二人のやり取り
土曜日を過ぎてしまってすみません!毎度、申し訳ないです!
よろしくお願いします!
ハンスは壁に寄りかかったまま腕組をし、静かにかずさ達二人の練習を見ていた。
二人は序盤から素早い動きで剣を交える。
剣裁きや身体の使い方からハンスの素人目からも二人がかなりの実力者だという事がわかった。
マチルダは無表情なため感情は分からないが、かずさは思いっきり身体を動かせることが嬉しいのか、普段は見せないアクロバティックな動きを次々に繰り出す。
その様子を複雑な表情で見つめるハンスの横にティナが並んで壁に寄りかかった。
ハンスはティナに気づいて一瞥したが、すぐに戦うかずさ達に視線を戻した。
ティナがハンスに話しかける。
「かずさはすごいわね。マチルダも古くから私の一族に仕えてくれている家の者なのよ。戦いにおいては一流の実力を持っているのに、それにまったく引けをとらないどころか、楽しむ余裕があるなんて」
「......そうだな」
かずさが誰よりも強いことは最初から、それこそ出会った時から知っている。
ハンスは野盗を次々に圧倒していったかずさの姿を思い出す。
縦横無尽に動き、小柄な身体で敵を薙ぎ払っていく勇ましい美しさ。
ーーあぁ、あの時からもうオレはアイツのことーー......。
「あなた、あの子のこと好きでしょ」
「はぁ?!」
急なティナの言葉にハンスは強制的に現実に引き戻される。
隣のティナを見ると、全てお見通しと言わんばかりの笑顔でハンスを見ていた。
ハンスは動揺しながらも返す。
「なんか勘違いしてるみたいですけど、オレ達そんな関係じゃないので......」
その言葉に綺麗な笑顔でティナは再び返す。
「そうよね、あなたの片思いよねー」
連続で図星をつかれ、みるみる顔を赤らめるハンスにティナは思わず吹き出してしまう。
「ふふ、ごめんなさい。あまりにも反応が面白くてからかってしまったわ」
ハンスはティナを半目で見る。
「......いつからわかってたんですか」
今更取り繕っても仕方がないと、ハンスはその事実を認めることにした。
しかし、いつから気づかれていたのだろうかと単純に気になる。
「そうね、かずさをお風呂に入れるために一度許可を取りに店に戻った時かしら」
それは自分が自覚した時より前ではないか、と軽くショックを覚えつつハンスは質問を続ける。
「なんでそれで......」
ティナはニヤりとして一言。
「女の勘ってやつかしら」
その笑顔にこの人に隠し事をするのは、常人には難しいのだろうと底知れない何かを感じたハンスだった。
しばらくするとティナはそれまでの楽し気な表情から一変、静かにハンスを見つめて言った。
「そんなあなたの大切な人を危険に巻き込んでしまってごめんなさい......っ」
ティナは深々とハンスに頭を下げた。
横からはかずさ達が剣を交える金属音がする。二人は練習に夢中でティナが頭を下げている事など気づかない。
頭を下げたままティナは続ける。
「私のわがままにあの子を付き合わせてしまった......。でも、どうしてもフィンが、数少ない私の友人が傷つけられるのを見過ごせなかったの......っ。かずさにとっては、能力がバレるかもしれない上、女の子なのに代役をさせようなんていうひどい提案だと思うわ。それに......提案した時、優しいあの子なら断らないだろうって、心のどこかで私思ってたのっ」
堰を切ったように止まらないティナの言葉。
この作戦を立案した時から彼女はいつかハンスに謝らないといけないと思っていた。たとえかずさ本人が承諾していたとしても。
頭を上げられないティナにハンスは深いため息を一度つくと言った。
「顔を上げてください」
その言葉を聞いて恐る恐る顔を上げるティナに、頭をかきながらハンスは言う。
「......今回の件、納得できませんし正直ムカつきますけど、そこまでご自分で分かっているなら、もういいです。あいつのこと、絶対にバレない様にしてくれるんですよね」
再び強い光が宿った緑の瞳を向け、震える声でティナは言う。
「ええ、絶対に。命に代えても」
その誠実さと真剣さを持った言葉を聞いたハンスは頷いて言う。
「それなら、あいつが信じたあなたの事、オレも信じます。あいつの事、よろしくお願いします」
ハンスは穏やかな表情をティナに向けた。
思いもしない返答にティナは一瞬驚いた顔をした後、すぐに表情を引き締めた。そしてまっすぐな視線を向ける。
ティナはハンスから受け取った言葉の重みを噛み締めながら、しっかりと答える。
「ええ……。ありがとう」
地下室にはそんなハンスとティナのやり取りを知らない二人の刃の音が何度も鳴り響く。
明日、投稿予定です!次は、期限を守ります。。(←いや、ほんといつも守れって話ですよね、、)




