ハンスの不安
ep32、祭りの後③にて、急にロビンの階段から上る場面になっていましたが、もともと私が張り付け忘れたのか、編集のどっかのタイミングで消してしまったのか、冒頭部分が抜けてました。
すでに修正しましたので、ご興味のある方はご覧ください。筆者、本当におっちょこちょいなもので......。
夜も深まった午後11時前。ハンスは一人家の前に立っていた。
扉の取手に手を掛けては引っ込めてを繰り返し、しまいには思わず屈んでしまった。
先ほどハンスは自身がかずさ向けている感情を自覚した。
それは、魅力的な相手に対して誰もが持つ、ありふれた、しかし特別な感情でーー。
まさか、自分がそんな感情を抱くなんて思ってもみなかった。
そしてその相手と一つ屋根の下で暮らしている現状に数日前の自分を恨みながら、ハンスは頭を抱える。
とはいえ、しばらくはこのまま暮らさないといけない。
ーーしばらく......いや、もしかしたら一生暮らしたりして......。
意図せず浮かれた妄想を繰り広げ、ハンスは勝手に未来を想像する。
それも良いなあ、などと思ったのもつかの間、ハンスは頭を振って思考を現実に戻した。
自分が、この感情に流されてはいけない。これはハンスの一方的な感情なのだ。そう一方的なーー、
ーーオレ、片思いしてるんだ......。
ハンスはそう考えると、少し冷静になれた。
立ち上がって大きく深呼吸をすると、静かに入り口の扉を開けた。そして、中で寝ているであろうかずさに配慮して静かに家の中に入る。
室内は外から入る月明かりが差し込むだけで、薄暗い。
予想外にも、かずさはハンスの部屋の椅子に座り、テーブルの上に頭を乗せ静かな寝息を立てていた。
家に入るまで思い悩んでいたハンスはその姿に一気に毒気を抜かれる。
すやすやと気持ち良さそうに眠るかずさの顔に苦笑したハンスはこのままだと風邪を引くと思い、起こすために肩を揺らす。
「おい、起きろかずさ」
肩を揺らされたかずさは半目で頭を起こす。
「え......あ、ハンス...おかえり」
かずさはハンスを見ると まだ寝ぼけているのか、にへらと笑った。若干口からよだれが垂れていたが、その無防備な笑顔にハンスの胸がぎゅっと締め付けられる。
その感情に耐えられなくなって、ハンスはバンっと、自身の胸を叩いた。
鳴り響いた突然の胸を打つ音にかずさはびっくりして目が冴えた。
「え?!どうしたの、ハンス!」
「いや、何でもない......こっちの問題だ」
顔を逸らしてハンスは答えた。
その、顔を逸らした行動にかずさはまた悲しくなる。しかし、かずさはティナとベンチで話した時から決めていた。
ーー今、やらないと後悔すると思うから......。
かずさは真っすぐに真剣なまなざしでハンスを見つめた。
「ねえ、あの、ハンス。最近、ハンスは私の目を見て話してくれないよね......それは、やっぱりとっても悲しいから、ちゃんと、私の目をみてほしい......!」
真剣な蒼い眼差しを向けられたハンスは、反射で目を逸らしかけたが、すんでのところで堪えた。
自分の好きな人がこんなにお願いしているのに、自分のせいで悲しい気持ちにさせているのに、その願いを無下にはできない。
ハンスは騒ぐ胸を努めて落ち着かせながらかずさに答える。
「ごめん、悲しい思いさせて......。もう、逸らさない。約束する」
むしろもう逸らせない。
その言葉で、かずさは忽ち晴れやかな笑顔になった。
自分の言葉一つでこんなに笑顔になってくれるのか、とハンスは嬉しさで胸がいっぱいになる。
しかし如何せん、まだすぐには慣れない。
「でも、すまん、偶に休ませて」
そう言って、ハンスは顔を背けるとゼーハーゼーハーと横で少し荒い呼吸をした。
ーーほんっと、この気持ち......持たないっ!オレ、ちゃんとコイツと今まで通り過ごしていけるのか?
かずさはそんなハンスの悩みなどつゆ知らず、ただただ挙動のおかしいハンスを見て、心配していた。
次回は明日投稿予定です。ここから、二章のメインイベントに入って行きます。よろしくお願いします。




