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ティナの友人たち

 夜営業開店後、程なくしてかずさの着物の噂が広まったのか、学生客が続々と入店してきた。

 その中に、ヘンリーとフィンの姿もあった。


 二人はエレナが案内したキッチン前のカウンター席に座ると、壁に掲げてあったメニュー表を見た。


 しばらくして、かずさが注文を取りに来た。

「あ、ヘンリーさんとフィンさん。さっきぶりですね」

 かずさは二人に笑顔を向けた。

 ヘンリーは例にもれず、ハウッと腹を殴られたような声を出す。

 フィンはその隣でかずさを振り返ると、笑って言った。

「は、はい。ボボ、ボクがき、来たことなかったので、ヘンリーにつ、つれてきてもらいました」

「来たことないって言うから連れてきました」

 照れた顔で言うヘンリー。

 かずさはそれを聞いて、にこりと笑顔を作ると二人に言った。

「ありがとうございます。ゆっくりして行ってくださいね。ご注文伺います」



 二人はかずさに注文すると雑談を始めた。

「それにしてもクリスティーナ嬢はさすがだな。解決作をすぐに思いつくとは」

「う......うん、さすがだよ。成績だっていつも一番で......頑固な教授も舌を巻くほどだもん」

 手を動かしながら二人の話をキッチンで聞いていたハンスは会話に入る。

「ソフィーさんも言ってましたけど、本当に努力の人なんですね」

 その言葉にヘンリーは頷く。

「うん。彼女は、人の何倍も努力していると思う。僕だってそりゃしっかりやってるさ、それでも彼女には及ばない」

 フィンも頷いて言う。

「だ......だから、僕たちはそんな彼女を尊敬しているんだけど......」

「あのツンツン髪の人ですか......」

 ハンスがレオポルトを思い浮かべながら言った。


 二人は表情を暗くして頷いた。

「うん......どれだけ僕たちが彼女はすごいって言っても絶対に認めない。それどころか最近では嫌がらせはエスカレートしていってて......」

 ハンスも眉をひそめながら尋ねる。

「何がそんなに気に入らないんですか?」

 ヘンリーは肩を潜めながら答えた。

「わからないよ。権力を傘にしやがって......とかしか言わないからね」

「そりゃ謎だ」

 ハンスが言うと同時にかずさが最初に注文した飲み物を持って二人の横から現れた。

「お待たせしました。お飲み物のビールとワインです」

 その元気な声にヘンリーの顔が一気に緩み、それを見たハンスの眉間にも一気に皺が寄った。




  閉店作業も終わり、片付けも終えかずさは着物から普段着に着替える。

  脱ぐのは少し名残惜しいが、また着る機会があるとか思うと楽しみだ。

  だが、あの”ミコ”の衣装だけは絶対に嫌だと思うかずさ。


  普段着の薄い桃色の伝統服を着て、かずさはハンスと一緒に店を出る。


 日中は暖かいが、日が落ちた夜は一気にぐんっと冷える。

 

 ハンスは昨日同様身体を縮ませて歩いていた。

 かずさはもともと寒さにも強く、歩きながら寒そうなハンスを見て少し心配していた。


 ハンスの足が寒さで無意識に早まっているのも相まって二人はいつの間にか橋の前の門まで来ていた。


 かずさは歩きながら尋ねる。

「ハンス、寒い?」

「ちょっとな......でも問題ない」

 かずさはしばらく考えると、ハンスにある提案をする。

「手、握ろっか?」

「は?!」

 想い人の唐突な提案にハンスは思わず声を上げる。

「私の手温かいし、ハンスも手だけでも温かくなれば違うかなって......」

 かずさは至極純粋にハンスのためを思って提案したが、ハンスからすればそれはある意味とんでもない提案だ。

 しかし、そんな好きな人の魅力的な提案を断る理由もない。

「ア、アンタがどうしてもって言うなら......」

 などと言いながらハンスはポケットから片手を出してかずさの前に出す。

 

 緊張してか、ハンスの耳には自分の心臓の音だけしか聞こえなくなる。


 かずさはその差し出された手をそっと両手で握るとハンスに蒼い瞳を向け尋ねる。

「どう?」

 そのあまりに胸打つ光景と手の暖かさに、ハンスは絶句する。

 

 そして何かを言おうと口を開いたその時ーー、


「ブプ」


 どこからか小馬鹿にしたような笑いが聞こえた。

 バッと声がした方を見ると、そこにはやばいという顔をしながらも、にやけているロレンスがいた。

 夜勤務中のロレンスは若者の青春を優しい眼差しで見つめている同年代の同僚と共に此方(こちら)を見ていた。


「なっ......」

 顔なじみに見られていたのが途端に恥ずかしくなったハンスはすぐに手を引っ込めた。

 それを見たロレンスは笑って言う。

「悪いハンス、邪魔しちゃったな」

「じゃ、邪魔とかじゃないですけどっ。ではまたっ」

 ハンスは恥ずかしくて俯きながら足早に門を抜ける。

 そんなハンスにかずさも続く。

「ちょ、ハンス?!ロレンスさん!おやすみなさいっ」

「おう、おやすみ~」

 かずさは小走りになって追いついてからハンスと並んで歩く。


 そんな二人を温かい目で見つめる中年たちは何か良いものを見た気持ちになる。

「青春だなぁ~」

「青春だねぇ~」


 ハンスとかずさは橋を渡り、静かな夜の街へと消えて行った。

ハンス、バカめ......ニヤリ。


と、次回は明日に投稿します!よろしくお願いします!

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