決闘練習②
ぎりぎり水曜日!
今回めっちゃ読みにくいと思います、すみません!
椅子から立ち上がったティナは二人に向かって言う。
「お疲れのところ申し訳ないのだけれど、さっそく決闘の練習をしましょうか」
その言葉にかずさは素朴な疑問を口にする。
「決闘の練習はいいけど、目立たない開けた場所に行かないといけないよね」
その発言にティナはゆっくりと首を振る。
「いいえ、ここで可能よ。マチルダ」
呼ばれた栗毛の侍女は奥にある部屋の扉を開けて二人を見る。
「お二人とも、どうぞこちらへ」
案内に従って月明かりが差し込む薄暗い室内へと通された二人は興味深そうに部屋を見回す。
しかし部屋にはこれといって珍しいものは無い。壁に並ぶ大きな本棚二つに机と椅子しかなく、ただの書斎部屋にしか見えない。
最後にカンテラを持ったティナが部屋の扉を閉めたのを確認すると、マチルダは自身の服のポケットから小さな銀色の鍵を取り出した。
マチルダは大量の本が並ぶ本棚から、鍵穴の付いた分厚い背表紙の本を数センチ引き出してから、その鍵を差し込み、回した。
するとどういう仕組みなのか、本棚が軋み出し、やがてゆっくりと二つの本棚が左右へよけた。四人の前に本棚の下にあった床が現れる。
床には人一人が入れるほどの正方形の床下収納のような戸がある。そして、その戸の中央にも先ほどと同じ様な小さな鍵穴があった。
次にマチルダは金色の鍵を取り出し、その鍵を開けた。そして取手を掴み、戸を上側に引っ張ると、下には地下に続く石造りの階段があった。
ティナがその階段をカンテラで照らして言う。
「さ、行きましょ」
かずさ達は困惑しながらも、カンテラを持って先に入ったマチルダを追って地下空間へと降りて行く。
最後に入ったティナが戸を閉じると地上から本棚が再び動く音が聞こえた。
地下室への扉を元のように隠しているらしい。
「ど、どうなってるんだ......」
階段を下りながら思わず声が出たハンスに、ティナは笑顔で答える。
「我が家のトップシークレットよ」
王家の極秘技術と言われればそれ以上話に踏み込めない。ティナは一応連邦国二大勢力の由緒正しい王家のお姫様だ。有事の為に、このような場所を設けているのだろう。
ハンスはうるさい幼馴染が好きそうな仕掛けだ、などと思いながら地下へと進んでいく。
階段はそこまでの長くなく、すぐに突き当たりの地下室へとただりついた。
マチルダがカンテラで部屋を照らし出す。
階段の左手に広がったその空間はトロックナーの貯蔵庫ほど広くはないが、20人ほどは余裕で入れるほどの空間がある。
中に家具などは無く、ただ土壁の空間だけが広がっている。
土壁でできたその空間は、高さも十分あり、確かにここでなら剣を振り回して練習できそうだ。
マチルダはすぐに両壁に備え付けてある松明に火をつけ部屋を明るくしていく。
ティナは地下室に既に置いてあったヘルケから受け取った荷物の布を解いてかずさに言う。
「かずさ、これさっそくつけてみて」
「う、うん」
呆気に取られて地下室を見ていたかずさはその声を聞いてすぐにティナの元へと行く。
そして、かずさはティナに助けてもらいながら、慣れない西方のシルバーに輝く防具を装備していく。決闘では受けた傷も名誉だとされている為、防具は最低限学生の命を守るための鎧兜と甲胸だけだ。
甲胸はわりとサイズに合っていたが、鎧兜の方はしっかりかつらを被り、その上から頭に被るもサイズが大きく、どうしても前にずれ落ちてしまう。
「う~ん、ちょっと見えづらいな~」
かずさは傾く兜を手で抑えてティナに言う。
少し考えてティナは答える。
「手拭いか何かで頭の周りを巻いたらいいかもしれないわ。マチルダ」
「は、ここに」
マチルダは呼ばれるとすぐにティナの横に現れた。その手の上には白い手拭いが。
それを見て、かずさはなぜマチルダはいつも拭く物を持っているのだろう、と兜の下で疑問に思った。
かずさは兜を一度脱ぎ、ティナから手拭いを巻きつけてもらってからもう一度兜をかぶった。すると今度はずれ落ちることなく被ることができた。
「あ、よく見える大丈夫そう!」
かずさの声にティナは頷く。
「よかったわ。当日はフィンの服を着てもらうけれど今日のところはこれでやってみましょうか」
女性服に鎧とは、多少不恰好だがあくまで練習だ。誰もそれを気に留めなかった。
マチルダはかずさに西の国々で時折見られる特徴的な剣を差し出す。
かずさが今まで握ったことのない、細長いまっすぐ伸びた刀身、柄の部分は少し曲がり、その周囲を覆うように厚布の青と白のカバーがかけられている。何とも洒落た剣だ。
受け取ったかずさは数回その場で剣を振ると、なるほど、と一人納得した。
ハンスは離れた場所で一人、壁に背を預けてその様子を見ていた。
マチルダは部屋の中央に行き、かずさに言った。
「私が練習のお相手をいたします。よろしくお願いします」
かずさはマチルダをかなりの実力者だと認識していたため、納得の人選だ。
かずさは、頷いて向かい側に立つ。
「わかりました。こちらこそよろしくお願いします」
位置に着いた二人の間に立ち、ティナはかずさを見て言う。
「かずさ、あなた勝ってはだめよ」
それを聞いたかずさは思わず声を上げる。
「え?!なんで?!決闘でしょ?!」
かずさの驚いた様子に苦笑してティナは答える。
「気持ちはわかるけど、今回はフィンの代役なのよ。勝ったら逆恨みにレオポルトから何されるか分かったものじゃないわ。そしてこの決闘は基本的にどちらかが傷を負わないと終わらない。だから今回はうまく負けるの。服だけを切らせて、審判に怪我をしたと判断させれば、あいつの勝ちになる。審判もあいつを負けさせたくないからどうせすぐそう判断するわ。万事解決よ」
それを聞いたかずさは鎧の下で不満気だ。
「それだと、何も仕返しできないよ......」
かずさの発言にティナは思わず吹き出す。
「難しいとかではなくて、そこが問題なのね。気持ちはわかるけれど、でも攻撃してはだめよ。ある程度剣を交えると、定期的に止めの号令がかかるから、それを三ターンでもして負ければ上出来じゃないかしら」
妙に詳しいティナにかずさは不思議に思う。
「ティナはなんでそんなに詳しいの」
聞くとティナは口に人差し指を当ててニコリと笑う。
「好奇心で偶に変装して見に行ってるもの」
イタズラっぽく笑うティナに、かずさも思わず笑ってしまった。
ティナはかずさ達から少し離れると声をかける。
「今日はその防具と剣に慣れてもらうわ。かずさ、あなたなら慣れるのにもそう時間はかからないと思うけれど、なにかあったら言って」
「わかった!」
返事をしたかずさは目の前のマチルダに剣を構える。
マチルダもかずさに剣を構え、二人の視線が交わる。
久しぶりに感じる緊張感だ。故郷の父との稽古を思い起こさせる。
二人は合図もなく剣を交え始めた。
次回は土曜日に投稿予定です!8月中には決闘させるつもりです!!




