代役?!
すみません、19時投稿予定でしたが、出来ちゃったのでもうあげます!!遅いよりかはいいですからね!
午後の営業を終え、ハンスとかずさは約束通りティナの家に向かうべく広場の方へと歩いていく。
二人は買い出しも練習もなく都合よく暇を貰えた。
「あまり離れてないって言ってたが、こっちで合ってるんだよな」
「うん、城の方向にもう少し歩くよ」
二人は方向を確認して進む。
普段は目立つことを嫌うかずさだが、今回着物という特別目立つ格好をしているにも関わらず、全く気にしていない様だ。
故郷の服を着られて嬉しいからか、寧ろ注目されて誇らし気ですらある。
一方のハンスも周囲の視線など気にせず思いに耽っていた。
一緒に過ごす事で募っていく思いを持て余してどうしたものかと悩むハンス。
会話中何度もかずさと目が合う度に胸が締め付けられ、これはもう受け入れていくしかないな、などと一旦結論づける。
二人は広場に差し掛かると、ベンチに座っている二人組の学生の前を通り過ぎる。
学生らは何やら、深刻そうに話し込んでいる。
一人は見るからに気弱そうな、かずさとほぼ同じ背格好の少年だ。
シャツにセーター、紺色のスラックスと典型的な学生の恰好をしている。くせの強い栗毛はティナの侍女、マチルダと似ているが青い目には分厚い眼鏡がかけられている。
彼はほぼ半泣きで声を震わせていた。
「ヘンリー......ボク、もう駄目だよぉ......殺されちゃうよぉ......」
「諦めるな、フィン。大丈夫だ。どうにか切り抜けよう」
その気弱な学生に声をかけているのは、店で見たことのある茶髪の青年だ。似た格好をした見るからに優等生な好青年といった感じの彼は、隣にいる小柄な学生を必死に励ましている。
『殺される』という何やら物騒な言葉に、かずさはその場でピタッと立ち止まる。
突然立ち止まったかずさを振り返ったハンスは嫌な予感がした。
ーーまさか、また首突っ込むんじゃ......。
ハンスの予想は果たして、的中した。
かずさは二人に近づくと、話しかける。
「どうしたんですか」
声をかけられたベンチに座る二人は突然目の前に現れた影の主を見上げた。
茶髪の少年はかずさを見た瞬間、ハウッと腹を殴られたような声を出した。
「か、か、かずささん......ど、どうしてここに......」
問われたかずさも、青年の顔を見て驚く。
「あ、いつも来てくれる常連さんですね。えっと......」
頬を赤く染めた青年は丁寧な口調でかずさに名乗る。
「ヘンリーと言います。ええ、この間声をかけた者です。いつも店ではお世話になっています」
「ああ、やっぱり」
にっこりとしたかずさに、茶髪の青年は再びハウッと鳴いた。
「あ、それにしても、綺麗な服ですね......すごく似合ってます。もしかして、故郷の......?」
自慢の着物について褒められて、かずさは嬉しくなって思わず着物紹介をしてしまうーー、
「そうなんです!この絵柄は故郷の花が描かれていてーー」
が、楽し気に話すかずさの話を遮るようにハンスは咳ばらいをした。
すっかり話が脱線していた二人が、ハッとする。
「で、ヘンリーさん?何かあったんですか」
かずさに熱い眼差しを送る青年に、自分と同じものを感じたハンスは不愛想に尋ねるも、彼はまったく意に返さない様子で年下のハンスにも敬語で答える。
その態度には妙な余裕があった。
「ああ、君は、かずささんの同僚の......。ええ、実は彼、フィンって言うんですけど、数日後に決闘することになりまして.....決闘自体はいいんですが、その相手が少し厄介で......」
かずさ、ハンス、フィン、ヘンリーの順番で一同はベンチに座り話しを始めた。
話の内容はこうだ。
この学園には伝統的な学生決闘が定期的に行われており、すべての男子生徒に参加義務が課せられている。そして、その決闘相手は大学が運営する決闘委員会により、ランダムで決められる。
しかし、今回フィンの決闘相手になったのが相手を次々と病棟送りにしている、レオポルトという生徒らしい。
レオポルトは別州、ヴァイスファーネ州を統括する貴族の息子だ。並みの貴族はもとより、平民はその階級差ゆえに、レオポルト相手の決闘では誰も手出しができない。
さらに、レオポルトは剣の才があるらしく、それなりに強いらしい。抵抗できない相手をわざと腹いせに甚振り、最後には重症の傷を負わせるのが常らしい。
憂さ晴らしのためなのか彼はよく決闘をするが、その委員会に手先が紛れているらしく、いつも決闘相手が非力な下級貴族以下ばかりが選ばれるという。
そして今回選ばれたのが、平民出身の医者の息子であるフィンらしい。
「わあああ!もう、ダメだ.....!ボクは剣なんてまったくできないし、腕を切られて死ぬんだぁあ!」
フィンはその場で頭を抱えて絶望する。
事態は思ったより深刻だった。
事情を聞いたハンスが申し訳ないが何も力になれない、と断りを入れようとした時、
「あなた達何してるのよ」
凛とした声が一同にかけられる。
石畳にヒール履を高鳴らせ目の前に立っていたのは、これから訪ねようとしていた赤髪の女子学生、ティナとその侍女マチルダだった。
一同は突然の大貴族お嬢様の出現に驚く。
いち早く口を開いたのはヘンリーだった。
彼は、国で一、二を争うほどの権力を持つ王族のティナなら何か打開策があるのかもしれないと考えた。
「クリスティーナ嬢。聞いてくれ」
「なるほどね......心底ゲス野郎ね、あいつは......」
立ったまま事情を聞いたティナは苦虫を嚙み潰したような顔をして呟いた。
知っているかのような口ぶりに、かずさは尋ねる。
「ティナ、知ってるの?」
ため息をつくとティナはかずさを見て答える。
「知っているも何も、この間私の胸倉を掴んでた奴よ......もともとクズだとは思っていたけれど、どうやら真性のド屑だったようね......」
かずさ達は、あの時いた意地悪な金髪のツンツン髪の男子学生を思い出す。
「それで、大貴族でもある君は、何か打開策とか思い浮かばないかい?」
ヘンリーの問いに、隣に座るフィンも涙目でうんうん、と激しく頷く。
「打開策って......」
ティナは顎に手をあてると考えを巡らせる。
一同を見下ろすと、ふとかずさに目を止めた。
するといきなりかずさをベンチから引っ張って立ち上がらせ、残りの三人から離れた場所に行く。
引っ張られたかずさは何事かと思いながらも、ついていく。
離れた二人の後姿を見て、ハンスはまたも嫌な予感がした。
ティナは三人から離れるとベンチ組に背を向け、小声で話し出した。
「あなた......何とかできない?」
「何とかって言うと......?]
かずさの頭に疑問符が浮かぶ。
「代役としてあなたが決闘に出れないかってこと」
「そんなっ」
かずさは思わず声が大きくなってしまった。
ベンチにいる三人の視線が一斉にこちらに向けられ、かずさは再び小声になる。
「そんな事可能なの?」
ティナは頷いて答える。
「可能よ。学生決闘は規則として鎧兜と胸甲の着用が義務付けられてるのよ。しっかり準備すれば成り代わるのも不可能じゃないわ。見たところフィンとあなたは背格好同じくらいだし」
「で、でも......」
「あなた、フィンが指とか片腕とか落とされても良いの?あいつ......レオポルトの奴はそういう事平気でやってきたわよ」
ティナの心底不快そうな表情に、かずさは息を飲む。
かずさも旅のさなか少なからず戦って、敵を撃退してきたが、まだそこまで負傷させた事はない。
人を傷つける事は常人であれば不快になり、精神をひどく消耗するはずだ。
しかし、レオポルトは嬉々としてそれを行うという。
フィンの腕が飛ぶ姿を想像し、かずさは青ざめる。
ここまで聞いてしまったら、かずさはもう引けない。
かずさは決意のこもった目でティナを見て頷く。
それを見てティナも頷き返す。
「あなたを危険な状況に送り出すんだから、全力でバレないようにサポートするわ。あなたの安全は保障する、絶対によ」
ティナの力強い言葉に、かずさはもう一度頷いた。
「うん、わかった」
「ごめんなさいね、私の思いつきにつき合わせて」
申し訳なさそうに眉を下げてティナは言った。
二人は密談を終えると、ベンチで待っている三人の元に戻った。
ティナは腰に手を当てて言う。
「私に伝手があるわ。どうにかしてあげる」
その言葉に、ヘンリーとファンの表情はパッと明るくなり、歓喜の声を上げた。
「本当かい?!」
「や、やったぁぁぁあ……」
フィンは今までよっぽど不安だったのか、安心して泣き出してしまった。
そのフィンを、優し気に見つめるかずさ。
しかし、そのかずさにハンスは抗議の鋭い視線を送った。
視線に気づいたかずさは気まずさでハンスの方を向けない。
ティナはフィンに尋ねる。
「決闘はいつなの」
「み、三日後......だよ。間に合う?」
泣き止んだフィンはまた不安そうに聞き返す。
「問題ないわ、フィン。任せなさい」
頼りがいのある強い眼差しでティナは答えた。
「今日は皆授業もあるだろうし、ここで解散。フィンとヘンリーは三日後にまた会いましょ。後日また連絡するわ。私も今日は講義があるからここでお暇させてもらうけど、かずさとハンスさんは明日から準備を始めるから、そのつもりで。じゃ」
「おい、待っ...」
呼び止める間もなく、学生マントと長い赤髪を翻してティナはずっと控えていたマチルダと足早に大学の講堂へと向かって行った。
ティナの後姿を見てハンスはつぶやく。
「クソ......」
危険な目に合わせないようにするために、ティナと話そうとしたのにさっそく事件が起こってしまった。ハンスは無力な自分に苛つ。
深呼吸して落ち着くと、ハンスはかずさに半目で視線を送った。
「おい......」
かずさは目の前に立ちながらも、ハンスのその低い声に縮こまる。
「ご、ごめんなさいっ......でも、見捨てられないよ……」
かずさもハンスが自分を心配している事はわかっているため、自ら招いてしまった事態に申し訳なく思う。
かずさは恐る恐るハンスを見る。
「ハァ~~~.......」
ハンスはかつてなく長いため息をつくと、頭をかいた。
その反応にかずさはさすがに呆れられたと、落ち込む。
「わかった......わかったよ。仕方ないっ!決まってしまったもんわ!」
「え」
若干やけくそ気味だが、意外にも理解を示してくれたことに驚いたかずさは顔を上げた。
「仕方なく、だからな!これが最後だぞ!」
その言葉にかずさ忽ち笑顔になって答える。
「うんっ」
ハンスはそのキラキラ輝く笑顔を見て、
ーーほんと、オレ、コイツに弱いな......これが惚れた弱みか......。
などと内心ひとりごちる。
一連のやり取りにこの小柄な少女が代役を務めるとは露ほども思っていない学生二人は首を傾げた。
そう、このエピソードはテレビでドイツの学生決闘を知った時からずっと書きたかったんですっ!
Mensurメンズ―アといって、傷が入るまで切りあってたらしい...。実際はゴーグルしかつけてないし、至近距離で動かずにお互い刀を振ってるのでなかなか怖いですよ(笑)より深い傷の方が勲章としてたたえられたらしい......昔の大学出身エリートは顔に深い刀傷があった人もいたらしいですね~、と豆知識でした(笑)
次回は少しお休みをいただいて、金曜→土曜の0時に投稿予定です。よろしくお願いします。




