの剣を防ぎつつ、マチルダは隙を見てはかずさの頭や腕を狙っていくが、かずさは全て避ける。
昨日よりも積極的に攻め込むマチルダはかずさの剣を払い上げ、かずさの胴を狙うもかずさは後ろに飛び、間合いを取った。
二人の攻防を見ていたハンスとティナは驚く。
かずさの今日の動きは昨日の比ではない。ハンスが初めて会って野盗を蹴散らした時よりも早い動きをしている。
それを受け止めるマチルダもやはり実力者なのだとハンスは素人ながら改めて認識する。
しかし、気になるのはかずさの雰囲気もまた全く違う点だ。昨日の様に楽しんでいる様子はなく、鬼気迫るものを感じる。まるで、静かに怒っているようだ。
無言の激しい攻防が地下室で繰り広げられる。
ハンスとティナは静かに二人の練習を見守っていた。
練習が終わった後、普段着に着替えたかずさとハンスはちょうど陽が落ちる頃にティナの家を出た。
見送りの際、ティナは二人を笑顔で見送った。しかし、その表情はやはりいつもの覇気はなく弱々しかった。
かずさとハンスは心配に思いながらも明日の約束をし、ティナ達と別れた。
先ほどまで雨が降っていたのか、地面は濡れている。今は降っていないものの、雲行きからもまたいつ降ってきてもおかしくはない。
陽は沈んでいないのだろうが辺りは雲のせいでずいぶん暗い。
ハンスは隣を歩くかずさに聞く。
「風呂、入らなくてよかったのか」
問われたかずさはあぁ、とハンスを一瞬見ると道に視線を移してから答える。
「うん。今日入ったら今のこのもやもやした気持ちが薄まりそうだったからやめとく」
「そうか」
ハンスはそれ以上何も聞かなかった。
かずさはティナとレオポルトの一連の件で感じることがあったのだろう。今のかずさには昨日とはまた違った気楽に話しかけられない雰囲気がある。
ハンスには一瞬、かずさの蒼い瞳が鋭く光っているように見えた。
次回の夜までには投稿します!
明日の話まで、決闘直前で、やっと次の次のお話から決闘です!お待たせして申し訳ないです。よろしくお願いします。




