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赤髪の女子学生⑥

 昨日は曇天だったが今日は気持ちの良い秋晴れだ。秋も少しずつ深まり、街中にも色づいた落ち葉が所々見られるようになった。

 かずさは昼営業を終えるとすぐにクリスティーナの元へと向かった。

 細い路地に入り、川辺に向けて歩いていく。川に近づくほどに、風が冷たくなっていくのを感じたが、路地を抜け、陽が差し明るくなると急に暖かくなった。

 川沿いの道を見渡すと、川向きにいくつかベンチが設置されている。

 その一つに、赤髪のツインテールと栗色くせ毛の女性二人の後ろ姿が見えた。

 かずさは、そのベンチへと向かう。

「すみません、クリスティーナ様。お待たせしました」

 クリスティーナはベンチで何やら分厚い専門書を開き、膝の上でノートにメモしている。

 かずさが声をかけるとクリスティーナはパタンと専門書とノートを閉じ、美しい緑の瞳をかずさに向けた。

「何も待ってないわ。こちらこそご足労かけてごめんなさいね」

 どうぞこちらへ、とマチルダがベンチの端に移動しクリスティーナとの間にかずさを座らせる。

 促されるままに座ったは良いものの、二人に挟まれ何だか居たたまれないかずさ。

 その様子に気づいたクリスティーナはマチルダに言う。

「マチルダ、これだとかずささんが委縮してしまうわ。ちょっと席を外してくれない」

「かしこまりました」

 すかさず返事をしたマチルダは立ち上がると、どこかへ行ってしまった。

 残されたかずさは何だか申し訳なくて謝る。

「すみません、気を使わせてしまいましたよね...」

「気にしないで。よく知らない人に挟まれたら、誰だって落ち着かないわよ。それにかずささんとは二人でゆっくり話したかったもの」

 意外な発言にかずさは首を傾げる。

「私と?」

 素っ頓狂な顔をするかずさにクリスティーナは笑顔で答える。

「そう、あなたと。あの時、あなたが一番に私を助けてくれたでしょ。ハンスさんもだけどあなたの方が先に手を伸ばした。女性で小柄なあなたが、あの状況で一番に止めに入ったのがすごくかっこいいなって思ったの」

 胸倉を掴まれ、持ち上げられた状態でよく見ていたな、とかずさは驚いた。そして、かっこいいと言われた事に少し照れて頭を掻きながら答える。

「いえ、私はあの場でクリスティーナ様が苦しんでるのを見ていられなくて...考え無しに出て行ってしまっただけです」

 クリスティーナは首を振る。

「だとしても、すごい勇気だと思うわ。本当にありがとう。それで、お礼の品なんだけど...」

 クリスティーナは懐から何やら大きな赤い宝石の着いたブローチを取り出した。金で作られたチェーンの部分も細工が凝っていて、見るからにかなり高価な一品だということがわかる。

「これ、ルビーなんだけど受け取ってくれないかしら。今、手持ちに価値のあるものがこれしかなくて...貰い物で悪いんだけれど」

 目の前できらびやかに赤く光るルビーを見て、こういった宝飾品に疎いかずさでもそれが相当な価値あるものだということがわかった。

「いや、いらないですっ。こんな高そうなもの受け取れませんっ」

 全力で拒否するかずさに、ルビーのブローチを片手にクリスティーナも迫る。

「いいえ、受け取ってもらわないと困るわ。あなたは私を助けてくれたんだから、それに見合った対価を渡したいの」

 尚も渋るかずさに更に顔を近づけてクリスティーナは言う。

「受け取りなさい。私の気がおさまらないの」

 この人、めちゃくちゃ強引な人だ!と迫りくるクリスティーナを前に必死に打開策がないか頭を回すかずさ。

 この高価すぎる対価を受け取らずに、どうすればクリスティーナの納得する形で収められるか。

 そして咄嗟に思いついたことを口にした。

「あ、あのっ、クリスティーナ様はお勉強が得意なのですよね」

 突然のかずさの問いにクリスティーナは困惑したように答える。

「?確かに勉強は好きだけど...それが何?」

「あの、私にこの国の文字を教えてくれませんか」

「へ、文字?」

 意外な提案に勢いを削がれたクリスティーナは迫るのをやめ、再びベンチに座り直す。

「はい、私東から来たので、ここら辺の文字をまだ覚えていなくて。大学に行くほど勉強が得意なクリスティーナ様なら、私にもわかりやすく教えてくれるんじゃ無いかな...と。もちろん、お時間に余裕がある時で構いません」

 とっさに考えたにしては我ながらいい案だ、とかずさは内心自画自賛する。

 クリスティーナはしばし考えるそぶりをしたが、困ったような顔でかずさに確認する。

「本当にそれでいいの?」

 かずさは全力で頷いた。

「はい、文字が読めるだけでもすっごく助かります。お店のメニューも読めるようになりますし、ぜひよろしくお願いしますっ」

 かずさの提案に納得したのか、クリスティーナはため息をつきながら苦笑する。

「宝石じゃなくて、文字の習得を選ぶなんて変わってるわね」

 笑っているクリスティーナは何だか嬉しそうだ。

 

 クリスティーナはかずさに目を向けると尋ねる。

「もしかして昨日あの後、ソフィーから私の事何か聞いたのかしら?私の呼び方も様をつけてるし」

 かずさは少し申し訳なさそうに肯定する。

「実は...はい、ソフィーさんから一通り聞きました」

「あの子勝手に...まあいいわ。じゃあ、その様付けも私がゲヴァルト家の者だから?」

「ハンスがお姫様だって言ってたので、一応...失礼の無いようにと」

 クリスティーナは再び考えるそぶりをすると一言。

「様づけも辞めて、私をティナと呼びなさい。私もあなたの事を呼び捨てにするわ。これで私たちは対等よ」

 いきなりの提案にかずさも驚く。

「へ?!いえでも、お姫様にーー」

「さもないと、このルビーをあなたの服にねじ込むわよ」

 不敵に笑う顔の横でルビーのブローチを揺らすクリスティーナにかずさは半泣きになりながら従わざるを得なかった。

「わかりましたぁ...ク…ティナ...」

「敬語も禁止」

「う...わかった..」

 よろしい、とティナは満足気に大きく頷いた。

「よろしくね、かずさ」


あと、1,2話でティナちゃんとの出会いのお話は終わります。もうしばしお付き合いください!

次の話は明日投稿予定です。よろしくお願いします。

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