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決闘練習①

 かずさがティナ達との用事を終えて食堂に戻ってくると、ハンスは一人キッチンで仕込みのために具材を切っていた。

 キッチン奥の厨房からはレッカーとエレナの楽し気な会話が聞こえてくる。

 

 さっそくかずさは閉店後ティナの家に行く件を伝えるべく、キッチン前のカウンター席に手をかけてハンスに話しかける。

 ハンスは近づいてきたかずさに一度手を止めて話を待った。

「ハンス、今日夜営業が終わったら例の件でティナ達の家に来るように言われたんだけど、大丈夫かな」

 ティナの話だと分かると、再び視線をまな板に戻し食材を切り始めるハンス。

「わかった。仕事の後だな。明日からオレ達休みだし別に問題ない」

 ハンスのそっけない口調にかずさは素朴な疑問を投げかける。

「......ハンスってティナの事嫌いなの?」

 かずさの純粋なその質問に何故か、若干の苛立ちを覚えながらハンスは答える。

「......嫌いってわけじゃない。ただ納得していないだけだ」

 決闘の代役は決まってしまった事、それ自体はもうどうしようもない。一度は受け入れた。

 でもだからといって、このままはいそうですか、とティナの指示に従って大切な人を矢面に立たせる事はしたくない。

「そっか......」

 かずさはそれだけ答えると、荷物を置きに奥の部屋へと入って行った。


 ハンスはかずさが消えた扉を見ると、深いため息とともに頭を振る。

 一体誰のためにここまで気を揉んでいると思っているのか。

 彼女が自分にとって大切な存在だということを今は、伝えるつもりはない。が、少しは心配する気持ちはわかってほしいものだと、ハンスは一人苦悩する。



 連日盛況な大衆食堂『レッカーハウス』。

 明日、明後日が休業日だという旨の張り紙を店の扉に貼り、エレナとかずさからも接客中に口頭で伝えた。

 常連客はもちろん残念がったが、多くの客は快く受け入れた。


 夜営業の片付けを終え、ハンスとかずさは店を出る前にキッチンにいるレッカーと客席のソファーに座り、売り上げの計算をしているエレナに声をかける。

「レッカーさん、エレナさんお先に失礼します」

「お疲れさまでした」

 その声に店主二人は顔を上げると二人に向かって言った。

「おう、お疲れさん」

「また明々後日にね~」

 手を振るレッカー達に笑顔を返し、二人は店を後にした。


 かずさ案内の元、二人は広場を突っ切って城の方向へと並んで歩いていく。

 向かっている最中かずさは少し険しい表情をするハンスの顔を覗き込んで言う。

「今回の件だけど......確かに提案したのはティナだけど、やるって決めたのは私だからね」

 今回の件、ハンスに何も相談せずに決めてしまったことで、ハンスが何かしら不満に、そして心配に思っている事は多少なりともわかっていた。

 だからこそかずさはあえて、念を押した。

 

 この決断は誰の責任でも無く、自分自身の決断であると。仮に何か起こったとしてもそれは自分の責任だとーー。

 その言葉を聞いたハンスは大きなため息を吐くと答える。

「......わかってる......」

 その言葉を信じつつも、未だに引っ掛かるハンスの態度にかずさはこのままティナと会わせて大丈夫なのかと少し心配になる。


 そうこうしているうちに二人は外壁が魚のうろこのような造りをした家の前に着いた。

 ハンスは家の前に立って言う。

「ここが?」

「そうだよ」

 かずさはハンスにそう返すと、家の扉をノックした。


 程なくして中から栗毛くせっ毛の侍女、マチルダが出てきた。

「お待ちしておりました。どうぞ中へ」


 促されるまま中に入った二人はリビングの中央のテーブルにいる赤髪の女子学生を見つける。

 格好は淡いピンク色の質素なワンピース姿だが、いつものように分厚い参考書とノートを開いてさらさらとノートに書き留めている。

 少しすると書き終えたのか、ペンをテーブルに置いて、ティナは専門書をぱたりと閉じた。

「お待たせしてごめんなさい、二人とも」

 その強い意志の宿った緑の瞳を二人に向けた。



次回は水曜までには投稿予定です。第二章ここからクライマックスにむけて徐々に加速します!

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